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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
99/233

098 森を脱出


 取り敢えずの驚異は退けられたと皆が集まってきた。

 キャラバンの御者達は周囲を気にしてビクビクだ。

 その怯えた者達への説明はキャラバンのリーダーと警察軍の指揮官とムーズがおこなった。

 一時の平和は取り戻せはしたが……まだ油断は出来ない。

 そんな感じの話だった。

 

 そして、その間もムーズは観察を続けていた。

 警察軍の者達の顔と……御者達の顔だ。

 エルやバルタが言うには、敵兵は本物の軍隊だったらしい。

 なら、ヤッパリ目的が有る筈だ。

 たかだか警察軍のL3ガーデンロイドを5つ仕留める為にM4シャーマン中戦車なんかを出しては来ない。

 コチラにはそんな戦力も無いからだ……私達が居なければだけど。

 でも、それでも過剰装備でオーバーキルは確実だと思った筈だ。

 

 そこまでして……奪いたいモノ。

 壊したいとは思ってはいなかった筈……それだとモット有無を言わさない攻撃に出ていた筈だからだ。

 ヤッパリ……人だろうと思う。


 そして、単馬の馬車の御者が怪しく見える。

 皆と同じに怯えては見せているのだけど……どうにも違和感が有る。

 この御者も兵士では無かろうか?

 さっきから死んだ敵兵の死体をチラチラと気にしていた。

 それに最後まで自分の馬車から離れなかったのも有る。


 そして、その標的となった人物は……貴族か?

 それも上級貴族や王族の類いでは無さそうだ。

 もしそうなら、元国王を見て反応しないわけは無い。

 ……元敵国の貴族や王族ならそれも有るのだろうけど。

 エルフには王族と呼ばれる者は存在しない、一番に長生きして一番に能力が高い者が王だからだ。

 能力とは繋がる力の事……意識や考えも総てが他者と同一に出来る能力だ。

 それを持って産まれたモノも有るのだが、それでも最下級の平民でも王に成れる可能性が有る。

 そこは完全に平等だ。

 フェイク・エルフはもっと民主的だ。

 エルフの繋がる能力が無くて、国から追い出された者が主体で出来た国だから……そのリーダーは数年で変わる。

 平民も貴族も無い。

 身分制度は国民か奴隷だけだ……それも戦前までの話で、今は統一国家に成って奴隷は禁止されたから、実質敵に身分の差は無い。

 それ以外の国は小国ばかりで、たいした発言権も無い。

 となれば……政治とは関係の無い大物?

 危険人物とかの護送?

 でも、誰かには欲しいと思われる人物……か。

 

 例えば類い稀なる軍人。

 ファウスト・パトローネの様な人物。

 敵にすれば厄介だけど、味方なら頼もしい存在。

 子供達の育ての親で、私の義理の兄に成る?

 でも、パトの他にそんな人物は思い当たらない。

 それっぽい感じの人は居たかもだけど……前の戦争で皆、死んでしまった。

 優秀な軍人ほど早くに死ぬのは仕方の無い事で、それでも生き残ったパトはヤッパリ群を抜いているのだろう。


 そのパト本人のわけも無いし。

 チラリと単馬の馬車を見たムーズ。

 もしそうなら誰かが気付くし……それにパトなら、こんな状態の戦場に成って黙っている筈もない。


 さて……ますますわからなく成ったと唸ったムーズだった。


 「やはり……止まるのはダメか?」

 そんなムーズに聞いたキャラバンのリーダー。


 「なに?」

 皆の話を聞いて居なかった。

 「なんの話?」


 「いや……次もこんな事が有るなら、馬車は走り逃げるべきでは無いのかと……」

 一人の御者を指したリーダー。

 単馬車の御者だ。

 その者が逃げると主張したのだろう。


 「馬を潰さない事が大事に成っては来るけど、それが最優先って訳でも無いし……そこは臨機応変にだと思いますけど」

 その場を見渡したムーズ。

 誰も怪我をしていないし……今回は馬も潰れてはいない。

 上手く宥めてその場に止めてくれたおかげだ。

 「馬はどうしたって、動き出せば止まらなく為りますからね……銃や大砲で脅すのはそれが狙いなのだし」

 臆病な生き物なのだから、それはしょうが無い。

 「まあ……森を抜ければ状況も変わるでしょうから、その時にもう一度相談しましょう?」

 

 「そうだな……」

 リーダーは皆に示す様に頷いた。

 「今は、一刻も早くに森を抜ける事を考えるか」


 「そうですね……ここは敵も味方も隠れる所が大過ぎますからね」

 それで、話は終わった。


 正確には続きは移動しながらと成ったのだ。

 

 



 一行は敵襲に警戒して進む。

 先頭は距離を開けての犬耳三姉妹。

 後方はと全体はクリスティナのコノハちゃんが空から目視で確認。

 それにヴィーゼの目とバルタの耳だ。

 オリジナルがルノーftでキャラバンの前。

 ゴーレム達はヴェスペに乗り込みキャラバンの後ろからだった。

 

 「これだけ警戒すれば安心じゃの」

 笑いながらにピックアップトラックを運転していた元国王。

 「しかも速度が落ちて無いのがすごいのぅ」

 

 「流石に慣れているのね」

 横のマリーも同意してた。

 「子供達だけで警察軍との連携も出来ているし」

 

 その警察軍のL3ガーデンロイドの5両の豆戦車は分散してキャラバンの間にはまりこんでいた。

 横からの襲撃には間に入っての弾除けに成れる位置。


 「森からの襲撃で警戒度を上げたから、密集形態に変えたんだって」

 後ろの席のペトラだ。

 「迎撃は主に私達に成るのだけどね」


 「それをよく許したもんだ」

 マリーはワザトらしく驚いて見せた。

 

 「警察軍には知り合いも居たし……パトはアン長官補佐の信頼も厚いしだと思うよ」


 「それでも、パト本人はここには居ないのに……ましてや子供達だけ」


 「能力は有るって思ってるみたい……パトに鍛えられた精鋭の兵士?」


 「そうなの? 私にはとてもそうは見えないけど」


 「そう思い込んでくれてるのだし……いいんじゃあないの?」


 「そうじゃな」

 笑った元国王。

 「勘違いでも、利用出来るならそれで良し……じゃな」

 ウンウンと頷きながらだ。



 

 警戒をしながら進む事……半日。

 一行は、森をその日の夕方前には抜ける事が出来た。

 その間の敵襲は無し。


 「今日はここでキャンプをしましょう」

 ムーズからの無線連絡。

 「ここから先は広く開けた草原に成るから、夜は危険だし……次の出発は日が昇ってからね」


 「夜は危険なの?」

 マリーが問う。

 

 それには後ろのペトラが答えた。

 「夜は車両はライトを付けるでしょう? 見えないと危ないし。そしてたら広い場所だと目印にされて遠くから狙い撃ちにされるじゃない……だから」


 「戦車も車もライト無しでは危な過ぎるか」

 確かにと納得した元国王。


 「でも夜の闇に紛れれば……」

 納得出来ないマリー。


 「ライト無しで進める距離なんてたかが知れてるし……実際には広く開けた場所だと、昼の光に隠れてそんなに目立つモノでも無いの」

 これには注釈が付く。

 広い範囲を見渡せるヴィーゼやコノハちゃんが居るからそう為るのだ。


 元国王がピックアップトラックを停めた。

 ペトラはチラリとマリーを見たけど……もうそれ以上の説明は面倒だと、車から飛び降りる。

 「今日のご飯は何かしらねぇ」

 適当な言葉を残してだった。




 そして、皆の所に向って歩き始めると……アマルティアが地面を掘り起こしていた。

 スコップを担いで、掘っていたのはゴーレム兵だけど。


 「なにしてんの?」


 「ゴーレム兵達の修繕の材料作り」

 そう答えたアマルティアは柔らかい土を粘土の様に捏ねている。


 そして、その前にはゴーレム兵達が並んでいた。

 ゴーレム・ヴィーゼとゴーレム・エルとゴーレム・バルタもその列に居た。

 みんな、所々に大きな穴ボコが開いている。


 「うわ……そんなにヤラレてたの? ボコボコのガタガタじゃん」

 顔をシカメタて目を細めた。

 見るからに痛そうだ……人ならばだけど。


 「これは、アマルティアに削られたんだよ……」

 自分の穴に指を突っ込んでいたヴィーゼがボソリ。

 「細い両刃のナイフ? トレンチナイフだっけか? で、ゴリゴリって感じで」

 声の感じではとても嫌そうにしていた。


 「ナイフに魔法かナニかをかけて豆腐みたいに削るのよ」

 エル・ゴーレムも肩を竦めていた。


 「まあ……鉛の弾を抜かないとダメらしいから仕方無いけどね」

 バルタでも我慢していた様だ。


 「土で出来ている体だから、異物は邪魔なのよ」

 ゴーレム兵の服を捲って、手際よく土を穴に詰めて……小さな魔法を掛けていた。

 穴はみるみるうちに塞がり……多少のデコボコはナイフで削って、その痕跡も綺麗に消える。

 「まだ……土の種類が同じだから目立たないわね」

 ウンウンと満足気なアマルティアだった。

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