4.玲音の事情と、忍び寄る危険。
スマホから投稿。
明日の分、今から書きまーす。
「さて、そろそろ配信を開始するけど……二人とも、準備は良いか?」
「はい! 師匠!」
「うん、いいよー」
いつものダンジョンの中にて俺は安全を確認した後、二人に確認した。すると彼らからは元気の良い返答があり、準備は万全であることが分かる。今回の配信で、撮影を担当するのはリョウだ。そして演者は俺と、にこにこ笑顔の玲音。
手招きすると、彼は小走りにこちらへやってきた。
そこで、ふと俺はあることに気付く。
「あれ、玲音……その袋は何だ?」
「これですか? これは、後のお楽しみです!!」
「ほー……」
彼の手には小さな袋が握られていた。
道中のゴミでも拾うのか、とも思ったが理由もないし小さすぎる。あるいは先日の鉱石を採掘して、持って帰るのが目的なのだろうか。いいや、そもそも採掘に必要な道具自体がないのだから、その線もあり得なかった。
だから俺は、あえて訊かないなりにも首を傾げて考える。
あと思い返してみれば、彼の素性も詳しくは聞いていなかったような……。
「まぁ、今はいいか。それじゃ――」
などと考え、しかし俺は首を左右に振った。
そして、景気よく発声するのだ。
「今日も元気に、配信開始だ!!」
◆
「改めて、憧れの師匠と一緒に配信できるなんて! 僕、感激です!!」
「今更だけどさ、その師匠呼び、やめない……?」
そんな感じで、俺たちは軽い雑談をしてからダンジョンを探索開始する。
もっとも以前行った場所まで、危険らしい危険はない。ダンジョンによるそうだが、一度倒したモンスターが再出現するまでは、相当の日数を要するとのことだった。
だからドラゴンもアークデイモンも、いまはまだ出てこない。
俺はこの機会に、玲音について訊いてみることにした。
「そういえば、玲音はどうして配信者になりたかったんだ?」
「僕、ですか……?」
それは何気のない問いかけ。
しかし、彼にとっては思った以上に虚を突かれた様子だった。
少しばかり視線を伏せてから、撮影カメラに乗らないような大きさで答える。
「認めて、もらいたいんです」――と。
その言葉に、思わず声を詰まらせた。
すると玲音はなにかスイッチが入ったらしく、こう話を続ける。
「僕の父は会社を経営してるんですけど、最近になってそこが凄く大きくなったんです。業績も何もかも右肩上がりで、世界的にも有名になってきて……」
俺はそれに黙って耳を傾けて、あえて邪魔はしなかった。
何故なら、きっとそこに玲音という少年の思いの核があると思ったから。そしてその予測は正しかったらしく、彼はだんだんと強い声で話し始めるのだ。
「そのうちに、父は僕になにも期待しなくなった。僕のことなんかよりも、会社の用事を最優先に考えるようになって、家族が次第に離れ離れになっていった」
悲痛にも思えるその声に、今度はこちらが辛くなってくる。
いったい、この少年の背後にはどんな過去があったのか。俺がそう考えていると、話し過ぎたことに気付いたらしく、玲音は苦笑いを浮かべながら最後を締めくくった。
「あ、あはは……! だから僕は少しでも、自分の力を見せたいんです!」
「それは、親父さんに振り向いてほしいからか……?」
「………………」
だけど、逃げようとする彼を俺は呼び止める。
一つの質問を投げかけると、玲音は不意に立ち止まってうつむいた。俺も同じように歩みを止めて、自分なりの言葉を伝える。
「でも、危険な配信者になることを親父さんは望んでいるのか……?」――と。
普通の親御さんだったら、きっと実の息子に危険な道を歩ませたくはないはず。それに大前提として、玲音の論理には穴があるように思えた。
認めてもらいたいから強さを示すなんてのは、あまりに飛躍が過ぎている。
そう思っていると、彼は小さく拳を震わせて小さく言った。
「貴方には――」
ゆっくり歩きだして、すれ違う瞬間に。
「貴方には、何も分からないですよ……!」――と。
◆
『うわー、新人の子マジ美少年』
『こんなに可愛い子が女の子のはずがない!』
『玲音きゅんhshs』
コメント欄は、新たに現れた美少年に魅了されていた。
涼子はその書き込みをどこか、一歩引いた気持ちで眺めている。そして時折に声が乗らないよう気を付けながら、ため息を重ねるのだった。
「むぅ……」
そんな中で彼女は頬を膨らせる。
理由は単純、原因は視線の先にいる達治と玲音だった。
涼子は楽しげに話しているような彼らを見ながら、思わずこう漏らすのだ。
「たっちゃん、鼻の下伸ばしちゃってさぁ……」――と。
すると、配信に声が乗ってしまったらしい。
コメント欄が一気に、涼子に向けた書き込みで溢れ返った。
『お、リョウちゃん嫉妬? 嫉妬かな?』
『可愛いねぇ、初々しいねぇ……!』
『もう、俺にしなよ』
なんとも暴走気味な彼らのそれに、涼子は思わず赤面する。
そして、こう声を上げた。
「ア、アタシはたっちゃんのこと、なんとも思ってないんだからね!」
――火に油である。
コメント欄には『ツンデレキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!』という文字が飛び交い、いよいよ収拾がつかなくなってしまう。涼子も気恥ずかしさから言い返すので、周囲へ意識が及ばなくなっていった。だから、気付かない。
『アレ? いま、何か横切らなかった?』
高速で流れるコメントの中。
何かに気付いた冷静なリスナーが発した危険信号にも……。
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