6.新しい日々の始まり。
ちょっと早いけど、投げときます(買い物行く
「ありがとうございました。お二人には、感謝してもし切れません」
「気にすんなって! また、いつでもきて良いからな」
――あの一件から、数日が経過して。
身体の傷が癒えた玲音は、出立の日を迎えていた。こちらにきた時とは打って変わって、別人のように愛らしい笑顔を浮かべる彼女に、俺も笑って答える。
隣にいる涼子も微笑みながら、玲音の小さな手を取った。
「アタシたちはもう、ずっと友達、だからね!」
「うん、ありがとう!」
裏表のない従兄妹の言葉に対しても、力強く頷く玲音。
だが、すぐに何かを思い出したように言った。
「あ、でも……僕も負けるつもり、ないからね」
「……ん?」
なにやら、こちらにウインクをしながら。
それはいったい、どういった意味なのだろうか。俺が首を傾げていると、過剰な反応を示したのは涼子の方だった。
「ア、アアアア、アタシはまだそんな!?」
「どうした、涼子……?」
何故か顔を真っ赤にして狼狽えた従兄妹。
理由が分からず、俺は頭上に疑問符を浮かべてしまった。すると、そんな俺たちのやり取りを見て、また玲音は楽しげに笑う。
そんな彼女を見て、俺はどこか胸の空くような思いがした。
しかし、そんな時に改まって玲音は言う。
「それにしても、良かったんですかね」
「ん、なにが?」
「だって、屁理屈も良いところじゃないですか。たしかに僕はアルビレオとして、配信者引退しましたけど――」
困ったように、頬を掻きながら。
「『レイン』として、再出発する……なんて」――と。
それというのも、彼女の今後の配信活動について。
玲音はあの一件の責任を取って、たしかに『アルビレオとしての配信』を引退することとなった。だけど俺がそれを認めず、本名の『レイン』として活動再開するように要求したのだ。
当然、玲音もさることながらリスナーの誰もかもが困惑していた。
しかし涼子だけは、その場で笑って同意したのである。
「俺たちが良い、って言ってるから良いんだよ」
「いや、でも……やっぱり、筋が通らないというか……?」
「堅いこと考えるな、っての! だったら、生まれ変わったと思えば良いよ」
「生まれ、変わった……?」
だけど、どうやら玲音自身はいまだに踏ん切りがついていないようだった。
いくらこちらが許しても、彼女は唸るばかりで呑み込み切れない。だから俺は思い切り笑い飛ばしつつ、それこそ屁理屈を捏ねるのだった。
「あの戦いで『アルビレオ』は死んだ。それは残念なことだったけど、アイツは新しく『レイン』として生まれ変わったんだ、ってさ!」――と。
自分で言うのもなんだけど、これを主張するのが玲音ではなく俺なのだから、もはや何もかもが滅茶苦茶だった。だけど実際問題、俺は彼女の行いを許している。
だから下手に背負い込んでほしくないし、引きずってほしくもなかった。
そして何より、これからはもっと前を向いて歩いてほしい。
それが俺の嘘偽りない心、というやつだった。
「ははは……! 本当に、師匠は馬鹿ですよね」
「ば、馬鹿だとぅ!?」
しかし、返ってきたのはまさかの罵倒。
俺は思わず声を上擦らせた。だけど玲音は、ふっと穏やかな表情になる。そうして俺と涼子を見比べて、幼い少女のような愛らしい表情で言うのだった。
「本当に、そっくりですね」――と。
俺たちは、そんな玲音を見てまた笑った。
五月のゴールデンウィークもすでに終わり、また新しい日々が始まる。
ただ、なんとなく。
これから先の未来には、明るい出来事が待っているような気がしたのだった。
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