表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/65

5.達治の為人。

下記リンクにある新作ラブコメも応援よろしくです。







「え、フィアくんが脱退ですか……?」

「そうなんだよね。こんな直前になって、いきなり家庭の事情って言われて事務所としても困るんだけどさ……」

「……それは、そうですね」



 ――数年前、アクシズデビュー直前。

 紆余曲折あり撮影班として事務所に残っていた陸は、マネージャーとそんな会話を交わしていた。他人事ながらも、親身になって耳を傾けるのは彼の性だろうか。

 マネージャーもここぞとばかりに不満をぶちまけていた。

 それを聞いていて決して心地よいわけではないが、青年は自分にできることがないかを必死に考える。



「いやー……こんな直前だから、今さら人数を減らすわけにもいかないし。かといって、あの子ほどの美形が簡単に転がってるわけもなくて……」

「そう、ですね……」

「………………」

「………………」



 相槌を打っていると、不意にそんな沈黙に包まれた。

 考え込む陸を目の前にしてマネージャーがなにを考えたのか。その先を知る人々にとっては、容易い推測だろう。



「な、なにするんですか……?」



 おもむろに陸の長い髪を掻き上げたマネージャー。

 困惑する青年をよそに、その顔立ちを確認して何度も頷いた。そして、



「……いるじゃないか、ここに!」

「え……?」



 心の底から歓喜するように。

 マネージャーは、陸に向かって言うのだった。



「頼む! 彼が戻るまでで良いんだ。……代役になってくれ!!」――と。







「えっと、本当にゼクスさん……ですか?」

「あ、う……そう、です」

「玲音、そんなにジロジロ見るなって」

「それはそう、ですけど……」



 翌日、俺たちは今後のコラボ配信について考えていた。

 さすがに取れ高のないままに、陸をアクシズに返すわけにはいかない。何かしらの成果を出さなければ、グループの中で不利益を被るのは彼なのだ。

 そう考えるのだが、現状の陸は表に立てる状態ではない。



「なぁ、ゼクス――いや、陸? お前は何がしたい」

「ワ、ワイが何をしたいか、ですか……?」

「あくまで、末広陸として、な」

「…………」



 かなり心苦しいが、しかし決断してもらわなければならなかった。

 それでもキツイ言い方にならないように、最大限の注意を払いながら俺は静かに訊ねる。すると陸はしばしの沈黙の後に、こう答えた。



「自分にできること、で良いなら……」



 本当に絞り出すようにして。

 唇が渇くらしく、何度も舌先でそれを濡らしながら。

 末広陸は悩みに悩んだ末に、こう言葉を紡ぎだすのだった。



「撮影なら、できます。……元々、そっち側のはずだったので」



 それはきっと、まだ『自分のやりたいこと』とは、少し違う。

 それでも己の意思を主張できなかった青年にとっては、大きな一歩であるとさえ思われた。だから俺は、彼の言葉を絶対に否定しない。

 力強く頷き返してから、涼子と玲音を見て宣言するのだった。



「じゃあ、決まりだ! 明日はその流れで行くぞ!」







「自分は、何がしたいんや……?」



 縁側に腰を落ち着けて。

 しかし身体は思い切り前屈みになって、陸は肩を落としながらそう呟いた。

 それは他人に向けたものではなく、当然ながら自問自答。あの時、青年は達治に訊ねられて『自分でもできること』を答えた。もちろん、嘘ではない。

 だけど、それが正答でないのは重々承知していた。

 だからこそ陸はいま、気を遣ってくれている達治に申し訳ない。



「ホンマに、良い人やな。……こんな愚図に、あんな――」

「あ、ゼクスさん! ここにいたんですね!」

「……涼子さん?」



 そう考えてまた深い思考の渦に呑み込まれかけた時だ。

 陸の姿を認めて、涼子が声をかけてきたのは。



「どうしたんすか。……もう、夜も遅いです」

「えへへ。少しだけ、ゼクスさんに話しておきたいことがあってね!」

「話しておきたい、こと……?」



 陸が返事をすると、彼女は朗らかに笑いながら隣に腰かけた。

 そして、そう口にするので青年はまた首を傾げる。



「それは、達治さんのこと……ですか?」

「うーん……半分は、そうかな」

「半分……?」



 その上で訊ねると、返ってきたのは思わぬ歯切れ悪い言葉。

 さらに陸は首を傾げてしまった。そんな彼の様子に、涼子はどこか気恥ずかしそうに笑ってから頬を掻く。そうして数秒の間を置いてから、こう語り始めた。



「たっちゃんは、ね? ホントに優しいの。いつだって自分のことよりも、誰かのことを優先して考えるような……」

「それは分かってます。あんな人、なかなかいないですから」

「あはは! でも、ね――」



 だが、彼女はふとそこで言葉を切る。

 そして空を見上げ、ゆっくりとこう言うのだった。



「それはきっと、ゼクスさんが『そっくり』だからこそ、だと思う」

「え……」

「もっと正確に言えば、そうだね。……『昔のたっちゃん』に、かな」

「それって、どういう……?」



 陸は思わず訊き返し、涼子はまた少し黙る。

 しかし、覚悟を決めたように面を上げた彼女は――。



「それじゃ、ここだけの話だからね?」





 そう前置きして、話し始めた。



 

https://ncode.syosetu.com/n4154jl/

下記にリンクあります。




面白かった

続きが気になる

更新がんばれ!




もしそう思っていただけましたらブックマーク、下記のフォームより評価など。

創作の励みとなります!


応援よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ