7.達治の過去と、二人の行方。
はい、第3章ここまで!!
次回から解決編?です!!
――その日は雨が降っていた。
だけど何てことのない、いつもと変わらない日だったと思う。
幼い俺は決まって、父さんの帰りを家の前で待っていた。この時も傘を差しながら、田舎の景色を眺めて大好きな人の帰宅を待っていたのだ。
『ぱぱ、おそいなー……』
足元の水溜まりで、ぺちゃぺちゃと遊びつつ。
俺は思わずそんなことを呟いて、わざといじけるようにしゃがみ込んだ。こうしていると、決まって次には父さんが笑いながら姿を見せるから。
子供なりのルーティンやジンクス、というものだったのだろうか。
だから俺は、いつものように振舞う。
『ん……?』
しかし、この時だけはいつもと違った。
傘の向こう側から、耳に耳慣れない音が聞こえてきたのだ。それが何の音だったのかは、今でも分からない。だけどハッキリと記憶にあるのは、その次の出来事だった。
『ぱ、ぱ……?』
『あー……良かった、お前が無事で』
ほんの少し、意識が混濁した後に。
俺は最愛の父に抱きしめられ、濡れた地面に横たわっていた。父さんは呼吸荒く俺を抱きしめると、何度も何度も、頭を撫でてくる。
そして、何度も何度も、同じことを繰り返し言うのだった。
『お前を守れて、良かった』――と。
幼い俺はその意味が分からず、ただされるがまま。
首を傾げていると、やがて父の手は動きを止めてしまった。
『どうしたの、ぱぱ……?』
だから不思議に思い、問いかける。
でも、それに対する答えは返ってこなかった。
――そう、永遠に。
◆
「あの日、の……夢?」
俺が目を覚ますと、そこには見慣れた天井。
どうやら眠っていたらしい。しかし、それにしたって懐かしい夢を見たものだ。子供の頃は何度も見たけど、大人になった今になってもう一度とは思いもしなかった。
もしかしたら、玲音とあんなやり取りをしたからかもしれない。
仕方ない話だが、できれば見たくはなかった。
そもそも、思い出したい人は少ないだろう。
自分の『父が死ぬ瞬間』なんてものを。
「………………」
母さんの話によると、父の死は事故だったらしい。
雨による視界不良。そんな中で、しゃがみ込んでいた子供の俺。だからドライバーは俺に気付かず走行し、父が身を挺して俺のことを庇ったの『だろう』と。
ちなみに、件の車というのは見つかっていない。
これはあくまで警察の立てた仮説であって、答えではなかった。
あの日は長く雨が降っていた。
証拠らしいものはそれに洗い流され、さらには目撃者もいない。ただただ、幼い俺を守るように抱きかかえた父が亡くなっていた。そんな事実だけが宙に浮いている。
そんな状況だった、という話だ。
「……父親、か」
俺はそこでふと、玲音のことを考える。
あの少年は、自分が父親に愛されていないと思っていた。
そして父を奪った周囲に対して、強い敵対心を秘めている様子だった。俺はそんな彼がどうしても放っておけなく思えて、それで――。
「あ、そうだ……!」
そこまで思考を巡らせて、ようやく思い出す。
俺は彼を庇った際に、何かしらのモンスターから一撃を受けたのだ。それ以降のことは朧気にしか記憶しておらず、二人がどうなったのかも知らない。
だから慌てて、従兄妹たちを探すために立ち上がろうとした。すると、
「ぐ、う……!?」
腹部から、凄まじい痛みが広がる。
全身から脂汗がにじみ出して、瞬間の目眩に襲われた。
これはいったい、どういうことだろうか。俺の身体はどうなったのか、それが分からず、しかし出所不明な焦燥感に襲われて歩き出した。
「アンタ、もう大丈夫ながけ!?」
「え、母さん……?」
そうすると、部屋を出たところで遭遇したのは母さんだ。
母さんはどこか困惑した様子で、こう言う。
「涼子ちゃんたちから聞いたんよ、アンタがモンスターの毒で倒れてる、って!」
「モンスターの、毒……俺、が?」
それを聞いて、ようやく自分の身体について合点が行った。
なるほど、そういうことか。きっと玲音に襲い掛かった黒い影は、毒を持ったモンスターだったのだろう。俺は無様に、その一撃を喰らったということだった。
だったら、これも納得できる。
そう思いながら俺は、母さんに訊ねた。
「あれ、それで二人は……?」
涼子はともかく、玲音はこの家に宿泊している。
だとしたら姿が見えないのは、なぜか。
そう思っていると、母さんが思い出したように慌て始めた。
「そうだ! それで、二人が飛び出していったんよ!!」
「飛び出した、って……どこに?」
俺が訊き返すと、母は続ける。
そして、それを耳にした瞬間に――。
「二人で、ダンジョンにやよ!!」
「なっ……!?」
俺の身体から、さっと血の気が引いていくのだった。
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