炎上! キラメキエンターテイメント
「まあ本人の口から説明してもらった方が早いのでございマス。凸者さん、どうぞ」
「あ、コ、こんにちは」
アノニマスに促されて喋り出した声は、かなりきつく音声が加工されていて、今時ロボットでも出さないような機械声になっていた。
「キラメキエンターテイメントで、とあるVtuberの演者をしています」
自称演者の語るキラメキエンターテイメントの実態は、驚くべきものだった。
事前情報として、キラメキエンターテイメントについて語っておく。キラメキエンターテイメントは『バーチャルで探そう、あなただけのキラメキ』を合言葉に発足した、いわゆる企業箱。バーチャル興業よりは箱の結束が強く、FIPよりは自由度が高いプロデュースをしている。他の箱とVtuber同士で絡むよりも、地上波テレビへの出演やリアルtuberとのコラボなどで数字を伸ばしてきた。歴史の浅いVtuber業界では、かなりの古株企業である。もともとはテレビ番組の制作会社だったこともあり、配信勢が有力な昨今のVtuber業界において、企業アカウントでクオリティの高い動画を毎日投稿していることも売りだ。
現在所属しているVtuberは女性13名、性別不詳(人間)3名、性別不詳(人外)2名、男性2名の計20名。……余談だがVtuberの性別って、まあ特にいう必要ないんだけど、ややこしいなぁ。性別不詳(人外)というのはスライムとタランチュラである。どちらも擬人化されていないガチスライムとガチタランチュラ。FIPのようなアイドル売りの事務所だったら考えられない見た目である。ちなみに一Vtuberオタクの私としては、スライムの方はトークが面白いのでよく見る。タランチュラの方は見た目が怖くてあまり見れてないがホラゲガチ勢で……。
脱線してしまった。要は所属しているVtuberが御三家でも特に少ない事務所で、演者の暴露なんて匿名性があってないようなものである。そんなことはおそらく本人が一番よくわかっているはずなのに、暴露にふみきったというのがまず驚きだ。
そして彼女の語る内容がまた驚きだったのだ。彼女の話は混乱しているのかまるで要領を得なかったが、まとめると以下のような内容になる。
Vtuberとしてデビューし、順調に数字を伸ばしていった彼女だが、男性スタッフの一人に交際を迫られ、断ると露骨に冷遇されるようになった。冷遇の内容は、案件をまわしてもらえない、3D撮影の際の機材準備を後回しにされる、所属Vtuber全員に連絡されていた事柄が一人だけ連絡されない、社内で『あの子は態度が悪いしやる気がない』『ネットで知り合った男と遊ぶのに夢中で配信をさぼっている』と言った陰口を叩かれるなど。要するにパワハラとセクハラである。コメントによれば、陰口と内容が一致する内容が匿名掲示板に書き込まれていたこともあるようで、本当だとすれば訴訟ものの嫌がらせだ。
「アノちゃんに頼らざるを得ないなんて、その状況がひどいのでございマス」
お前がいうな、と言いたいところだが、事務所内で孤立していてセクハラを受けている凸者には、同じVtuberのミス・アノニマスが味方になってくれていることが心強かったようだ。
「誰にも、相談できなくて、本当に辛かったです」
ロボットじみた加工された声でも、凸者の苦しみは痛いほどに伝わってきた。
「仕事に恋愛もちこむなんて最悪にございマス。演者は企業に逆らいづらいのだから尚更、対等なのにパワーバランスが生まれてしまうんだから絶対に、そのスタッフは凸者に恋愛感情を持つべきではなかったし、持ってもしまっておくべきだったの。意識的かそうでないかを問わず、立場を利用した恋愛はセクハラなのでございマス。部下と上司の恋愛は、フィクションで十分なのでございマス。アノちゃんは凸者の味方。どんな大きな企業だって戦ってみせるんだから」
事件こそVtuber企業の中で起こったことだが、パワハラやセクハラといった社会的な問題を内包していることから、炎上はかなり大規模なものになった。アノニマスの『部下と上司の恋愛は、フィクションで十分』という発言も、誰もが食い付きやすい内容であったことからツブヤイターのトレンドに居座り、インターネットを駆け巡っていった。
図らずも他の炎上を鎮火しながら、キラメキエンターテイメントの炎上はどんどん大きくなっていったのである。




