2.暗中模索。
あとがきも(ry
「……自分のやりたい、こと」
――配信開始直前。
機材の最終確認をしている最中、サムネを作り終えた陸は改めて考えていた。達治は彼に訊ねたが、やはり何も思いつかないのだ。いままで自分のやってきたことを思い返しても、最初は必要に迫られて、というのが大半なのだから。
陸はそこに考え至って再度、自分の中身のなさに辟易としていた。
「ホンマにワイは、つまらん人間や」
周囲の目ばかりを気にして、何も主張することができない。
しかし、本当の問題はそれ以前なのだろう。何故なら陸には『主張したいこと』がないのだ。陸はそれに気付き、執拗に自身のことを下げ続けている。
中身のない堕落した人間だ、と。
昔の達治と、今の陸は似ている。
涼子はそう話していたが、そんなことはないと陸は考えていた。
話に聞く限り達治は、幼い涼子を救い出すために身を挺することができる人間だ。仮に同じ状況に置かれたとして、自分は足が竦んでしまうだろう――と。
そんな想像をしただけで、陸の背筋は凍え切ってしまった。
そしてまた、自己嫌悪のループに陥る。
「結局、ワイは『何者にもなれない』んやな……」
分かり切っていたことだが、いざ結論に至ると悲しくなった。
しかし、こうなってしまってはアクシズでの活動も困難になるだろう。であるならば、自分のような者はあの集団に相応しくない。
メンバーには申し訳ないが、脱退させてもらって――。
「――おい、陸! 避けろ!!」
「え……?」
そう、陸が判然としない思考をしていた時だ。
突然に達治が声を張り上げて、彼に逃げるように忠告したのは。
「達治、さん……? なにを――」
「く、伏せろ!!」
「……な、え…………うわぁっ!?」
まるで状況が分からない。
そう思った直後、達治は陸に思い切り体当たりをかます。
そして、青年の世界は一気に暗転した。
ダンジョンの岩壁が崩れる音。
いや、あるいは涼子たちの悲鳴もあったのかもしれなかった……。
◆
――それは、思わぬ出来事だった。
基本的にダンジョンの入り口付近は『セーフティーゾーン』とされている。魔素の濃さもそうだが、不思議なことに外界との境目にモンスターたちは近づかない。理由は不明なままだが、とにかくそれはダンジョン探索者にとっての基礎知識だった。
「……大丈夫か、陸」
「う、た……達治、さん?」
だからこそ、陸も気を緩めてしまったのだろう。
俺だってそうだ。
「いったい、何が起きたんです?」
「分からない。いきなり空間が歪んで、そうしたら……」
「ダンジョン内に、空間の歪み……?」
見たままに説明をすると、陸も困惑してしまう。
それもそのはず。空間の歪みはダンジョンが生まれる前兆とされていた。だからこそ、ダンジョン内でそれが発生すること自体がおかしい。
しかもその歪みからは、見たこともない禍々しい腕が伸びてきた。
そして、そいつはまるで――。
「それで、ここはいったいどこなんです……?」
「ん……? あぁ、その時にダンジョンの壁が崩れたんだと思う。無我夢中だったから詳しくは分からないけど、入り口とはそんなに離れていないはず……」
「それにしては、ずいぶんと仄暗いですね」
「……それも、そうだな」
陸の意見を訊いて、俺はとかく気持ちを切り替える。
おそらく、いま考えるべきは原因よりも目の前の問題についてだった。この薄暗い闇に向かって、自分たちの今後の方針を決めなければならない。
「……陸、機材とかは無事か?」
「明かりについては大丈夫かと。……とはいえ、心許ないですけど」
「そうか。でも、ずっと立ち止まってるわけにも、いかないな」
「……え、それってつまり――」
俺は陸に機材や、物資の確認を取った後。
どこか沈んだ表情の青年に、こう提案するのだった。
「あぁ、どこか出口を探そう」――と。
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