095 ゴーレム歩兵小隊
薄暗い森の中。
「敵はまだジッとしているようね」
一方向を気にして居たエレンはイキナリの気配にハッと振り向いた。
いつの間にかにそこにバルタ・ゴーレムが立っていた。
小声の届く背後に気付かれずに立たれた経験は初めてだ。
匂いでわかる筈なのに……と、驚いていると思い付く。
そうか……ゴーレムだからだ。
土の匂いは森の中では当たり前、完全に紛れてしまっていたのだ。
「私が先に出ようか?」
その背後に居たヴィーゼ・ゴーレムが言った。
手には自分の身長よりも少し長いマウザーmg34軽機関銃を持っている。
「そうね……アマルティアのゴーレム兵を待ちましょう」
ゴーレム・バルタは少しだけ考えてそう言った。
「敵の数がわからないから、横にラインを作ってそれを押し上げましょう」
ここは隠れる所が多すぎるって事か。
そのゴーレム・バルタは2cmゾロターン戦車砲を肩に担いでいた。
それで人を撃つ積りなのだろうか?
そんなの当たると上半身と下半身の泣き別れだよ。
「お待たせ」
そうっとやって来たアマルティア。
今度はちゃんとわかっていたので驚く事は無い。
従えて居たのは5体のゴーレム兵。
「大丈夫なの? 無理してない?」
ほぼ限界だと言っていた数だ。
「多少はクラクラするけど……問題ないわ」
武器は何時ものmp40とM24柄付き手榴弾。
と、何故かゴーレム兵が背中に担いでいた木箱を降ろし始める。
その後ろに居たエル・ゴーレムと2体のミスリルゴーレムも荷を下ろす。
エルが担いでいたのは8cm,sgrw34迫撃砲だ。
チラリと上を見たエレン。
木々の枝が張り出して空は見えない。
こんな所で迫撃砲を撃つのか? とエル・ゴーレムに視線を戻せば……砲弾を開封している。
撃つ積もりらしい。
「揃ったわね」
バルタ・ゴーレムが各々を確認して。
「では、始めましょう」
その合図でアマルティアのゴーレム兵が扇状に拡散するように歩き始めた。
まずは音を立てずにユックリと……mp40を腰だめ構えて進む。
すぐに草と木に紛れて見えなくなる。
その後にバルタとヴィーゼのゴーレムが追う。
エル・ゴーレムとアマルティアはこの場所に残ったままだ。
「私達はどうする?」
横の草がガサリと揺れてアンナが顔を覗かせた。
「あなた達は、私とアマルティアの警護よ」
エル・ゴーレムがそれに返した。
見ればアマルティアは目を瞑り……無防備だ。
5体のゴーレム兵を動かすと為れば、流石に自身は動けなくなるのか。
「見付けた……」
そのアマルティアが指を差す。
すぐに銃声が響いた。
「mp40じゃないね」
連続した軽い発射音では無くて、単発で重い音だ。
エレンとアンナは一段頭を低く構える。
そこにネーヴも合流して同じようにした。
「クリスティナ……使役獣を退避させて」
エル・ゴーレムが無線を掴んでいる。
その横には8cm,sgrw34迫撃砲を、ほぼ水平に構えたミスリルゴーレム。
真横に撃つのか?
いや、それは以前にオリジナル・エルがやっていたからわかるのだけど……この木々の間を抜けるのか?
まあ……ゴーレムでもエルはエルだ、きっと出来るのだろう。
「いいよ……撃って」
合図を出したのはアマルティア。
ゴーレム兵も退避行動が終わったのだろう。
固い土の体だから、その場に寝転がればそれで終わりそうだけど。
「撃つよ」
左手に無線右手には迫撃砲の砲弾。
それを筒の中に勢い良く投げ込んだ。
カコンと音にポシュンと音が続く。
音は軽いが……音量は有る、特に二つ目の音だ。
そして、前方からは大きな爆発音と爆風。
着弾地点はやはりか近い。
この環境であの撃ち方で……遠くに飛ばせる筈もない。
「爆撃を開始するわよ」
これはエルの声だが無線機の向こうからだ……それはオリジナルの方。
もっと大きな爆発音が響き始めた。
ヴェスペ自走砲からの10.5cm榴弾だ。
「近すぎない?」
ネーヴの声が震えている。
「大丈夫よ……私達のゴーレムの体は直撃しない限りは大丈夫」
ゴーレム・エルが自分で自分の事をゴーレムと言った。
自分の事を受け入れたのか、今の状況に則して言っているだけなのかは判断がつかない。
それでも口に出したのだから、諦めは混ざっているのだろう。
砲撃は等間隔で続いた。
敵を炙り出すにはじゅうぶんだったようだ。
「砲撃止めて」
バルタ・ゴーレムの声。
ほぼ同時に沈黙した森。
だけど、すぐに銃撃音。
今度のは軽い連続音。
味方の音だ。
それに敵の音も混ざり始める。
もう敵は隠れる意味を無くしたようだった。
「さあ……狩るわよ」
ゴーレム・バルタの合図が響く。
ゴーレム・バルタは砲撃が止んだのを確認して、地面に伏せていた体を起こした。
銃撃はもう始まっている。
音を頼りに低く構えて前進。
真後ろにはゴーレム・ヴィーゼが左右を警戒して着いて来ていた。
これだけ木々が多いと思念体を飛ばしても意味を成さないのだ。
結局は見るという事には違いないのだから。
そして、見えないならバルタの耳を頼ればいい……それは何時もの事でお互い様でも有るのだからだ。
「右……近い」
バルタが呟く。
「見えた」
木を一本越えただけで確認出来たゴーレム・ヴィーゼはその小さな体を生かして、素早くその木を迂回してmg34軽機関銃の引き金を引いた。
連続する金切り音。
倒れた敵のすぐ横にも居た敵兵。
バルタは手前の細い木ごとに2cmゾロターン戦車砲を単発で撃った。
手前の木は中途で爆散するようにハジケて、奥では敵兵の頭がヘルメットごと飛んでいた。
ヴィーゼは一度バルタを確認して、そのまま前進。
一本一本の木の裏を確認して居る。
どうもこのゴーレムの体は、同じゴーレムと距離が近付くとお互いの意識が入り混じる様だ。
特に緊張感の有る場面での特別な事だけの様だが。
今はそれが楽だ。
ヴィーゼの考えがそのままわかる。
アマルティアの5体のゴーレム兵のうち3体が交戦中だった。
残りの2体はそのまま索敵中。
そのうちの1体が敵兵を見付けた。
頭のヘルメットに穴が空いてズレる。
敵兵の持つガーランドなら、ドイツ式のヘルメットも簡単に貫通させられた。
これがゴーレムでなければそのまま即死だ。
しかし、ゴーレム兵はズレたヘルメット直して撃たれた方を向く。
アマルティアのも見えた敵兵の姿。
草影から立ち上がり右手を振りかぶっていた。
手榴弾だ。
直撃しても、それ自体は驚異では無いのだが……すこし面倒臭い事に成る。
ゴーレムの体に異物が増えると動きに制限が掛かるのだ。
そして、アメリカ式の手榴弾……マーク2手榴弾、通称パイナップルは攻撃型手榴弾のM24柄付き手榴弾とは違い破片手榴弾と分類される。
それは外側の金属を爆発で細かく分散させてその破片で殺傷力を得るタイプだ。
だから、細かい破片がゴーレムの体に食い込むのだ。
ちなみにドイツ式のは単純に火薬の量での殺傷だ。
手榴弾にも幾つかのタイプが有る。
国の違いと考え方の違いでも有る。
アマルティアはゴーレム兵に念じて指示を出す。
投げられる前に撃て! だ。
そのアマルティアの耳にドカンと音が聞こえた。
ゴーレム越しにでは無くて直接に、しかも後方でだ。
音には聞き覚えが有る。
ヴェスペ自走砲の10.5cm榴弾。
だけど、それは全くの違う方向に撃たれていた。
「別のナニかを見付けた?」
唸るアマルティアにもすぐに答えが知れた。
聞き慣れない砲撃音も混じったからだ。
でも、その音も知ってはいた。
52口径の76.2mm,M1戦車砲……それを撃つのはM4中戦車のシャーマンだ。
「敵戦車が出た!」
アマルティアは前に居る三姉妹に叫ぶ。
「ここはいいから応援に行って!」




