4.優しさとは、なにか。
あとがき下の新作ラブコメもよろしくです(*'▽')ノ
――末広陸は、幼い頃から内向的な性格だった。
姉や妹と共に少女漫画や子供向けのアニメを嗜好し、小学生時代は同級生男子と反りが合わず、さらに女子からは気味悪がられる。中学に進学するとその傾向はいっそうに強まり、彼は不登校状態となってしまった。それでも家族に心配をかけたくない思いで勉学に励み、国立大学に進学する。
だがそこで、慎ましく過ごしていた彼にとって望まぬ展開が待っていた。
「ワイは元々、こんな性格じゃないんです。人前に出ると足が震えるし、配信者になったのだってゼミの先輩がふざけて書類を送ったからだし……」
「……なるほど、な」
生い立ちを一通り話したゼクス――陸は、膝を抱えてしまう。
「それでも必死に頑張って、ここまでやってきたんです。アクシズのメンバーからは気を遣われてるけど、今さら辞めるなんて言えないし、迷惑かけたくないし。でも、本来の自分とゼクスとしての自分が乖離していくたびに、吐き気が止まらなくて……」
――本当に情けない、と。
彼はそう言うと、打って変わって萎れた表情になりうつむいた。
そして、俺の目の前ということも忘れて啜り泣き始める。その姿を見て思うのは、やはり陸はあの頃の自分と似ている、ということだった。自分に対する評価が著しく低く、周囲の機嫌ばかりを最優先に考えてしまう。そうでなければ、自分の居場所がなくなると思い込んでいる。
ただ話を聞いている限り、俺とは決定的に違う部分があった。
だから、
「陸は、優しいんだな」
「…………へ……?」
その感想を素直に、伝える。
すると青年はぐしゃぐしゃな顔を上げて、驚いたような表情を浮かべた。そして何を言われたのか把握してから、彼は困惑しつつ首を左右に振って否定する。
「な、なにいっとるんですか! ワイはただ、自分の保身のため――」
「保身のために、自分を犠牲にするのか? おかしいだろ」
「いや……! えっと、あの……!?」
だが、そんな陸の理屈が破綻しているのは明らかだった。
俺のツッコミに対して、青年は目を白黒させながら言葉にならない弁明を繰り返す。おそらくは、周囲を悪く言わない理由付けをしようとして、ドツボにハマっているのだ。決して俺自身が優しいというわけではないが、何故だか陸の思考が手に取るように理解できる。
派手な色に髪を染めた純朴青年は、いよいよ何も言えなくなってうつむいた。
「そうやって優しいから、妙な損するんだぞ」
「…………」
俺は黙り込んだ彼に、そう指摘する。
すると、
「……でも、やっぱり分からないです」
「分からない?」
陸はしょんぼりとした表情で、そう言った。
訊き返すと彼は小さなため息をついて、こう続ける。
「ワイ……自分は、いったい何がしたいのか、って……」
それを聞いて、俺は納得するのだ。
おそらくこいつは、今まで他人から言われたままに行動してきた。だから自分のやりたいことにモヤがかかったようになって、思い出せないのだろう、と。
俺自身も、その感覚には思い当たる節があった。
ただ幸いなことに、涼子から道を示されて今があるわけだが――。
「――だったら、一緒に探すか?」
「一緒に、探す……?」
そう思うと、口から勝手にそんな提案が出ていた。
だけど考えてみれば、これは俺の責任であるようにも思う。だから、
「まだ分からないだろうけど、少しでもそれを手伝わせてくれよ。もしかしたら、何かキッカケが掴めるかもしれないし」
「……達治さん…………」
「もちろん、どうするかは自分で決めてくれ。そうじゃないと、意味ないからな」
「…………」
俺は陸に、そう告げた。
すると青年の顔は、何か憑き物が落ちたようになっていく。
そして、しばしの間を置いてから。
「もし、御迷惑でなければ……」
陸は震える声で、そう言うのだった。
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