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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
97/233

096 M4A3E8シャーマン・イージーエイト


 ルノーft軽戦車は者列の先頭に出ようとしていた。

 馬車の間を縫い、舗装路から外れる事も合わせて強引にだった。


 「歩兵はスポッターだったの?」

 戦車の中のオリジナル・ヴィーゼが砲塔内のオリジナル・バルタに聞いている。


 「おそらくそうね」

 エルフ同士ならイメージも含めて意識を共有出来る。

 転生者を使っていても奴隷紋かエルフ紋かで念話の会話は出来る。

 この地点の通過を確認すれば、一本道なのだから砲撃ポイントの予測は簡単だ。

 

 「でもシャーマン中戦車なんでしょう? そんな面倒な事をしなくても」

 右に左にルノーftを振って愚痴るヴィーゼ。


 「昨日……私達が軽戦車だけど3つをやっつけたから、警戒したんでしょう? たぶん」

 

 「でもさ……待ち伏せって卑怯じゃない?」

 馬車を越えて前が空いた。

 少し前には2台のオペルブリッツ。

 その2台のトラックは目一杯に端に寄っていてくれた。

 生き物の馬では無くて、感情も意識も無い機械だから砲撃に怯える事もなく森の木に触れる程に寄っても危険が無い。

 「飛ばすよ」

 ヴィーゼが叫ぶ。


 道は微妙に曲がり、上下も有る……完全な直線では無いので、前が開けても敵の戦車は見えない。

 それは向こうにしても同じだ。

 でも、こちらにはバルタが居る。

 森を斜めに砲弾を撃ち込んだ。


 「チッ……」

 バルタのハッキリとした舌打ち。

 

 「外した?」


 「そんなわけないじゃん……当たっても弾かれるのよ」

 

 「当ててるんだ……見えないのに」


 「あんたは見えてるんでしょう?」


 「5kmさき?」


 「もう少し遠いと思うけど?」


 「見えてても、上からだし……だいたいの位置がわかればいいじゃん」


 「まあ、そうだけど」

 

 警察軍のL3豆戦車を避けつつ、さらに前進。

 シャーマンからの砲撃は音だけで、何処に飛んでいるのかもわからない。

 たぶん砲が上過ぎるのだろう。

 見えなければそんなもん。


 もう一発を撃ったバルタ。

 

 「当たっても効かないんじゃ、弾の無駄じゃないの?」


 「キズくらいは付けられるし……それに、当たれば車内にデカイ音が響くからイライラさせられるでしょう?」

 もう一発。

 「そしたらミスも増えるわよ」


 「あ! 見えた!」

 今のヴィーゼの見えたは、森の遮蔽物が無くても見えたとそれだ。

 

 バルタは砲塔を反対に向けて、ハッチを開けて信号弾をシャーマンに直接に撃ち込んだ。


 煙に包まれたM4シャーマン中戦車。

 角が有る直線的な平面が見えるのでM4A3E8シャーマン中戦車、通称はイージーエイトと思われる。

 なら、砲は三種類。

 75mmか76.2mmか105mm榴弾砲。

 数が多いのは75mmだけど……。


 そのシャーマンが撃った。

 信号弾の発煙で視界が悪いのに無理矢理だ。

 そして、砲からは大量の白煙が吹き出している。

 なので、あれは76.2mm砲搭載車だ。

 威力は大きいのだけど、火薬の量が多すぎて自分の視界まで奪うそんな砲だった。


 もう一発の信号弾を撃ち込んだバルタ。

 「ヴィーゼ、横をすり抜けられる?」

 手にはファウストパトローネを握っていた。

 車内からは撃てない。

 砲塔内に後方爆風が入り込んで蒸し焼きにされるからだ。

 でも、横を抜けるなら、体ごと砲塔から出して撃てばいい。

 進行方向に対して横にだからだ。


 「出来ないって言ってもやれって言うんでしょう?」

 ヴィーゼは更に戦車を加速させた。

 前を沈ませてNOSまで使ったフル加速だ。


 シャーマンは砲撃間隔が短い……分20から23発だ。

 だけど、見えてなければ当たらない。

 昨日は当てれれたけど、今日は当たらないのだ。

 そう決めて掛からないと戦車兵なんて、やってられない。

 実際にシャーマンは見当違いな方向に向けて撃っている。

 確かに狭い道だから掠める事は有っても狙えてはいないはずだ。

 それに近付いてしまえば砲塔の回転速度も追い付かないはず。


 ブツブツと呟く様に自分に言い聞かせたバルタ。

 ルノーftがシャーマンの横をすり抜けたその一瞬にファウストパトの発射ボタンを押し込んだ。

 プシュウと横のシャーマンの砲塔に穴が空く。

 

 だけど、火は吹かなかった。

 砲弾を燃やすには位置が悪かったのかも知れない。

 それでも、敵の砲手は仕留めた筈だ。

 もう砲は撃てない。


 バルタは手に残ったパイプを投げ捨てて、砲塔内に戻って後ろを向いていた砲を撃った。

 「おまけよ」

 通り過ぎる後方なのだから、狙いは適当でも当たるのだ。

 しかし、その砲弾はカンと弾かれて上に飛んでいっただけだった。


 「もう一両が出てきた!」

 

 舌打ちしていたバルタにヴィーゼが叫んで知らせる。

 後ろを振り返ったバルタにもそれは見えた。

 森の木の間からゴリゴリと強引に出てきていたシャーマン。

 

 驚いたバルタは砲の回転ハンドルを目一杯に回す。

 「しまった……今のヤツに夢中に成り過ぎた」

 これだけの音を出しているのに、今度はそれに気付けなかった自分に舌打ちだ。

  

 砲の回転が遅い。

 前までなら取手を掴んで押し引きするだけで回ったのに、今は回転ハンドルだ。

 遅々として砲が前を向かない。

 選択を謝ったかも知れない。

 そのままで、ファウストパトローネを手にした方が良かったか?

 でも、距離が中途半端だ。

 射程距離は30mしかない。

 それでも……と、迷っていると。

 そのシャーマンが火を吹いた。


 ヴェスペ自走砲の榴弾が真上から直撃していた。

 エルがキャラバンの後ろから狙い撃った様だ。


 素早く切り替えたバルタは叫ぶ。

 「他には?」

 目の前の驚異は退けられたけれど……それでホッとはしてられない。


 「見えないけど……」

 ヴィーゼは無線を手にして。

 「だれか……索敵して」


 「いま……見てるけど」

 クリスティナの声だった。


 砲塔の後ろのハッチから半身を出して上を向いたバルタは見付けた。

 空を飛んでいたクリスティナの灰色のミミズクだ。

 

 それをヴィーゼも確認したのか、ルノーftの速度を緩めて停止した。

 エンジンはそのままで切らない。

 自身も索敵に参加する為だろう。

 目を瞑って意識を空に飛ばして居るようだ。


 バルタも目を瞑る。

 耳に集中するためだ。


 前方の燃える戦車の音。

 後方すぐの止まった戦車はエンジンの音も消えている。

 中の乗員は動いている気配もない……砲塔に居たであろう砲手に装填手、もしかすると車長は焼けたかも知れないが、操縦士は生きていてもおかしくない状態だ。

 それでも動きが無いのは死んだか、気絶したかだ。

 要警戒だが、戦車が動かないなら銃か手榴弾……それならルノーftでもじゅうぶんに防げる。

 そして、森の中からは銃声が聞こえている。

 森はまだ制圧できて居ないようだ。

 でも、そちらはゴーレム歩兵小隊に任せて置けばいい。

 なにせ私のコピーなのだから、負ける筈がない。


 それ以外の音。

 ……馬の嘶き。

 ……L3ガーデンロイドの走行音と警察軍兵士の怒鳴り声。

 ……馬車の横の森の中の、草を掻き分ける音。

 その方向はゴーレム歩兵小隊とは反対側だ。


 素早く無線を取ったバルタ。

 「馬車の横に敵兵が居る!」


 ヴィーゼは素早く戦車を反転させた。

 そして、燃えていないシャーマンの横に一時停止して手榴弾を投げる。

 それは見事に砲塔のハッチに吸い込まれた。

 バルタの放ったファウストパトローネの衝撃でハッチが押し開けた様だ。

 そしてまたフル加速だ。


 成る程トドメかと感心したバルタ。

 それは何時もは犬耳三姉妹がやっていた事だ。

 普段やらないの良く気付いたと思ったのだ。

 自分はスッカリと失念して居たから余計にだった。


 戦車と歩兵は常にセットで動かないといけない……成る程そうかと、以前にパトが言っていた事を思い出したバルタだった。

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