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7.達治の過去と、二人の行方。

はい、第3章ここまで!!

次回から解決編?です!!








 ――その日は雨が降っていた。

 だけど何てことのない、いつもと変わらない日だったと思う。

 幼い俺は決まって、父さんの帰りを家の前で待っていた。この時も傘を差しながら、田舎の景色を眺めて大好きな人の帰宅を待っていたのだ。



『ぱぱ、おそいなー……』



 足元の水溜まりで、ぺちゃぺちゃと遊びつつ。

 俺は思わずそんなことを呟いて、わざといじけるようにしゃがみ込んだ。こうしていると、決まって次には父さんが笑いながら姿を見せるから。

 子供なりのルーティンやジンクス、というものだったのだろうか。

 だから俺は、いつものように振舞う。



『ん……?』



 しかし、この時だけはいつもと違った。

 傘の向こう側から、耳に耳慣れない音が聞こえてきたのだ。それが何の音だったのかは、今でも分からない。だけどハッキリと記憶にあるのは、その次の出来事だった。




『ぱ、ぱ……?』

『あー……良かった、お前が無事で』




 ほんの少し、意識が混濁した後に。

 俺は最愛の父に抱きしめられ、濡れた地面に横たわっていた。父さんは呼吸荒く俺を抱きしめると、何度も何度も、頭を撫でてくる。

 そして、何度も何度も、同じことを繰り返し言うのだった。




『お前を守れて、良かった』――と。




 幼い俺はその意味が分からず、ただされるがまま。

 首を傾げていると、やがて父の手は動きを止めてしまった。



『どうしたの、ぱぱ……?』




 だから不思議に思い、問いかける。

 でも、それに対する答えは返ってこなかった。



 ――そう、永遠に。









「あの日、の……夢?」



 俺が目を覚ますと、そこには見慣れた天井。

 どうやら眠っていたらしい。しかし、それにしたって懐かしい夢を見たものだ。子供の頃は何度も見たけど、大人になった今になってもう一度とは思いもしなかった。


 もしかしたら、玲音とあんなやり取りをしたからかもしれない。

 仕方ない話だが、できれば見たくはなかった。

 そもそも、思い出したい人は少ないだろう。


 自分の『父が死ぬ瞬間』なんてものを。



「………………」



 母さんの話によると、父の死は事故だったらしい。

 雨による視界不良。そんな中で、しゃがみ込んでいた子供の俺。だからドライバーは俺に気付かず走行し、父が身を挺して俺のことを庇ったの『だろう』と。


 ちなみに、件の車というのは見つかっていない。

 これはあくまで警察の立てた仮説であって、答えではなかった。


 あの日は長く雨が降っていた。

 証拠らしいものはそれに洗い流され、さらには目撃者もいない。ただただ、幼い俺を守るように抱きかかえた父が亡くなっていた。そんな事実だけが宙に浮いている。

 そんな状況だった、という話だ。



「……父親、か」



 俺はそこでふと、玲音のことを考える。

 あの少年は、自分が父親に愛されていないと思っていた。

 そして父を奪った周囲に対して、強い敵対心を秘めている様子だった。俺はそんな彼がどうしても放っておけなく思えて、それで――。



「あ、そうだ……!」



 そこまで思考を巡らせて、ようやく思い出す。

 俺は彼を庇った際に、何かしらのモンスターから一撃を受けたのだ。それ以降のことは朧気にしか記憶しておらず、二人がどうなったのかも知らない。

 だから慌てて、従兄妹たちを探すために立ち上がろうとした。すると、



「ぐ、う……!?」



 腹部から、凄まじい痛みが広がる。

 全身から脂汗がにじみ出して、瞬間の目眩に襲われた。

 これはいったい、どういうことだろうか。俺の身体はどうなったのか、それが分からず、しかし出所不明な焦燥感に襲われて歩き出した。



「アンタ、もう大丈夫ながけ!?」

「え、母さん……?」



 そうすると、部屋を出たところで遭遇したのは母さんだ。

 母さんはどこか困惑した様子で、こう言う。



「涼子ちゃんたちから聞いたんよ、アンタがモンスターの毒で倒れてる、って!」

「モンスターの、毒……俺、が?」



 それを聞いて、ようやく自分の身体について合点が行った。

 なるほど、そういうことか。きっと玲音に襲い掛かった黒い影は、毒を持ったモンスターだったのだろう。俺は無様に、その一撃を喰らったということだった。

 だったら、これも納得できる。

 そう思いながら俺は、母さんに訊ねた。



「あれ、それで二人は……?」



 涼子はともかく、玲音はこの家に宿泊している。

 だとしたら姿が見えないのは、なぜか。



 そう思っていると、母さんが思い出したように慌て始めた。





「そうだ! それで、二人が飛び出していったんよ!!」

「飛び出した、って……どこに?」




 俺が訊き返すと、母は続ける。

 そして、それを耳にした瞬間に――。




「二人で、ダンジョンにやよ!!」

「なっ……!?」





 俺の身体から、さっと血の気が引いていくのだった。



 


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