097 ムーズが見た始めての戦争
バルタからの連絡を受けたムーズは慌てた。
敵兵が居る?
今ここに残っているのは、元国王とマリーにペトラがピックアップトラックに乗って居る。
エルはヴェスペ自走砲にミスリルゴーレムが3体。
そして、私の横にはクリスティナ。
……。
森から来るのだから、戦車では無い筈だ。
戦えるのだろうか?
元国王は魔物相手には強い? 前回のダンジョンでは散々だったけど……でも今回は銃を持った人間。
なら、クリスティナか? 元国王の獣達に指示は出来る。
「ヤバイかも知れない」
頬がひきつるムーズ。
その耳に銃声が聞こえた。
音の大きさから近いと感じる。
「来た……どうしよう」
「大丈夫」
それに答えたクリスティナ。
「人数は多くない……5人?」
「なぜわかるの?」
それと……5人もだと、それは多いと思う。
「今……コノハちゃんが見ているから」
クリスティナの胸のポケットのハム吉も頷いていた。
野生のただの生き物のミミズクで魔物では無いコノハちゃんには攻撃能力は知れている。
それを補う為に魔物の動物達を使うのだ。
それはハム吉を通しての指示に成る。
「今……森から追い出す」
そのハム吉に頷いて見せたクリスティナ。
森の方からパキパキと音がする。
氷が大きく成る音だ。
ペン太が敵を氷らせているのか、自分が氷っているいるのか……まさか森そのものを氷らせる迄の能力は無かった筈。
「隠れて居るから魔物でも躊躇するのよ」
目を細めてムフフと笑ったクリスティナ。
その目で中々に小バカにした顔に成っている。
まあでも、自分達は隠れて居る積もりなのだし……魔物の相手をすれば見付かると考えるのは普通か。
ペン太の場合捕まえようとすると凍るので、触れる事も出来ない。
邪魔だからと排除のしようが無いのだ。
クリスティナの言う追い出すは、2つの選択を敵兵に与えた事に成る。
そのまま隠れていて凍り付けにされるか。
戦うかだ……その標的はペン太でも私達でも、どちらでも同じ。
派手に動くのだから、音を出す。
銃を使えば確実に、隠れて居た意味を失う。
だから……。
バサバサと派手な音を立てて森から出てきた敵兵。
その銃口はペン太にでは無くてコチラを向いていた。
最初の狙いは馬車を操っている御者だろう。
ムーズは叫んだ。
「伏せて!」
それと同時に音がする。
パン! と、乾いた音だ。
でも、それは敵兵の音では無かった。
銃を構えたままで横に倒れた敵兵。
「誰が撃ったの?」
エル?
いや……方向が違う、エルは後ろに居て敵兵はそちら側に弾かれる要に倒れた。
撃った方向は前からだ。
警察軍? は、まだもっと前に居る。
シャーマンの対応に全速で向かったからだ……まだ戻って来るには早すぎる。
「誰って……」
横のクリスティナが笑っていた。
目は大きく見開かれて居る。
え? っと驚いたの顔?
「イナかエノだと……思うよ」
そうか! まだ二人が居たのか。
失念していた。
ってか……隠れるのが能力なのだから、それに私も惑わされた?
「まだ一人だよ……倒したのは」
そう言って服の裾を下に引っ張るクリスティナ。
しゃがめって事ねと、その場にうずくまる。
何時の間にかに頭を高くしていた様だ。
馬車には幌が掛けられてはいるけど、それは薄い。
銃の弾なら紙も同然。
流れ弾に当たる可能性は低くだ。
馬車の縁は木製だけど、幌よりはマシで相対する敵からの全面投影面積も減らす為にも低く小さくだ。
流石に戦場の経験の有るクリスティナは冷静だと思う。
「残りの四人もイナ達に任せるの?」
頭を両手で抱えて尋ねた。
「アマルティアのゴーレム兵が居るから」
幌の隙間から外を覗いていたクリスティナが、ソッと指を差す。
「なんで? 反対の森の中に居た筈では?」
そちらの方の銃声もいまだに聞こえていた。
「たぶん……動かして居た方を停止させて、コッチに残していたのを遠隔で動かしたんだと思う」
たしか5体を連れて行った。
隙間から見えるのは2体のゴーレムが。
森の中のうち2体はその場に置いておいてか。
「成る程……」
ソッと頭を回して後ろに居たロバと言い張る駱駝車を見る。
キャラバンの最後に並んで居たそれ。
ここからなら3つの馬車の後ろだ。
小さいそれだが目視は出来た。
確かにセーラー服を着せられたゴーレム兵の数が減っている気がする。
そのゴーレム兵はmp40を構えて、堂々と道の真ん中を進んで森の前に立つ。
パンパンと撃たれて居る様だが気にした風でもない。
体から着弾の土煙が上がっているだけだが……それも服を着ているので小さい。
そのゴーレム兵は、M24柄付き手榴弾を森に投げ込んだ。
ドカンと音と共に人が吹き飛んでくる。
「あと……三人」
横のクリスティナ。
「敵も手榴弾を投げない?」
コチラが投げるなら敵も? だ。
「木が多過ぎるから、投げるには森を出ないとだね。自分で投げた手榴弾が木に跳ね返って戻ってきたら洒落に成らないし」
木と木の隙間を狙うにも勇気が必要なのか……と、納得。
しかけたのだが……じゃあゴーレム兵は? 投げてるよね。
自身が被る爆風を恐れていないからか?
森の中からパラパラパラパラと軽い連続音。
それに悲鳴。
今のはなに? と、見ていると……もう1体のゴーレム兵が敵の死体を引き摺って出て来た。
「アマルティアのゴーレム兵は2体だけじゃ無かったのね」
それにはクリスティナも驚いていた。
「でも、あと二人は……もっと奥に居る」
森の手前に居たゴーレム兵が森に入って行く。
目視が出来た3体が全部でだった。
クリスティナのさっきの呟きは無線に乗ってアマルティアにまで届いた様だ。
バルタ・ゴーレムは耳を澄ませていた。
足元には敵の兵士の死体。
そこにヴィーゼ・ゴーレムが草を掻き分けてやって来た。
「敵は10人……たぶんこれで終りね」
ヴィーゼの体には何ヵ所か撃たれた跡が見えた。
「そうみたいね」
バルタ・ゴーレムにも弾痕が見える。
「バルタでも撃たれるのね」
背後から合流したエル・ゴーレムは笑った。
「この体なら、撃たれたって平気だし……途中で面倒臭く成った」
簡単に答えたバルタ・ゴーレム。
動きが何時もの感覚と違うとは口には出さない。
「確かに……」
エル・ゴーレムも途中から隠れる様な事もしていなかった。
「もう敵も居ないなら戻ろう」
「そうね……敗残兵が居ても逃げてるだろうし、コチラに銃口を向けないなら放って置いても良いわね」
頷いたゴーレム・バルタはその場から動き出した。
「途中でアマルティアを拾って行かないとね」
ゴーレム・ヴィーゼも後を追う。
「それと、動けないゴーレム兵の回収も頼まれて居るわよ」
ゴーレム・エルも後ろ。
「あとで、アマルティアが動かしちゃあダメなの?」
「敵の弾とかを受けすぎて、うまく動けなく成ったみたいよ」
「そんなのも有るのか」
俯き考え始めたヴィーゼ・ゴーレム。
「異物が体に入るのだし……限界が有るのね」
バルタ・ゴーレムもフームと唸る。
「弾を抜いて補修すれば元道理に成るって……私達もやって貰わないとね」
「エルも撃たれたの?」
ヴィーゼは驚いた。
エルは自分のお尻を見せた。
見事に穴が空いている。
「なんでお尻なのよ」
指差して笑った。




