5.優しさを『アテ』にして。
『思い上がるって、どういうことだよ。……俺は、別に』
母さんの言葉の意図が分からなかった。
ただ言葉の持つ意味だけを取れば、要するに――。
『なんだよ。母さんは俺に、正義の味方ごっこはやめろ、って言いたいのか? 誰かを助けることは、悪いことじゃないだろ』
『…………』
俺がそう言うと、母さんはまた黙った。
しかし、今度はすぐに――。
『善いとか、悪いとかじゃないが。行動の話じゃない、って言ったでしょ』
『じゃあ何だって――』
『アンタ、まだ自分が悪いと思っとるが?』
『…………え?』
そのように、こちらの声を遮る。
俺は予想もしていなかったそれに対して、眉をひそめた。――いいや。ただ予想していなかっただけではない。たしかに想定外の言葉ではあった。ただそれ以上に、母さんの指摘は的を射ていたのだ。
俺の中にある一つの『後悔』を言い当てる。
それは、
『アンタまだ、父さんが死んだのは自分のせい、って思っとるん?』
『………………』
的確に、俺の胸を突き刺した。
言葉に窮すると、母さんはさらに続ける。
『父さんを殺した原因は、自分にある。そんな罪の意識みたいなので、手当たり次第に人助けをしとるんじゃないんけ』
『そ、それは……』
『そんなだから、俺なんかが、って言葉が出るんじゃないが? 自分を卑下して考えとるから、あんな行動ができるんよ』
言い返せなかった。図星だった。
ただ静かに、母さんの話に耳を傾けるしかない。
『悪いけどね、父さんが死んだのは事故やからね。アンタに責任はない。それでもまだ、自分は【誰かに許してもらえる】と思っとるがなら、それは――』
赤信号で一度、止まるのと同時。
母さんは小さく深呼吸をしてから、このように言うのだった。
『誰かの気持ちをアテにした【思い上がり】に他ならんがやからね』――と。
◆
「『誰かに許してもらえる』という『思い上がり』……ですか?」
「あぁ、そうだな。厳しい言い方かもしれないけど、陸の行動にあるのは『期待』なんだと思う。相手の持ってる優しさをアテにした……な」
「………………」
俺の話を聞いて、陸はいまにも泣き出しそうな表情を浮かべていた。
すべてがその通りということは、決してない。それでも彼の顔色を見る限り、思い当たる節はあった様子だった。
何か失敗をしたら、謝罪して赦しを請うのは人の常だ。
あるいは素直に認める潔さは、美徳にもなる。
ただ、何事にも限度はあった。
過剰になれば、それは相手を支配する行為に変貌するのだから。
「でもまぁ、あくまで一意見として受け取ってくれたらいいよ」
「はい。分かり、ました……」
辛気臭くなった雰囲気を変えるべく、俺は苦笑しつつ陸にそう伝えた。
すると青年はやや凹んだままに、小さく頷くのだ。
ただ少し、疑問もあったようで……。
「……あの、一つだけ訊いても良いですか?」
「ん……いいよ。どうした」
消え入りそうな声で、こう訊いてきた。
「達治さんはいったい何故、そこまで許してほしかったんですか」――と。
俺はそれを受けて、頬を掻きながら答えた。
いまになって振り返ってみれば、些細な問題であった事柄について。
「あー……実は俺、さ――」
ただ、当時の自分にとっては大きな問題を。
「本当の子供じゃなかったんだよ。……両親の、さ」
努めて、明るい調子で。
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