6.便利屋たっちゃん。
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「達治さんが便利屋、ですか……?」
「うん。その当時、アタシたちの学校では有名人だったんだよ」
――それは近衛達治がまだ、中学生だった時のこと。
涼子は小学生で、素直に彼の後ろを歩いていた頃の話だ。達治はそのお節介な性格を強く出しており、周囲からは『便利屋たっちゃん』と呼ばれていたという。
その話を聞いて、陸は小さく笑うのだった。
「……なんというか、昔から優しい人だったんですね」
「うん。たっちゃんは優しかった。……誰にでも、異常なくらいね」
「異常、ですか……?」
「……うん」
しかし涼子から返ってきたのは、どこか複雑な言葉。
彼女は少し考えてから、ゆっくりと話し始めた。
◆
『なぁ、達治。宿題やり忘れたから、写させてくれよ』
『分かった。次からは、ちゃんとやってこいよ?』
『へへ。ありがとよ!』
――近衛達治、当時十四歳。
地元の中学に通っていた彼はいつものように、不良なクラスメイトに自身の課題を写させていた。周囲は『またか』といった様子で眺めており、特になにか意見をすることはない。
意見をしたところで、馬鹿な相手に目を付けられるのが関の山だ。
それに、達治は自分の意見を曲げたりしない。
【自分なんかが、誰かの役に立てるなら。それでいい】
それが彼の口癖だった。
いったい何が達治少年の自己評価をそこまで下げたのか、原因は誰にも分からない。ただ、それによって不必要な案件や、要らぬ苦労を背負い込んでいるのはたしかだった。周囲はそれを理解しており、駄目なことだとも思っている。
だが彼のような『便利屋』がいると、いざという時に頼ることができた。
自分だって課題をやり忘れるかもしれない。そうなったら、達治という存在が近くにあるのは安心だった。
『おーい、近衛! 少し良いか?』
『あ、はい! 先生、どうしたんですか?』
『実は次の授業で使う備品が――』
それに教員だって、承知の上か分からないが彼を使っている。
だったら、自分たちは何も言わなくていい。
当時中学生のクラスメイト。
子供に過ぎない彼らがそう考えるのは当然で、達治も気にしていなかった。だから誰にも指摘されることない。誰からも、助けてもらうことができない。
しかし、そんな達治の表情はどこか活気に満ちていたから。
誰もそれが悪いこととは、考えていなかった。
◆
『いやー、今日も働いたな!』
『たっちゃん、すごいね! みんなのために、頑張ってるんだ!』
そんなある日の放課後。
野球部だった彼は練習を終えて、実家に戻って当時小学生の涼子と戯れていた。この日は普段よりも早くに帰ることになり、従妹の面倒を見ることになったのだ。
太陽はまだ沈み切っておらず、いましばらくは明るさも残っているだろう。
『ねぇ、たっちゃん! アタシあっちで遊びたい!』
『あっち、って……農道の方か?』
『うん!』
そう考えていたのは、涼子も同じだった。
彼女は無邪気に庭の外を指さすと、満面の笑みを浮かべてそう言う。しかし次第に暗くなって足元の悪くなる道で遊ぶのには、幾分かのリスクが付きまとうのは明らかだと思われた。達治も中学生ながらに危険性を承知している。
だが、この当時の少年は――。
『分かったよ。俺に任せとけ!』
『やった!』
――誰かに願われたら、断れない。
それこそ『便利屋』という聞こえだけ取り繕った扱いの延長で、幼い涼子のワガママを受け入れた。
そして、彼らはゆっくりと太陽の傾く道へ出る。
それが思わぬ事態を招くと、可能性だけは承知しながら……。
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