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3.重なる過去。








「目ぇが笑ってないって、なに言うてんねん。見てみぃ、オレの目はこんなにもニッコニコやん!」



 俺の言葉にゼクスは笑顔で答える。

 たしかに彼の言う通り、目はしっかりとへの字になっていた。一見すれば誰もが笑っていると、そう信じるであろう表情。だけど俺は、その細められた双眸の奥にあるものに違和感を覚えた。とても他人のこととは思えない。だからこうやって、一対一の時間を設けた。

 そして確信となったいま、真っすぐに伝える。



「なぁ、ゼクス――」



 それは『あの頃の自分』に、語り掛けるように。



「お前、本当にやりたくて配信者やってるのか?」――と。



 瞬間、周囲の空気が重く凍り付くのが分かった。

 ゼクスの笑顔が固まる。沈黙が降りたち、それはやがて刺すような攻撃性を秘め始めた。相手としても好ましくない雰囲気らしく、しかし振り払うほどの余裕もない。口角が引きつっている様子を見るに、こちらの指摘は図星であるようにも思われた。

 それでもゼクスは、乾いた呼気を何度か出した後に言う。



「……な、なに言うてんねん。オレは楽しく配信者やっとるで?」



 声を荒らげるようなことはしない。

 おそらく、そのような性格の人物ではないのだ。

 そうじゃないと、こんなに屈折した状況下に身を置くことにはならないだろう。ゼクスという青年はきっと、消極的な選択をし続けたからこそ今、ここにいるのだ。



「オッサンは、何を根拠にそんなこと言うんや。どうせ――」

「誰も自分のことを分かってくれない」

「――え?」



 肩を竦めるゼクスの先回りをするように、俺はそう口にする。

 すると彼は意表を突かれたのか、今までにないほど無防備な表情になった。俺はそんな幼さすら感じる青年の顔を見ながら、さらにこう続ける。



「それでも、自分のやりたいことを公表する勇気もない。もし本当の自分を伝えて、否定されたらと考えると怖いから。頭でっかちになって、誰かに言われたままに行動する」

「やめてくれ……」

「そうすれば、少なくとも嫌われることもない。嫌われなければ、きっと――」

「やめてくれ、って言っとるんや! 頼むから!!」

「…………」



 そこで、ようやくゼクスが声を張り上げた。

 俺はそれを受けて、呼吸の乱れた彼が次を口にするのを待つ。そして、



「……さっきから、なんや。いったい、なにを根拠にそんなことを言うんや!」



 その問いかけに対して、小さく息をついてから答えた。



「同じなんだよ。……配信者になる前の、俺と」

「え……?」



 するとゼクスは、驚いたようにこちらを見る。

 ようやく、俺の話を聞く気になってくれたらしい。



「俺は配信者になる前に、普通……というか、ちょっとしたブラック企業に勤めてたんだ。毎日のように山のような雑務をこなして、結果を出せば上司の手柄にされて、それでも自分みたいな人間が他に行っても活躍できるはずがないと思い込んでた。だからずっと、相手の機嫌を損ねないように顔色ばかりうかがってたし、自分の気持ちなんて二の次にしていたんだ」



 彼が息を呑むのが分かった。

 それを確かめてから、俺は改めて……。



「そうしたら、いつの間にか機械みたいになっててさ。最後の最後は、上司のミスを全部背負わされてお払い箱だった。そこでようやく、自分は何をしたいんだろう……って考えた。だから、もう一度だけ訊かせてくれ」



 ゼクスの奥にいる、もう一人の彼に問いかけた。



「お前が、本当にやりたくて配信者やってるのか、を」

「………………!」



 青年は唇を噛む。

 そして、



「オレ……いや、ワイは――」




 本当に消え入るような声で、語り始めたのだった。



 


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