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狩らないでください“狩人”さん!  作者: 良心の欠片
第1章 ドラゴンと人
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1 始まりのライチ



 広大な大地に多種多様な生き物たちが息づいている。

 森を駆けるモノ、大海を泳ぐモノ、大空を羽ばたくモノ。


 雄大な景色に、かつての世界との違いを思い知らされる。


「はあっはあっ」


 木々の間を縫うように走る一人の人間がいた。

 その人間の背後を巨大なサルたちが追ってきている。


 キーッ!キーッ!


「果物くらいッ譲ってよ!」


 器が狭すぎるサルたちに悪態をつく人間。

 この人間は、ライチみたいな実に手を出したことでサルたちに追い回されている。

 不幸なことに、もぎ取った実があのサルたちの大好物だったようだ。


「……ッ」


 気が付くと、四方をサルに囲まれている。

 万事休すといったとき。


 ピィーーーー


「!」


 突然、甲高い音が聞こえてきた。

 聞き覚えのあるその音に、安堵と嫌な予感が同時に訪れる。


 ブワーーーーッ


 空が暗くなったと思ったら、上から猛烈な風圧が襲ってきた。

 人間もサルも、必死に木にしがみつく。


 バサッバサッ


『グルァアア!!』


 宙を羽ばたく巨大な影。

 風がおさまり、その影が姿を現わす。


 大きな翼を優美に動かし、堂々たる風格で空を制する王者。 

 ……ドラゴンだ。


『グルァッ!!』


 キーキー


 ドラゴンは周囲にいたサルたちを蹴散らし、ついでに木々もなぎ倒す。

 反対方向で繰り広げられる戦いに、巻き込まれなくてよかったと胸をなでおろす。


 すべてのサルたちを追い払い、ドラゴンは人間の前へ降りてきた。


 巨大な翼が人間を覆い隠す。

 あわや食べられるかと思うような光景だが、人間はとても落ち着き払っている。

 むしろ安心している。


 ベロン


「うわぷっ」


 人間は、顔を舐められてた衝撃でよろめく。

 そして、背後にまわっていた翼に背を預けた。


「毎回言ってるけど、私はヒナじゃないんだけど……」


『クルルっ』


 親猫が仔猫を毛づくろいするかのように、ドラゴンは人間を舐める。

 顔が涎まみれになった人間は後で川で洗おうと心に決めた。


 そうして一頭と一人は、共にこの森を去っていった。











 人間こと私は、この世界でドラゴンに拾われて育てられている。

 標高の高い岩山が多くそびえているこの場所、私は目の前のドラゴンと出会った。


 そして出会った途端、このドラゴンは私を巣穴へと持ち帰った。

 短い命だったと喰われる覚悟をしていたが、幾度の夜を越えてもその時は訪れなかった。


 むしろ、生肉やら果物やらを毎日与えてくる始末。

 次第に、「このドラゴンは自分をヒナだと思っているのではないか?」と思い始めた。


「私を何だと思ってるのやら……」


『クルル?』


 小屋の柵をグイグイと押していたドラゴンは、こちらの視線に気づいく。

 そして、顔をこちらに向け、「何?」と言っているかのように鳴いた。

 

 このドラゴンは知能が高い。


 なぜなら、ドラゴンの巣穴に馴染めなかった人間の私を慮って、人から放棄された小屋を用意したから。放棄されて間もなかったようで、この小屋には基本的な設備が揃っていた。

 まあ、お風呂とかはないけど。


 

 こんな感じで、私の異世界生活は過ごしている。

 できればこの世界の説明とか、案内人とかいてほしかった。

 今のところ、このドラゴンか他のモンスターらしきモノしか知らない。


 もしかすると、自分と同じような存在がいないのではないか。


 そう思っていた時期もあった。

 しかし、この小屋に連れてこられてからは、この小屋をつくるほどの文明をもった生命体がいるとわかっている。だからきっと、人間のような存在はこの世界にいると確信している。


 ……その存在たちに、私を受け入れてもらえるかどうかは別として。


「レオン、柵は壊さないでね」


 「レオン」はこのドラゴンの名前だ。

 最初はドラゴンと呼んでいたが、ドラゴン呼びに尻尾をビッタンビッタン鳴らして抗議してきたかた、仕方なく名前をつけることにしたのだ。


 あと、本当は「カメレオン」と呼びたかったけど、唸られたから諦めた。

 普段は鱗が水晶の透き通っていて、時々鱗の色が変化するから、まさに「カメレオン」だと思ったのに。残念ながら、本人のお気に召さなかった。


「そろそろ巣に帰ったらどう?」


『クールル』


「うん、なんとなく拒否の意は伝わってきた」

 

 まだこの小屋のそばに居座りそうなドラゴン。

 仕方なく、その傍に行く。

 そして、横たわっているドラゴンのお腹を背もたれにして、地べたに座る。

 

「今日は“森のくまさん”を歌ってあげるよ」


『クル』


 少し日が傾いてきた空を仰ぎ見ながら、メロディーを口ずさむ。

 オレンジがかった優しい空に、鼻歌まじりの歌が流れる。




 今日もこうして、一頭と一人の穏やかな日が過ぎていった。

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