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【緊急配信】たっちゃんのチャンネルがいきなり動いた件【情報求む】

もうね、こういう展開は好き嫌い分かれるだろうな、って。

拙者、理解してるっすから。







 ――昼の配信以降、掲示板では達治の安否が危ぶまれていた。

 トゥイッターなどでも情報は一切なく、ただただ不気味な時間だけが流れ続ける。そのまま夜になり、多くの住人が最悪の事態を考え始めた。


 そんな時、突如として彼のチャンネルで配信が開始される。

 誰もが困惑する中、ひとまずスレが立てられるのだった……。




『えっと、どうしてアイツが映ってるんだ?』

『これって「アルビレオ」だよな』

『なんか嫌な予感がするんだけど、俺だけか』



 配信画面に映し出されたのは、仮面をつけた一人の少女。

 それは昨今、少しばかり話題になっていた配信者――『ミス・アルビレオ』の特徴だった。特に達治のファンにとっては、良い印象の少ない相手である。

 しかし、そんな彼女がどうして達治のチャンネルに出ているのか。

 住人たちやコメント欄の者はみな、息を呑んで状況を見守っていた。



【みなさん、こんばんは。――ミス・アルビレオです】



 そして長い沈黙の後に、アルビレオが口を開く。

 同時に仮面を外し、初めてその顔を公に晒したのだった。



『おい、こいつって弟子じゃないか!?』

『どういうことだよ、弟子=アルビレオ、って!』

『もう、なにがなにやら……』



 あまりに突飛な出来事であるために、誰もが混乱する。

 その中で、アルビレオ――白鳥玲音は、淡々と状況を語り始めた。



【わたしは、間違い――いいえ、罪を犯しました。素性を隠して『たっちゃん』に近付き、結果として大きな怪我をさせてしまったのです】



 彼女は眉一つ動かさず、まるで機械のように話している。

 それはきっと、あえてのことだった。情に訴えるのではなく、弁明をするのではなく、ただ事実を事実として伝えるために。感情が入ってしまえば、平等ではないから。一方的な気持ちの発信では、意味などないのだから。



【まずは、この配信を見るであろう彼に心から謝罪します。そして彼のことを愛するすべての人にも、彼を傷付けてしまったことへ深くお詫びを申し上げます】



 コメントや、掲示板への書き込みは困惑ばかり。

 速度も非常に遅く、誰もが彼女の言葉に注意を払っていた。



【彼は現在、モンスターの毒によって危険な状況にいます。このままではきっと、その毒で命を落としてしまうでしょう。すべての責任は、わたしにあります】



 その発言に、ようやくリスナーがざわつき始める。

 不安や心配の他に、アルビレオに向けての怒りの声が増えていった。中には理性を失ったような過激さを持つものまである。だが、配信は止まらずに続けられた。

 まるで、それこそが贖罪であるかのように。

 玲音はそこでようやく、小さく息を吸う仕草をしてから――。



【配信者の償いは、配信でしかできません。ですから、わたしは――】



 このように、口にするのだった。





【この配信を終えると同時に、引退することを誓います】――と。





 その意味を理解する者は、コメント欄や掲示板にどれだけいただろう。

 いや、きっといない。この言葉と宣言が、いったい彼女にとってどれだけの意味を持つのか、知る者などいるはずがなかった。

 仮に知っている者がいるとすればそれは達治か、あるいは涼子だけ。

 玲音にとって『アルビレオ』を捨てることは、すなわち生きる手段を手放すことに他ならないのだ、と。




【それでは、行きましょう。……ダンジョンへ】




 非難のコメントは、後を絶たなかった。

 事情を知らない者たちによる正義は、石の礫のように彼女に投げ続けられた。それでも玲音は振り返ることなく、感傷に流される素振りもなく、そこへと足を踏み入れる。

 その姿はまるで、自ら深い闇に呑み込まれていくかのようでもあった……。








 その配信を見終えて、俺は思わず唇を噛んだ。

 そして、全身の痛みを堪えながらまた、ダンジョンへ向かって駆けだす。




「馬鹿野郎が……! いつ、誰が――」




 思わず感情のままに、こう口走りながら。





「そんなことを望んだ、ってんだよ!!」




 


 

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