2.あまりにも、真っすぐだから。
人の心は複雑怪奇で、難しいっすね_(:3 」∠)_
夜のダンジョンの空気は、魔力の源とされる魔素が濃くなり、重苦しい印象になるという。画面越しのリスナーには伝わらないが、涼子と玲音は肌でそれを感じていた。意識次第かもしれないが、どことなく呼吸も苦しく思えてしまうほどに。
その中で演者を務める玲音は、言葉もなくただ歩き続けた。
そして、折を見て周囲を確認して毒蛇の影を探す。
『この配信ってさ、どう見れば良いんだろう』
『夜のダンジョンってだけで、ヤバいのは分かるんだけどさ』
『頼むからグロだけは勘弁してほしい』
コメント欄にはあまりの雰囲気に、相も変わらず困惑が見て取れた。
この配信では涼子さえも、リスナーの反応を確認していない。スマホの電源は切っているし、配信用カメラはあくまで、アカウントに映像を飛ばすだけの機能しかないのだ。
そして、その判断をしたのは涼子の方。
彼女はこう、玲音に言ったのだった。
「周りのことなんて、気にしなくて良いよ。アタシも気にしないから」――と。
そこにはいったい、どんな思いがあったのか。
それ自体は涼子にしか分からないが、もしかしたら玲音という少女の気持ちに寄り添ったのかもしれなかった。自己中心的ではあるが、あまりに繊細な彼女の精神。傷だらけのまま誰にも守ってもらえなかった彼女を涼子は、放っておけなかった。
玲音の背負ったものは、どこか達治と似ていたから。
「みなさんのコメント、アタシには見えてません。でも、これだけは言わせてください」
そして、涼子は言った。
そのように前置きをしてから、自分の考えを。
「アタシも、不思議な感覚なんです。アルビレオさんに対して本当は怒るべきはずなのに、突き放そうとは思えない。そしてきっと、たっちゃんも――」
凛として、迷いなどない口調で。
彼女はハッキリと、配信を見るすべての人々に告げるのだった。
「アタシの大好きな彼も、同じことをしたと思うから」――と。
その言葉に、コメントは何も言い返せない。
中には呆れた者もいただろう。しかし、これを否定するのは野暮にも思えた。当人たちの気持ち以上に、配信を左右するものはないのだろうから。
彼らがそう言うのなら、仕方ない。
離れる者は離れ、残る者は残れば良かった。
「えっと、すみません! アタシからは以上です!!」
だが、とても不思議なことに。
この配信から離れる者は、ほとんどいなかった。
涼子の言葉はあくまで憶測でしかないのに、真実のように思えたのかもしれない。人の心はとても複雑で、理解し難くて、必ずどこか捻くれている。
だけど、だからこそ――。
「え、えへへ……本当に、バカみたいですよね!」
あまりに真っすぐな言葉は、リスナーたちの胸を打ったのかもしれない。
◆
――二人の様子を見つめる掲示板の住人たちは、静かにただ見守っていた。
ほとんど誰も書き込まず、彼女たちの決定を見守るのだ。
そして、涼子の言葉にこう返す。
『本当に、バカみたいだよ』
『あぁ、本当にバカだ』
だけど、それは罵倒ではなく。
スレに残った者はみな、このように思うのだった。
「(いまはもう、彼女たちを信じるしかない)」――と。
ジャンル別月間9位感謝です。
かなりクセの強い作品、展開ですが、ついてきて下さってありがとうございます。
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