7.ゆるやかに配信開始。
(*'▽')そおい!
そして、配信当日の朝。
俺たちは各々に支度を済ませて、玄関先に集合した。これといって普段と変わるものはない。それでもやはり違いがあるとすれば、道中がゼクスの存在によってやけに賑やか、という点だった。彼はケラケラと笑いながら、女性陣にちょっかいを出している。
「おーい、ゼクスさん?」
「なんや? こっから、ようやく話が盛り上がってくるとこやのに」
「いや、少しだけ忠告したいことがあって」
「忠告……? ははぁ~ん……」
そんな青年を見かねて、俺は声をかけた。
するとゼクスは何やら嫌らしい表情を浮かべて、こう言うのだ。
「さては、美女二人にちょっかい出すな、言いたいんやな?」
彼が美女といったのは、もしかしなくても涼子と玲音だろう。
たしかに、そういった側面もあった。噂自体は噂なので、確定的な証拠があっての話ではないので信じてはいない。それでも、あまりに軽薄な態度はおススメできなかった。
しかし俺が言いたいのは、そういうことではなく……。
「いや、ちょっと違うぞ」
「だったらなんや? これでもし、しょーもないことなら――」
「熊、出るから注意な。あまり騒がないように」
野生動物に襲われる危険性がある、ということだった。
武器のほとんどはダンジョンで効果を発揮する仕様なので、外での有用性は基本的にない。玲音の日本刀や俺の鍬に至っては殺傷能力を否定できないが、それでも警戒するに越したことはなかった。モンスターよりも一般的な動物の方が怖いのは、なんとも不思議な話ではある。
「…………うい、分かったわ」
そのことは、ゼクスも理解しているのだろう。
俺の指摘を受けると血の気が引いたのか、すぐに引き下がった。
「うーん……」
そんな彼を見つつ改めて考える。
いまの態度からは、やはりどこか違和感はあった。
軽薄、軽率な人物というなら、こちらの制止など聞く耳などないはず。考えすぎかもしれないが、案外にゼクスは根が真面目なのかもしれない。
「……っと、そう言ってる間に着いたな」
などと話していると、いつものダンジョン入り口に到着した。
俺たちは配信機材の準備を整え、各々の状況を確認し合う。そして、
「それじゃあ、配信開始だ!」
その掛け声とともに、撮影を開始するのだった。
◆
――ダンジョンは、蛇の出るところまでは踏破済み。
もちろん危険がないわけではないが、以前よりもある程度は安全が確保されていた。玲音曰く『モンスターが復活するには、最短で半年程度』が必要だ、という。
最初のドラゴンを倒してから、二ヶ月と少し。
それだとしたら、いまはまだ大丈夫ということになる。
「なんや、噂で聞いてたのと違うなぁ?」
「噂、って?」
そんなことを考えていると、ゼクスが退屈そうに言った。
「聞くところによると、ここって『超高難易度ダンジョン』なんやろ? 入り口から間もなく、ドラゴンがお出ましになる……とかいう」
「超、高難易度……?」
「違うんか?」
「いや、ドラゴンが出たのは事実だけど……」
俺は思わず首を傾げて答える。
「ここって、そんなに凄い場所なのか?」――と。
正直なところ、俺が知るのは適当に見た配信のダンジョンと、ここだけ。
だから、他のダンジョンがどうなのかといったような、いわゆる『基準』というのが分からなかった。俺からしてみれば、ここが『普通』ということになるのだが……。
「へ……?」
「師匠、それはちょっと……」
そんな言葉に反応したのは、ゼクスと玲音。
青年は口角を引きつらせ、少女は呆れたようにこう言った。
「それはちょっと、無自覚が過ぎませんか……?」
若干の苦笑いを浮かべつつ。
だが俺と涼子は、彼らの反応に首を傾げてしまうのだった。
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