5.憤怒と油断、視野狭窄による毒蛇の一撃。
好みが分かれると、覚悟の一話です。
お……お手柔らかにお願い申し上げます(震え声
※たぶん、昼は予約投稿になります。夜の分は用事から帰宅後、頑張ります。
――『少女』は父に愛されたかった。
しかし父が愛したのは、自分や家族ではなく地位と富、そして名誉。いたるところにダンジョンができて、世界の情勢は一変した。
戦わなければならない。
そうとなれば、今までにない武器が必要だ。
少女の父が経営していた会社は、勝負に打って出て勝利した。
『ねぇ、パパ……? わたし、学校で一番良い成績だったんだよ』
届かない。少女の声は、父の背には届かなかった。
次第に会う機会すらなくなって、繋がりは時々に流れてくるニュース記事だけになる。世界を支えた偉人と呼ばれる父親を誇る気持ちと、父を奪った世界への嫉妬が同居した。
そして、いつの日からか怒りへ。
自分のことを見ない父に、愛憎が渦巻いた。
『見ないのなら、見える場所まで行ってやる』
利用できるものは、すべてを利用して。
父が積み上げたものさえ、踏み台にして。
誰に理解されなくとも構わない。
少女はただ、ずっと父からの愛に飢えていた。
◆
「(分かったようなことを言って、どうせ踏み台のくせに……)」
――玲音は自身の中に土足で踏み入った達治に、激しい怒りを抱いていた。
とかく『彼女』にとって、親という言葉は地雷そのもの。そして分かったように何かを語られるのが、反吐が出るほど嫌いだったのだ。
だから玲音は、思わずあのように口走ったのだろう。
隣を歩く達治は何かを察して、口を噤んだまま開こうとはしなかった。
「(本当に、ムカつく。……誰も『わたし』を理解しない。できないんだ)」
心が捻じ曲がって、自覚すらなくなったのはいつからか。
玲音という名の少女はただ、尊敬していた父の愛を受けたかっただけなのに。いつしか世界中が敵になって、誰も味方はいなくなった。
家族さえバラバラになり、今はもうどこにいるかも知らない。
だけど唯一、居場所を知っている父は――。
「なぁ、玲音……?」
「――え、はい!? どうかしましたか、師匠?」
そんな思考の渦の中から、途端に彼女をすくい上げたのは達治だった。
彼は前を向いたまま何かを考え、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「事情は知らないけどさ、親ってのは簡単に子供を無視できないよ」
「は……?」
小さく、彼女にだけ聞こえる声で。
そこにあるのは、いつになく真剣な色だった。だから、
「見捨てられないんだ。きっと、どうしても……」
「…………」
玲音は思わず息を呑む。
いつもなら聞き流すような内容に、耳を傾けてしまった。
だが彼女は、すぐに唇を噛んでうつむく。拳を握り締めて、震わせる。
「だから、何だっていうんですか?」
「いや、何でもないよ。今のは俺がそう思って、そう言っただけだ」
「…………貴方は、僕の何も知らないじゃないですか」
「そうだな。俺はまだ、本当の玲音を知らない。でもさ――」
そんな玲音に、しかし達治はこう言うのだった。
「俺たち、もう『友達』だろ……?」――と。
それはきっと、玲音が今まで耳をふさいでいた言葉の一つ。
世界のすべてを敵と思う彼女には、無縁のものだった。
「は、はは……」
乾いた笑いが出てくる。
そして思うのだ。この男は、正真正銘の馬鹿なのだ、と。
「だったら、証明して下さいよ。……師匠?」
「玲音……?」
だから、彼女は挑発するように言った。
こうなったら『計画』なんて、どうでも良いとさえ考えて。
「僕の友達に相応しい、って……証明してみろよ!!」
ダンジョン全体に響くような、大きさで叫ぶのだった。
悲鳴のような声で、玲音はただ喚き散らす。
「え、なに……? どうしたの!?」
そんな彼女の豹変ぶりに、最も驚いたのは涼子だった。
とっさにカメラのレンズを塞ぎながら、狼狽えた声を漏らしている。
だがしかし、そんな中でも平静だったのは意外にも達治だ。彼は数歩先で自身を振り返った玲音から目を離さず、真っすぐに見つめている。そして、その視線は――。
「なんだよ、その目は!? どうして、そんな――」
悲しげで、今にも泣き出しそうな達治の眼差しは。
「可哀想なものを見るみたいな目を、僕に向けるんだよ!!」
「たっちゃん、危ない!!」
玲音にとっては、腹立たしいものでしかなかった。
だから彼女は手にした袋に手を突っ込んで、中から抜き身の日本刀を取り出す。涼子は配信を中止して、達治に逃げるように叫んだ。
だが彼が次に取った行動は、二人の想像とはまったく異なるもの。
「…………え?」
達治は素早く玲音に駆け寄って、その小さな身体を突き飛ばす。
そして、次の瞬間――。
「か、は……!?」
小さな蛇型のモンスターの牙が、彼の腹部を貫いたのだった。
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