第一話 二人の約束
唐突に書き始めたのと、私自身何かを書くということが苦手な方なのでクオリティはだいぶ低いと思います。けれど、コメントなどをしてくださるとうれしいです。気に入ってくれた方が少しでもいらっしゃったなら続編も出します。
プロローグ
いくつもの砲弾が恐ろしい音を立て、私のいる塹壕のそばに落ちる。一度ではなく何度も。今にも逃げ出したいけれど、逃げ出そうと塹壕を出たところで私の体は砲弾の破片に貫かれるか、機関銃の餌食になるのがオチだろう。それでも私は塹壕の中で私の身長より少し短いライフルを抱きしめ、砲弾の雨が止むのを待っている。きっと、生きて帰れると信じて。
第一話
私は小さな農家に生まれた。父と母と3人でお世辞にも広大とは言えない畑、木造で複雑な構造をしていながらもきっちりとしている家で暮らしていた。時には農作物を友達にふるまってみんなで食べていた。近所の男の子たちはみな、大きくなったら兵隊になるんだと自慢していた。腕っぷしのある男の子は歩兵に、頭のいい子は砲兵に、馬が家にいる子は騎兵に憧れていた。一方で女の子の夢と言えばおしゃれな服を売っているお店で働くことや、パン屋や、花屋で働くことを夢見ていた。私もそのうちの一人で、大きくなったら花屋でキレイなお花を売りたいとばかり両親によく話していた。そんな中で、私の住んでいる国のドイツは戦争を始めた。けれど、最初のうちはみんなすぐに戦争なんか終わるだろうとばかり話していた。それ以前の戦争はすぐにドイツの勝利で決着がついていたし、今回も同じように終わるだろうと。私の家系であるエスターライヒ家は小さな農家でありがなら、軍需物資のための農作物を拠出しなければならなかった。ただ、最初のうちはそれも拠出してもおつりがくるくらいであまり生活が困るといったようなことはなかった。父も徴兵される前に戦争が終わるから安心しろと私の頭を撫でていた。しかし、みんなの予想と反してまったく戦争が終わる気配はなかった。それどころか、最初はロシアとフランスだったのに、イギリスも参戦してきて今までの戦争とは明らかに格が違うということがわかってきた。そして、父親が出征し、二度と帰ってこなかった子もいた。気が付けば、最初のお祭り騒ぎは嘘みたいにみんなはうちに遊びに来なくなったし、私もあまり外出はしなくなった。ぜいたく品や戦争に使えるのもはどんどん持っていかれたし、馬を持っていた家の子の馬も持っていかれた。そして、父も戦争に行かねばならない時が来た。それは私がちょうど18歳になる誕生日だった。私たちの家では毎年友達を呼んで盛大に誕生日会をしたものだが、今年は料理もあまり豪華とは言えず、私たち家族はあまり明るい気持ではなかった。私も、こんな状況で誕生日を祝ってもらおうだなんて思っていなかった。けれど、まさか最悪の日にはなるとは思っていなかった。誕生日当日の昼。私は父に誕生日だからと農作業のお手伝いはしなくていいから好きなことをしていいといわれ、少し散歩していた。空には飛行船が飛んでおり、真下に大きな影をつけていた。その光景に見とれていると、急に横から声がした。
「リザ、久しぶり。」
クラウス・ヨーゼフ・バーゲルト。私のお隣さんで、同い年の男の子だ。昔から仲が良く、お互いの誕生日は欠かさず家に行っていたほどだ。
「クラウス?どうしてここにいるの?誕生日に来れないって言うからてっきりどこかへ行っているのだとばかり思っていたけれど。」
「いや、今年はなにせあまりお祝い事を盛大にやるべき時ではないと思ったからさ。」
「そうね…そういえば、クラウスの家のお父さんは兵隊さんにとられちゃったりしたの?」
「僕のお父さんは1か月前に徴兵されちゃったよ。時々父から手紙が来て、励ましてくれるんだ。けれど、お父さんが帰ってこれるのか僕も母さんも心配でしょうがないよ。」
「そっか。私のお父さんもいつか徴兵されちゃうのかな。」
「大丈夫。その前にきっと戦争は終わるよ。」
私は最初のころはその言葉を信じていたけれど、今じゃ心配を加速させるだけの言葉だった。それでも、クラウスが少しでも励まそうとしてくれているのはうれしかった。
「今年のクリスマスまでには戦争が終わるといいね。またスケートを近所の湖でしたいんだ。」
「絶対に今年はあなたより早く滑ってやるわ!」
さっきの暗い気持ちを少しでも和らげるために、クラウスと大きな声で、なるべく笑顔で会話しながら、帰路についていた。なのに…
「ねぇ、リザ。君の家の前にいるのって…」
クラウスは言葉を詰まらせる。私もそれを見て、思わず足が止まってしまう。家の前で軍服を着た男が数人、父と母の前で何かを話していた。母は泣きながら父の肩にもたれかかっていた。けれど、父は凛として軍服の男たちに対応していた。いつもは笑顔を絶やさない優しい父があんなにかっこいい顔をするなんてと思っていたけれど、それよりも明らかにさっき話していた…
「あの人たちって、軍隊の人だよね」
「きっと、リザのお父さんの友達だよ!大丈夫さ!」
そんなことではないのはきっとクラウスもわかりきっているはずだ。でも、ほんとのことを言いたくはないんだろう。私は複雑な気持ちだった。ドイツのために戦うことを受け入れた父への羨望と父を失いたくないという気持ちが混ざり合って、ぐちゃぐちゃだった。どれくらいたっただろうか。軍服の男たちは気が付けばいなくなり、私は大粒の涙を流していた。クラウスは不器用に微笑んで私の手を引き、家の前まで連れて行った。そして。
「リザ、お父さんにこれから会うんだろう?」
「うん」
「さぁ、しゃきっとして!お父さんが少しだけ遠くに行くだけさ。出かける前に娘が泣いていたんじゃあ、心配で仕方がなくなるだろう?」
「そうだね!」
涙でぬれた顔をぬぐい、家の扉を開ける。母は父の隣でまだ泣いているようだ。父は私を見るとぎこちなく笑った。
「リザ、実は」
さえぎるように私は言う。
「見てたよ。だから知ってる。」
「そうか。」
居心地の悪い沈黙が流れる。何か言えないだろうか。
「私は、父さんが生きて帰ってくるって信じてる。何より、戦争に勝つんだからきっと多くの人が帰ってくるだろうし、きっと父さんも帰ってこれるって。」
私はそう自分に言い聞かせるように父に言った。父は黙って私を抱きしめて。
「あぁ、必ず生きて帰ってくる。それまではお前に母さんとこの家を任せた。」
「うん!」
私は精一杯の笑顔で父を見つめた。けれど、父はどこかぎこちないような笑顔を見せた。父は私の誕生日から数日後に家を出て、訓練場へ向かった。時々手紙が送られてきて、訓練の厳しさを伝えてくる。戦時中ということもあり、すぐに父の手紙は訓練の話から戦場の話へと切り替わった。そして、父の手紙が途切れるまでの時間はあまりに短かった。母も私も手紙が1週間の間届かなくなったときはまだ心配する程度だったけれど、薄々気づいていた。もう、父さんは。
「エスターライヒさん。いらっしゃいますか。」
野太い男性の声が家に響く。母さんはもう察してしまったようで泣きじゃくっていた。私もそうしたかったけれど、ぎゅっとこぶしを握り締め、玄関の扉を開ける。
「はい、リザ・エスターライヒです。」
私はできるだけ平静を装ったつもりだったけれど、男の顔は私を見ると少し驚いたようだった。きっと隠しきれていなかったのだろう。
「リザさん。あなたのお父さんは帝国のために全力を尽くし、戦いました。しかしながら、先日、戦死なされました。」
わかっていた。この扉を開ける前からわかっていたはずなのに。私は気が付けば呆然と立ち尽くし、二度と帰らぬ父のことをひたすらに懐かしんでいた。ぽろぽろと涙が落ちていくのを肌で感じる。生暖かい涙は私の頬を何度も何度も通り過ぎる。
「失礼しました。」
男はそういうと、気まずそうに立ち去った。男がいなくなった後も私は玄関の扉を開けたまま、呆然としていた。1915年の8月のことだった。その日の夜、私は考えていた。もし、この戦争に負けたら。父が任せたといったこの家もロシア人かあるいはフランス人、もしかしたらイギリス人にめちゃくちゃにされてしまうかもしれない。母も父に続いて家まで失ってしまってはショックだろうし、女二人で生きていけるとは考えられない。だから私は。
「私も行くよ。父さん。」
誰もいない部屋でぼそりとつぶやいた。この家を守るために、母を守るために私はその日に戦場へ行くと決意したのだった。
「あなたまで行く必要なんてないじゃない!」
母は、泣きじゃくって私に怒鳴った。滅多なことでは怒鳴らない母がここまで感情的になるのは違和感を感じた。昨日愛する人を失い、今度は娘が戦場へ行くというのだ。無理もない。けれど、私は考えを変えるつもりなどなかった。もし、母の言葉に応じて先延ばしにしてしまったら怖がって、二度と決意できないような気がしたからだ。
「大丈夫。私は帰ってくるよ。」
母は言葉にならないうめき声をあげて私を睨んだ。私は母をじっと見つめた。
「あの人もそういって帰ってこなかったわ!あなたもそうなるかもしれないのに!」
「そうならない。大丈夫だから。」
こんなことで母は納得するなんて思っていなかったけれど、こう言うしかなった。隣の家から大声が聞こえてきて焦ったのだろうか、クラウスが家の扉を叩く。
「どうしました?こんな朝早くから。」
「出てくるよ。母さん。」
母さんの視線が痛い。背中に突き刺さるような感覚を覚える。
「クラウス、喧嘩じゃないから心配しないで。」
「君のお母さんが怒鳴るだなんてよっぽどのことじゃないか。どうしたっていうんだ?」
少し黙った後、私は覚悟を決めた。
「私は、戦争に行こうと考えてるの。」
クラウスは驚いたように黙った。
「クラウスは、女なのになんでとか思ってるんでしょ?」
感情的になり、クラウスに思ってもないことを言ってしまう。
「そんなこと。…それで、君は母さんと喧嘩したってことかい?」
「えぇ、まぁ。」
「そりゃ、君の母さんも急に娘が戦場に行きたいとか言い出したら怒鳴るだろうね。」
「…」
「リザ、ちょうどよかった。」
「何が?クラウス。」
「一緒に行こう。もちろん、ここに必ず生きて帰ることを条件にね。」
「生きて帰るだなんて、そんな簡単じゃないのに!」
つい、大声をあげてしまう。父さんだって帰らないつもりなんてことはなかったはずなのに。
「大丈夫さ、僕がついてる。二人ならきっと生きて帰ってこれる。それに、僕もちょうど君とおんなじことを考えてたのさ。だから二人で協力して兵隊になろう。」
今から考えれば、この時の私たちは、互いに父を失い、どこか自暴自棄になっているような、そして一種の義務感に駆られていたのかもしれない。心の奥底では行きたくないと思っている戦争に自ら身を投じて少しでも互いの父に近づこうとする憧れのようなものだったのかもしれない。よくわからない感情を互いにぶつけ合い、そして私たちは家を抜け出し、戦場へ向かうことにしたのだ。戦争の恐ろしさも知らずに。ただがむしゃらにお互いの大事なものをこれ以上失わないために。
書きたいことが多すぎて前半はごちゃごちゃしてしまって、逆に後半はペラペラすぎたかなと思っています。もし続編を書く機会があれば、直していきたいです。