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狩らないでください“狩人”さん!  作者: 良心の欠片
第1章 ドラゴンと人
14/48

14 宙を舞う毒牙



「今日はアランタ狩りだ!」


「「「ウオオォォ!!!」」」


 リーダーの声と共に、雄叫びが上がる。

 ちなみにアランタとは、私を以前追いかけてきたサルのモンスターのことだ。

 そのアランタ、実は毛皮が超高級で狩り甲斐のあるモンスターらしい。

 

「ここら辺でアランタの目撃情報があった。野郎ども!準備はいいか!」


「行くぜ!」

「オレが先だ!」

「抜け駆けすんなッ!」


「って、もう聞いてないか」


 リーダーは頭を掻きながら、走り去っていく狩人たちを眺める。

 残ったのは狩人さんと、数人の狩人たちだけだった。


 狩人さんに「行かなくていいのか」と問うと、ただ「行かない」という答えのみが返ってきた。……周囲にいた狩人の目が信じられないものを見るように狩人さんを見ていたが、本当に大丈夫だったのだろうか。


 残った私は、マーロウの観察をしていた。

 他の狩人たちは、各々がしたいことをしていた。

 狩人さんは自分の双剣を磨いていた。


 すると、木の根に座っていた私の隣に誰かが座った。


「!?」


 気配もなく近くにいた存在に、全身が震える。


「あはは!僕だよ、僕」


 落ち着いて見ると、横に座っているのはデイルさんだった。

 相変わらずキラキラした顔面をしている。

 

「……こんにちは」


 よく知らない人が隣に座っている状態に気まずくなり、フードを被る。

 少し暗くなった視界に、安心感を覚える。


「驚かせてごめんね?」


「いえ……」


 わざわざ顔を覗き込んでこなくてもいいのではないだろうか。

 近くにある王子様フェイスに、目が潰れそうになる。


 目を細めていると、光源が目の前から消えた。


「ん?」


「痛い痛いっ!」


 デイルさんの悲鳴が聞こえ、慌てて横を向く。


「……わお」


 隣では、狩人さんがデイルさんを木に押さえつけていた。

 デイルさんの後頭部が気にめり込んでいる気がする。

 私はそっと視線を逸らし、腰を静かにあげた。


「待って!置いてかないで!」


 外套を掴まれ、体が後ろに下がる。

 放すんだ!私を巻き込むんじゃない!


「手を放せ」


「お前の方がなっ!」


(いやこっちの手を放して?!)


 狩人さんがデイルさんの顔を掴み、デイルさんが私の外套を掴んでいる。

 これが所謂、三角関係というやつか。


 グイッ 


「うわっ!」


 外套が強く引っ張られ、後ろに倒れ込む。

 木の根に殴打すると身構えた体は、思ったよりも固くないものの上に着地した。


「ん?」


「おっとしまった」


「…………」


 目を開けると、デイルさんの顔が眼前にあった。

 下を見ると、自分が彼の膝の上に座っていることが分かった。

 そして、自分の両手が彼の胸に置かれていることを一拍おいて気づく。


「す、すすすみませんっ!」


「いやいや、役得だよ~」


「…………」


 後ろから謎の圧を感じ、急いで振り返る。

 そして、すぐにデイルさんの方に視線を戻す。


「な、なんかキレてますか?!」


 異常な雰囲気を醸し出している狩人さんから全力で目を逸らし、目の前にいるデイルさんに問いかける。彼はニコニコしたまま、何も答えない。

 

 いや、デイルさん!腰に手を回してる場合じゃないから!


 グイッ


「うわ!」


 両脇に手を入れられ、私はクレーンゲームの商品になった気分を味わう。

 そして、すっと地面の上に降ろされた。

 言わずもがな、狩人さんの仕業だ。

 私は一体なにに巻き込まれているのだろうか。


 彼は私がしっかりと立ったことを確認した後、デイルさんの方を見た。


「武器を持て」


「え~、その子ともっと遊びたいのに」


「…………」


 シャキン


 いつの間にか抜かれていた双剣の一方が、デイルさんの首をとらえる。

 危ないと思った瞬間、その刃が弾かれていた。


 キンッ


「剣先は人に向けちゃいけないって教えられなかったのか?」


 立ち上がっているデイルさんの手には、重厚なナックルが装備されいてた。

 ……いつの間に装着したのだろう。 


「お前は人に含まれない」


「ひっど!」


 彼らは軽い言い合いをしながら、激しく武器を交える。

 そして、目に負えないスピードで森の方へと消えていった。


 彼らが森へ消えていった後。

 私はまた木の根元に座って、木に繋がれたマーロウを眺めていた。


























 暫く時間が経ち、マーロウの観察に飽きた時だった。




 キイイイイイィィィイッ!


「……ッ!」


 金属を摺り合わせたような嫌な音が響き渡る。

 その音に耳を塞いでいると、周囲にいた狩人たちが一斉に音の方向へと走っていった。


 ある一人の狩人は目を白黒させている私に、荷馬車の中に隠れるよう指示した。


 言いつけ通り、私は急いで荷馬車の中に隠れた。

 しかし、どうしても外の様子が気になった私は荷馬車から外を覗いた。

 そして、空の光景を見て目を疑った。 


 上空に、黒い塊があったから。


 よく見てみると、それらは巨大な虫たちの集合体であることに気が付く。

 

「だ、大丈夫でしょ」


 あの大量の虫たちの相手は彼らは優秀な狩人集団だ。

 数多のモンスターを葬ってきた彼らにとって、あんなの朝飯前だろう。










 そんな予想とは裏腹に、時間だけが過ぎていった。


(遅い、遅すぎる) 


 オレンジ色の空には、いまだ黒い塊が渦巻いている。

 真上にあった太陽があんなにも傾いてしまっているのに、誰一人としてここに帰ってこない。

 

(……まさか)


 荷馬車からそっと降りる。

 身をできるだけ屈め、黒い塊の方角へ向かった。












 向かった先には、狩人たちの惨敗した姿があった。

 そして、宙を飛ぶ堅い装甲の虫たちに恐れを抱いた。

 

(この虫、知能がある……!)


 ここにいる狩人の中に、狩人さんやデイルさんの姿が見えない。

 加えて、狩人たちの人数が少ない。


 この虫たちは、おそらく狩人たちを分散させている。

 

 少し遠くに見える黒い塊からは、こちらに向かってくる虫たちと、他の方向に向かっている虫たちがいる。他の狩人たちは、それぞれの場所で戦わされているのだ。


「やれ!羽を狙うんだ!」

「クソッ、麻痺が……!」

「なんでこいつらがここに……」


 キリギリスのような口からは、ダラダラと黄色い液体が垂れている。

 おそらく、あれが麻痺毒だろう。

 地べたに倒れている狩人たちは、その毒にやられてしまったようだ。


(弓が一人、太刀が三人、ハンマーが二人)


 無理だ。

 この場で常に攻撃できるのは弓のみ。

 この虫たちは宙から襲い掛かってくる。

 近接武器では防戦の一方だ。


(それに、負傷者が多い)


 立っている狩人たちより、倒れている狩人の方が多い。

 加えて、虫たちは倒れている狩人たちを回収しようとしている。

 彼らは守るのに手一杯だ。


 このままでは彼らは……。


 ダッ

 

 その場を急いで離れる。

 そして、少し離れた場所で声をあげた。


「レオン!」


(早く、お願い早くっ)


 バサッ


 その祈りが通じたのか、目の前には風をまとったドラゴンが現れた。

 地面に降りてきたドラゴンが、頬にできていた切り傷を舐めた。


 ピリッとした痛みに、意識が現実に引き戻される。


「レオン、あの虫を―――」


(また私は、このドラゴンを良いように扱うのか)


「……っ!」


 自分の心の声に、言葉が詰まる。

 私をヒナのように、守るべき者のように慈しんでくれているドラゴン。

 それを利用して、私は人を守ろうとしている。


 いつか刃を向けてくるであろう彼らを。


 このままレオンに頼り続ければ、人はこのドラゴンの存在に気づくだろう。

 そして、討伐対象として狩られることになる。


(ダメ、それじゃあダメだ!)


 他に方法はないかと必死に考えていると、少し離れた場所に例の虫がいることに気が付いた。その虫が見ている先には、狩人に狩られたのであろうアランタの死体があった。


(……連れていかれる)


 身動きの取れない狩人たちを持ち去ろうとしたように、あのアランタの死体は回収されるのだろう。早くしないと、あの狩人たちもあのアランタの死体のように……。


 最悪の想像をしていると、その虫は何もせず立ち去った。


「え?」


 急いで虫がいた場所に行く。

 ……アランタの死体はそのままだ。


(一体なぜ?)


 周囲をくまなく観察する。

 そして、あるものが目に入った。


「……もしかすると」


 傍にいたレオンに、私はあるお願いをした。









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