2.玲音からの提案。
更新という名の生存報告(白目
「それにしても、こんなに高い機材買って良かったの?」
「いや、良いんだよ。その金も、配信での収益が大半だからな」
買い物帰りに、涼子とそんな会話を交わす。
例によって俺たちが向かったのは、あの店員がいる満月スポーツだ。来店と同時に彼女は目を輝かせ、要望を口にするといそいそと最新鋭の機材を取り出してきた。いったいなぜ、スポーツショップが家電量販店顔負けの機材を揃えているのか。
そんなツッコミを入れたくはなったが、あまりかかわりたくない。
なんというか、あの女性店員には触れてはいけない気がした。そんなわけで、通常価格よりも幾分かサービスされつつ、俺たちはその配信機材を購入。
資金については、先ほど涼子に説明した通りだった。
「動画に広告がついて、収益の見込み額だけで相当な金額になってたんだよ」
「へぇ……!」
配信サイトにもよるらしいが、俺らのチャンネルがあるところはかなり良心的らしい。過去のアーカイブ再生数もある程度加味して、収益の見込み額を出してくれていた。
その額面は涼子に後で伝えるが、とかく会社員時代と遜色ない稼ぎになっている。
もちろん、それを従兄妹と分け合うのだが……。
「だったらこれで、あとは怪我が治れば配信再開だね!」
彼女の方はといえば、そういった金銭事情に興味はないようだった。
だからって、詐欺紛いの行いをするつもりはない。そんなことを考えつつ自室で機材の調子を確認していると、ふいにスマホに着信があった。
手に取って確認すると、相手はどうやら玲音のようだ。
「……もしもし? どうしたんだ、急に」
『あ、お疲れさまです師匠! さっそくで申し訳ないんですけど、僕とコラボしてくれませんか!?』
「え、コラボ……?」
通話越しの弟子は、なにやら突飛な願いを申し出る。
俺が首を傾げていると彼女は、まくし立てるようにして続けるのだった。
『いや、ですね? 視聴者が言うんですよ、秘境のダンジョンちゃんねるとコラボしてほしい、って! 僕としても、また師匠と会えるのは嬉しいですし、是非にと思うんですけど――』
「お、おう……ずいぶんと、テンション高いな」
こちらは思わず受け身になって、そう返すしかできない。
だけど、彼女とのコラボなら不安もないだろう。配信者としては向こうが先輩でもあるし、収益やら何やらで聞いておきたいこともあった。
そんなわけで、俺が了承の意を伝えると……。
『そうだ! せっかくですし、もう一人連れて行っていいですか!?』
「もう一人、って……?」
何かを思いついたのだろう。
玲音はそう提案した。俺が訊き返すと、彼女はこう説明する。
『どうしても先輩に会いたい、って人がいるんですよ。僕もコラボ配信で知り合ったんですけど、アクシズ、ってグループで配信してる中の一人です!』
「へー……グループ、ってことは他にもメンバーがいるのか」
配信者には、いくつか種類があった。
例えば事務所に入っている者と、個人で活動している者。そして、個人勢の中でもソロで活動している者もいれば、今回のようにグループで活動している者もいた。
アクシズはそういった類なのだろう。
『そうですね。アクシズは人気のあるグループですし、交友のキッカケになればいいかな、って思います』
「それは面白そうだな。……よし、だったら再来週はどうだ?」
相手を知らずに、というのは少し不安ではあるが。
玲音の紹介なら問題ないだろう。そう思って、俺は日時を確認した。そこからいくつかやり取りをして、配信日が決定。通話を切って、涼子にそのことを伝えた。
すると従兄妹は、あからさまな動揺を見せる。
「ア、アアアア、アクシズ!? それって大手さんだよ、たっちゃん!?」
「……大手、なのか?」
どうやら、彼女はそのグループを知っているようだった。
大手というのはつまり、チャンネル登録者がたくさんいる、ということ。しかしながら、この界隈にイマイチ疎い俺はあまりしっくりこなかった。
そんなこちらを余所に、涼子はかなり慌てている。
「お、おもてなしの準備をしなきゃ! えっと――」
「そこまでなのか……?」
まるで町内会にハリウッド俳優がくるような狼狽え方だった。
俺はその温度差に思わず苦笑しつつ、ひとまず機材の調子を再確認。それを終えてから、ボンヤリと考えるのだった。
「大手配信者、ねぇ……?」
人気者とは、生き辛そうだ――と。
コラボするとなっただけで、相手がこうなるのだから。
俺はまだ知らぬアクシズのメンバーのことを思い、少しだけ悩むのだった。
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