094 クリスティナのコノハちゃん
翌日……日が登り、キャラバンは出発した。
景色は相変わらずの森の中の道。
クリスティナはキャラバンのリーダーの2頭引きの馬車の、その後ろの方に座っていた。
隣にはムーズと荷物と荷物……。
とても狭いけど、小さな体では苦にはならなかった。
むしろ荷物に挟まれて体を固定出来るから、逆に楽だ。
そして、ムーズはKENWOODと書かれたダンジョン産の省電力無線を握っている。
キャラバンと皆との連絡用だ。
警察軍との連絡は、バイクの犬耳三姉妹が担っていた。
二人は何故にキャラバンの馬車に居るかと言えば。
今のこの集団では、トラブルが無ければ馬の疲労度に合わせて休憩が決まるからだ。
それを判断するのはキャラバンのリーダーで、今のこの馬車の馭者だ。
馬はどうしたって生き物だから、道の登りや下りに気温や湿度でも疲れ方が変わってしまう。
それにイザと為れば逃げる余力も残しておかねば成らないので……それを見極められるのがキャラバンのリーダーだったからだ。
「うーん」
無線からネーヴの声がする。
「食べ過ぎた」
昨日のカレーと今朝の残り物のカレー……確かに美味しかったけど。
お腹がパンパンに成るまで食べなくても良いのに。
チラリとそんな事を思うクリスティナ。
そのクリスティナの意識の中の目はフラフラとバイクで走っていたネーヴが見えていたのだ。
それは、上空を飛んでいるアフリカオオコノハズクの目だ。
獣使役は視界と音も共有していた。
今までのハム吉やギュウ太とかペン太とは、明らかに違っている。
クリスティナの言う事を聞くのは同じでも、それ以上のモノが有る。
聞くとアマルティアのゴーレム兵達も視界の共有が有るらしい。
遠くに離れていても指示も出せると言っていた。
音に関する部分は、生き物とゴーレムとの差だと思うとも言われた。
つまりは殆ど変わらないらしい。
もしかするとアマルティアにもエルフの血が混じっているとかかも……ともおもったけど、それは言わない。
血が混じるとか混血とか……それは差別だと思うからだ。
純粋なエルフでも差別されるし、獣人だってそう……両方が混ざれば今度はエルフにも獣人からも差別の対象に成るのかもしれない。
私達だけの時はその差別は絶対に起こらないけど……お友達だし、仲間だから。
でも、今は普通の人も近くに居るから敢えて口に出す必要も無いと思う。
言わなければ……エルフは見た目ではわからないからだ。
それに、ソレよりも……感動の方が大きかったし。
初めてコノハちゃんを空に飛ばした時はとても興奮した。
……コノハちゃんとはアフリカオオコノハズクの真ん中の文字のコノハを取って命名。
何時もの太や吉が使えなかったのは、コノハちゃんが雌だったからだ。
なので……コノハちゃん。
朝食を終えて、さあ出発の時にそのコノハちゃんが飛んだのだ。
フクロウは夜行性って聞いていたから……昼間は絶対に寝てるのだろうなと思ってたのに、普通に昼間でも活動出来るらしい。
これはコノハちゃん本人に聞いた……てか意識に流れて込んできた。
ただし……餌はちゃんと下さい、だって。
夜に活動する意味はその獲物を獲る為と、天敵のワシや鷹や空の魔物が居るからなのだそうで、目も昼も夜もどちらでも見えるらしい。
だから、天敵に為るモノが居なくて、餌が普通に食べられるなら昼間でも仕事しますよ……だそうだ。
そして、見せてくれたのが……空からの景色だった。
重い感じの曇った空だったけど……森の木々を上から覗く感じで、一直線に延びる道が細く見えて感動。
それがコノハちゃんにも伝わったのか、その後は結構なスピードで上に下にと飛び回ってくれた。
森の木と木の間を抜ける時は、とてもスリリングだったし。
走っているネーヴのヘルメットの上にフワリと乗っかった時は笑ってしまった。
だって、ネーヴが慌てて居るんだもん。
とにかくワクワクさせてくれたのだ。
それは、今もだった。
速度をネーヴのバイクに合わせたユックリとした飛び方でも変わらない。
空を飛べるって素晴らしい。
もっと、別の動物も使役したい。
ハム吉みたいな小さな生き物になって、皆の足元を走り回ってみたい。
お猿さんも良いかもしれない、木から木に飛び移るとかだ。
地上を速く走れる動物とかも。
どれもこれもキッと楽しいに違いない。
それは、絶対だと確信が持てるのだった。
その時。
右側の木々の奥にキラリと光ったナニかを見付けた。
正確には、見付けたのはコノハちゃんでそれを教えてくれたのだ。
「なんだろう?」
まだ使役獣との意識の意識の共有に慣れていないクリスティナは声に出してしまった。
「なのが?」
横で楽しそうにしていたクリスティナを眺めて和んでいたムーズが聞き返した。
「え? あ……今、森の中で何かが光ったの」
驚き、慌てて説明をする。
「ネーヴの右側の森の中」
ふーんと顔色を変えたムーズ。
無線機を取って。
「先頭の右にナニかない?」
全員にオープンチャンネルでだ。
「音は聞こえない」
一番に返してきたのはバルタ。
「木が邪魔で見えないな……」
次がヴィーゼだった。
「確認する」
犬耳三姉妹は直接に見に行くようだ。
馬車の速度が急に落ちた。
たぶん先頭が停まったのだろう。
「トラブルか?」
キャラバンのリーダーのおじさんのダミ声が飛んできた。
「今……確認中です」
それに答えてのムーズ。
「居るね……」
得れん声だ、とても小さな呟き。
「居るとは? 魔物? 人?」
「人で……敵だ」
「わかるの? 見た?」
「見てないけど……この匂いは兵士の出すストレス臭だ」
「それって……」
「つまりは、攻撃スルかサレルかの緊張状態に有るって事」
「今のこの道には、私達以外は居ないよね」
「そう……だから標的は私達」
「どうするの?」
「まだ撃っては来ないけど……これ以上は近付くのは危険だね、私達も見付かる」
「もう敵に見られているって事?」
「見えているのに撃ってこないのか」
唸ったムーズ。
「キル目標は、まだ見えてないんでしょう……たぶん」
エルだった。
「エレン……そこから馬車は見える?」
「見えないね……」
そう言ったエレンのヘルメットに止まったコノハちゃん。
首をクルリと回して前後を確認。
警察軍の戦車が辛うじて見える感じだ。
すると、エレンは森の奥を指差した。
その方向に敵が居るらしい。
音を立てずに飛び立つコノハちゃん。
滑る様に木々を抜けて……銃を構えて草影に隠れる兵士を見付けた。
その敵兵もコノハちゃんを見た。
驚いた顔をしている。
それでも撃っては来ないのは、野生のフクロウを驚かせたとでも思ってくれたのだろう。
「アメリカの丸いヘルメットを被ってる」
クリスティナは見たままをムーズに報告した。
「銃はガーランド?」
「スプリングフィールドM1ガーランドか……当たりだね」
エレンが答えた。
「昨日の戦車と装備は合致したね」
「どうするの?」
ムーズは唸り声。
「大丈夫……今、向かってる」
アマルティアの声だった。
「ゴーレム兵で追い立てる」
「私達も行く」
喋り方はヴィーゼだけど、声の質はゴーレムだった。
私達とはゴーレム・バルタもだろう。
「エル、2cmゾロターン戦車砲とmg34軽機関銃に8cm,sgrw34迫撃砲」
声はゴーレムだから、エル・ゴーレムか?
「3つ借りて行くわよ」
「なら、私のゴーレムに弾薬を持たせるわ」
エルのミスリルゴーレムの事だ。
「エレン達は……私達が到着するまで動かないで良いからね」
最後にはバルタ・ゴーレムが指示を出す。
そして、全員がそれに頷いて返す。
その時点で、作戦リーダーは決まった。




