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何はともあれデビューです

 大学を卒業し、就職に失敗。ちょっとメンタルを病んだ。よくある話なんだと思う。


 友達だと思ってた人に


「もはや社会に向いてないよ」


 なんて暴言を吐かれた。……よくある話じゃないといいな。普通に傷つくから。


 そんな私だが親友のおかげで大学卒業から一年経たずに就職できた。今日は記念すべき日。緊張するな……。


「えー。本日はお日柄もよく……」


「前置きいいから本題いこーぜ」


「恋沼さんの話を遮らないでください」


「だってひかるちゃんの話クソ長いじゃん」


「佐藤さんがいちいち話の腰を折るからですよ」


 ……前途多難である。


 説明しよう! 私、恋沼ひかるは男性企業Vtuberユニット『感情交差点』のマネージャー。元ニートのもうすぐ二十三歳。ユニットは本日デビュー。私の挨拶を遮ったチャラい喋り方の男とその男に突っかかった敬語の男が担当ユニットのいわゆる魂、中の人である。


 チャラい喋り方の男、佐藤三ツオリオンはフリーターの、高身長にプリン頭の塩顔雰囲気イケメン。彼に突っかかった男、いぬい大輝ひろきは大学二年生。小柄でボストンタイプの眼鏡をかけた超絶美少年である。いや二十歳に少年はおかしいが、そういう雰囲気なのである。


 それまで女性の代表と彼女のファンが支えてきた中堅Vtuber事務所に新風を巻き起こすべく、デビューの決まった『感情交差点』だが、デビュー前に一人不祥事で脱退。なんとかデビュー日が決まったが、ネットの雰囲気は歓迎とは言い難い。


「大輝さあ、タメで話そうっていったじゃん。いつまでも敬語なのどうにかなんない? 」


「努力はしてますが……」


「それがもう敬語じゃん」


「すみません……」


 なんやかんやと話している二人。大輝が押され気味である。


「まあまあ佐藤さん、徐々に仲良くなっていくもんだから」


「その佐藤さんって呼び方も気に食わないなあ。そんなん実質量産型じゃん」


 おい。全国の佐藤さんに謝れ。この佐藤さんは、作詞作曲をする元バンドマンという属性からかなんなのか、真面目な雰囲気だとすぐ茶化すし、語彙が大概独特である。佐藤さんは言葉を続ける。


「名前キラキラしくて好きくないから、前そう呼ばれてたしみっくんがいいな」


「ハイハイ。みっくんみっくん」


「テキトーか? まあこれから名乗る名前で呼んでくれても構わないけどね。『赤城クロノ』ってなかなか呼びづらいけど」


「Vtuberとしての活動名は、配信外でむやみに出さないで。それで身バレした人多いんだから」


 そう。彼の活動名は赤城クロノ。半人半魔という設定だ。一応、大輝にも念を押す。


「大輝くんもね」


「わかってます」


 大輝の活動名は蒼川ハクトである。同じく半人半魔という設定。


 同じ半人半魔ながら、見た目も性格も正反対の二人によるVtuberユニット。それが感情交差点のコンセプトだ。


 同じ事務所でVtuberとしても活動する、担当イラストレーターのギンガミキさん、通称ミキママのこだわりが詰まったキャラクターデザインは、身内の贔屓目を差し引いてもかなり見栄えがする。


 赤城クロノが赤、蒼川ハクトが青緑というテーマカラー。クロノが日焼けした肌に黒髪赤眼の垂れ目でツリ眉、ハクトが色白で白髪蒼眼のツリ目で垂れ眉、と顔立ちもはっきり違い、身長は中の人を反映してわりと身長差がある。クロノが牛のようなツノが生えた鬼っぽい青年、蒼川が立ち耳と尻尾の生えた犬系獣人っぽい少年で、二人ともテーマカラーのパーカーを着ているが、クロノが前を開けて黒のインナーが見えるように着ているのに対し、ハクトはきっちりしめている。足元はクロノは足首までのジャージのズボン、ハクトはハーフパンツで二人ともテーマカラーのスニーカー。統一感がありつつもシンプルなデザインはイラストレーターさん曰くファンアートが描きやすいよう工夫したそうで、確かにシルエットで差別化されているのは絵柄が違ってもすぐに二人だとわかるので強い。脱退した人は黄色がテーマカラーだったのだが、あのデザインがボツになったのは本当に惜しい。Vtuberにおいてめちゃくちゃ大事な『顔面』ちょっと嫌味な言い方すればガワは優秀も優秀。優勝である。


 ……ちょっと熱く語りすぎたかも。私、オタクなもので。


 ともかく今日私がすることは、二人の激励と配信の見守りである。ハクト、クロノの順番で、それぞれ三十分自己紹介をする。私はモデレーターとして、変なコメントがあればチャットから追い出し、スパムは通報する。本人たちよりよほどソワソワしながら、私はその時を待った。


 今はまだ無名も無名の彼ら。チームとしてもまだまだの私たち。でも私は彼らの才能を信じてるし、大好きなVtuberの世界に裏方として関われるのはとても嬉しい。物語は今、この時から始まるのだ。

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