5.達治の為人。
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「え、フィアくんが脱退ですか……?」
「そうなんだよね。こんな直前になって、いきなり家庭の事情って言われて事務所としても困るんだけどさ……」
「……それは、そうですね」
――数年前、アクシズデビュー直前。
紆余曲折あり撮影班として事務所に残っていた陸は、マネージャーとそんな会話を交わしていた。他人事ながらも、親身になって耳を傾けるのは彼の性だろうか。
マネージャーもここぞとばかりに不満をぶちまけていた。
それを聞いていて決して心地よいわけではないが、青年は自分にできることがないかを必死に考える。
「いやー……こんな直前だから、今さら人数を減らすわけにもいかないし。かといって、あの子ほどの美形が簡単に転がってるわけもなくて……」
「そう、ですね……」
「………………」
「………………」
相槌を打っていると、不意にそんな沈黙に包まれた。
考え込む陸を目の前にしてマネージャーがなにを考えたのか。その先を知る人々にとっては、容易い推測だろう。
「な、なにするんですか……?」
おもむろに陸の長い髪を掻き上げたマネージャー。
困惑する青年をよそに、その顔立ちを確認して何度も頷いた。そして、
「……いるじゃないか、ここに!」
「え……?」
心の底から歓喜するように。
マネージャーは、陸に向かって言うのだった。
「頼む! 彼が戻るまでで良いんだ。……代役になってくれ!!」――と。
◆
「えっと、本当にゼクスさん……ですか?」
「あ、う……そう、です」
「玲音、そんなにジロジロ見るなって」
「それはそう、ですけど……」
翌日、俺たちは今後のコラボ配信について考えていた。
さすがに取れ高のないままに、陸をアクシズに返すわけにはいかない。何かしらの成果を出さなければ、グループの中で不利益を被るのは彼なのだ。
そう考えるのだが、現状の陸は表に立てる状態ではない。
「なぁ、ゼクス――いや、陸? お前は何がしたい」
「ワ、ワイが何をしたいか、ですか……?」
「あくまで、末広陸として、な」
「…………」
かなり心苦しいが、しかし決断してもらわなければならなかった。
それでもキツイ言い方にならないように、最大限の注意を払いながら俺は静かに訊ねる。すると陸はしばしの沈黙の後に、こう答えた。
「自分にできること、で良いなら……」
本当に絞り出すようにして。
唇が渇くらしく、何度も舌先でそれを濡らしながら。
末広陸は悩みに悩んだ末に、こう言葉を紡ぎだすのだった。
「撮影なら、できます。……元々、そっち側のはずだったので」
それはきっと、まだ『自分のやりたいこと』とは、少し違う。
それでも己の意思を主張できなかった青年にとっては、大きな一歩であるとさえ思われた。だから俺は、彼の言葉を絶対に否定しない。
力強く頷き返してから、涼子と玲音を見て宣言するのだった。
「じゃあ、決まりだ! 明日はその流れで行くぞ!」
◆
「自分は、何がしたいんや……?」
縁側に腰を落ち着けて。
しかし身体は思い切り前屈みになって、陸は肩を落としながらそう呟いた。
それは他人に向けたものではなく、当然ながら自問自答。あの時、青年は達治に訊ねられて『自分でもできること』を答えた。もちろん、嘘ではない。
だけど、それが正答でないのは重々承知していた。
だからこそ陸はいま、気を遣ってくれている達治に申し訳ない。
「ホンマに、良い人やな。……こんな愚図に、あんな――」
「あ、ゼクスさん! ここにいたんですね!」
「……涼子さん?」
そう考えてまた深い思考の渦に呑み込まれかけた時だ。
陸の姿を認めて、涼子が声をかけてきたのは。
「どうしたんすか。……もう、夜も遅いです」
「えへへ。少しだけ、ゼクスさんに話しておきたいことがあってね!」
「話しておきたい、こと……?」
陸が返事をすると、彼女は朗らかに笑いながら隣に腰かけた。
そして、そう口にするので青年はまた首を傾げる。
「それは、達治さんのこと……ですか?」
「うーん……半分は、そうかな」
「半分……?」
その上で訊ねると、返ってきたのは思わぬ歯切れ悪い言葉。
さらに陸は首を傾げてしまった。そんな彼の様子に、涼子はどこか気恥ずかしそうに笑ってから頬を掻く。そうして数秒の間を置いてから、こう語り始めた。
「たっちゃんは、ね? ホントに優しいの。いつだって自分のことよりも、誰かのことを優先して考えるような……」
「それは分かってます。あんな人、なかなかいないですから」
「あはは! でも、ね――」
だが、彼女はふとそこで言葉を切る。
そして空を見上げ、ゆっくりとこう言うのだった。
「それはきっと、ゼクスさんが『そっくり』だからこそ、だと思う」
「え……」
「もっと正確に言えば、そうだね。……『昔のたっちゃん』に、かな」
「それって、どういう……?」
陸は思わず訊き返し、涼子はまた少し黙る。
しかし、覚悟を決めたように面を上げた彼女は――。
「それじゃ、ここだけの話だからね?」
そう前置きして、話し始めた。
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