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狩らないでください“狩人”さん!  作者: 良心の欠片
第1章 ドラゴンと人
15/48

15 虫と劇物



 宙を羽ばたく鋼鉄の毒牙。

 相対するは、満身創痍の狩人たち。


 麻痺毒にやられた仲間たちを、ギリギリの状態で守っている。

 

「もう……ここまでか」


 一人の狩人が片膝をつく。 

 横にいた狩人は、その仲間を庇うように前に立った。


「諦めるなッ!」


 ギチギチギチッ


 そんな彼らに向かって、複数の毒牙が迫りくる。

 構えようとした武器は、麻痺毒によって持ち上げられない。

 その事実に愕然とする。


「クッ!」


 四方からの攻撃に、彼らはとうとう目を閉じた。


 ポタポタッ


「「……?」」


 脳に伝達されたものは痛みや痺れではなかった。

 ただ、何かの液体が体に触れたのを感じた。

 

 ギュアアアアアアァア


「「!?」」


 襲ってきていたはずのケイディートルたちが、地面でのたうち回るっている。

 よく見ると、奴らの身体が所々溶けている。

 

 慌てて自分たちの身体を見てみるが、どこも溶けてはいない。


「この液体は一体……?」


 疑問は残るが、この勝機を逃す彼らではなかった。

 最後の力を振り絞り、弱体化したケイディートルたちに止めをさした。
















 一方、上空ではドラゴンの背で果汁を絞っている者がいた。


「くっ、果物を絞るのがこんなにも大変だとは……!」


 レオンが例の虫たちの真上に止まる。

 そこで、私が手にある果物を絞る。

 巨大なライチのような果物は、握るとツルツル滑る。


「……あ」


 ギュエアアアァァァァア


 絞りカスになった果物が虫に直撃する。

 その虫は羽や装甲の一部から煙を上げながら墜落した。


 そう、この実はあの虫たちにとって硫酸のようなものだった。


 道理でアランタの死体を持ち去らなかったわけだ。

 アランタたちはこの実を好んで食べているため、あの虫たちにとって劇物だったのだろう。


 異変に気付いた虫たちが次々と空にある黒い塊へと帰っている。

 奴らはこの果汁に怯えて帰っているらしい。

 違う場所からも逃げ帰っているところを見るに、あの虫たちには独自の連絡網があるようだ。おかげで、他の所でわざわざ果汁を撒かなくて済む。

 

 まあ、突然硫酸が空から降ってきたらビビるか。


 あの虫たちが撤退したのも、知能あってのこと。

 その知能のおかげで、まんまと逃げだしてくれたわけだ。


「よかった……」

 

 これ以上の策をもっていなかった私は安堵の息を吐く。

 手元にある果物も、残りわずかだった。


 例の瀕死状態の狩人たちは無事だろうか。

 そう思い、彼らがいる場所の近くに降りる。

 レオンにその場に待機するよう伝え、一人で森の中を歩く。


 ギュエエエエエエェェ


「!?」


 突然の断末魔が空に響き渡る。

 木々がひらけた場所に行き、空を見上げる。

 

 空では、黒い塊から次々と墜落する虫たちの姿があった。


 あそこでは果汁を撒いていない。

 それなのにどうして、あの虫たちは落ちていっているのか。


「……人?」


 何かが宙を飛ぶ虫たちの背を蹴っているのが見えた。

 遠目で誰かわからないが、おそらくあれは人だ。


 さらに、黒い塊に向かって何かが飛んできている。

 おそらく、あれは矢や石……いや岩だ。


「すごい……」

 

 あれが“狩り”。

 狩人とは、あんなにも人間離れした力をもっているのか。


(レオンに倒してもらわなくてよかった……)


 あの虫たちを直接倒してもらっていたら、きっとあの狩人たちはあのドラゴンに気づいてしまっていただろう。解決できるのなら、自力でしてもらうのが一番だ。


(……戻ろう)


 黒い塊がどんどん小さくなっていく様を見届け、私はレオンの所へ向かった。






























「だーかーらッ!謎の液体が降ってきたんだよ!」


「はいはい、傷に障るから大人しくしろ」


「本当なんだよ!」


 結果から言うと、あの瀕死の狩人たちは無事だった。

 麻痺で一日動けない人もいるが、亡くなった人はいなかった。

 今も元気に騒いでいる。


「全く、うるさい奴らだよね」


「デイルさん」


 荷馬車の傍から様子を窺っていると、近くに彼がやって来た。

 焚火から離れたこの場所は、少し薄暗い。

 彼の表情は見えにくかったが、嬉しそうなのは伝わって来た。


「……彼らが無事でよかったです」


「そう?」


 素直に無事でよかったと言えない彼は、実は天邪鬼なのかもしれない。

 なんでもそつなくこなせそうな彼の意外な面を見た気がした。


「あっ、ほら見て。あれが今回の功労者」


 デイルさんが指差した先は、多くの人が集まっている焚火の方だった。

 その中心的な人物を示しているようだ。


「!」


 そんな賑やかな焚火の真ん中に、狩人さんがいた。

 いろんな人からお酒をかけられている彼は、人を殺しそうな目をしている。


「……あれ、お祝いしてるんですよね?」


「うん」


 デイルさんは肯定しているが、当の本人は祝われているように思ってなさそう。

 あっ、一人が背負い投げされた。


「あいつ一人で、百匹以上のケイディートルを倒したんだ」


「宙にいたアレを?」


「うん、バッサバッサと」


 どうやら黒い塊の中を飛び回ってた人は、狩人さんだったらしい。

 人間が空中で戦っているのも信じられないし、狩人さんの身体能力も信じられない。


(人って空で戦えるんだ……)


 異次元的な強さに恐れおののいていると、焚火の方で大乱闘が始まった。

 ……なぜ皆、主役の狩人さんに戦いを挑んでいるんだろう。


「……もう一度聞きますけど、あれお祝いしてるんですか?」


「うん!」


 元気な肯定に、狩人の祝い方はわからないなと首を横に振った。

 









 その後、デイルさんと話していた私は気づかなかった。

 ……狩人さんがじっとこちらを見ていたことを。


 そして、彼のその視線に気づいていた数人の狩人たちがほくそ笑んでいたことも。







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