093 ゴーレムとオリジナル
移動を始めた一行。
警察軍……キャラバン……子供達の順番だ。
そして、今は森の中の道を進んでいた。
「ねえ……何で居るの?」
ヴィーゼはエルのゴーレムを指差している。
「オリジナルに追い出されたんだって」
ルノーftを運転していた、ヴィーゼのゴーレムが答えた。
「この戦車に5人は狭くない?」
エル・ゴーレムだ。
「いや……あんたが言うな」
突っ込んだのはオリジナル・ヴィーゼ。
運転席で前にゴーレム、後ろにオリジナルのヴィーゼがバイクのニケツの様な格好で座っている……それは、オリジナルがゴーレムを抱えた様な格好だ。
身長はゴーレムが57cmでオリジナルが110cmだからシートを後ろに下げれば二人が縦に並んで丁度良い。
ただし、ゴーレムが運転する場合はだけど……。
それでも狭い事には違いない。
ルノーft軽戦車の場合はシート自体は固定で動かないけど、背もたれがハンモックで左右に固定されているだけ……まあそれを外せばシートの長さ分だけ後ろに座れるのだ。ちなみにだけど、そのハンモックが運転席と砲塔の仕切りにも成ってる、それはつまりはどちらも簡単に行き来が出来るのだ。
そして、後ろの砲塔内はモット狭い。
一番に大きいのはオリジナル・バルタで145cm……砲を抱えて真ん中。
ゴーレム・バルタは75cm、砲の右の壁に張り付いて。
ゴーレム・エルが60cm、バルタの後ろの壁に張り付いていた。
「……だめだ」
オリジナル・バルタが肩を竦めようとしたが……身動きが取れない。
「仕方無い……私が外に出るよ」
そう言って、後ろのハッチを開けた。
そして、ルノーftの背中の車体に座り込む……足だけはハッチから車内に放り込んでいた。
「広くは成ったけど……」
ゴーレム・バルタが代わりに砲を掴む。
「でも、それだと……砲塔が回せないんじゃない」
確かにそうだ。
頷いたバルタ。
お尻は車体の上に直接だから、砲を動かせば足が持っていかれる。
ってか、足が邪魔だろう。
今度こそ肩をすくめて砲塔内に右手を突っ込んだ。
すると、口に出さないうちに無線機を握らされる。
ゴーレム・バルタだった。
流石に同一人物……やろうとしている事が即座に理解できるようだ。
姉妹や双子よりも以心伝心能力が高い。
「ねえ……ローザ」
無線機に話しかけるバルタ。
「ルノーftの砲塔の後ろに座る所って作れない?」
「簡単に鉄板でも溶接しとく?」
ローザは後ろのヴェスペから見ていた様だ、即座に解決案が返ってきた。
そのヴェスペを見たバルタ。
「もう、ゴーレム・エルに運転して貰えば良いのに……」
ローザが運転をする必要は無いのでは?
「こっちは今、ゴーレム・ヴィーゼが運転してるよ」
「ヤッパリ……出来るのか」
「ゴーレムに成ってもヴィーゼはヴィーゼだよ」
「私がなに?」
そのヴィーゼが返事を返す。
車内の無線はバルタの手元で外だけど……それでも近いから聞こえたのだろう。
「べつに何でもないよ」
車内のゴーレム・バルタがそれに返していた。
ヤヤコシイけど……楽だ。
「まあいいや……ソレよりもバルタ」
ヴィーゼがそのまま話しかけて来た。
「かわいい感じの生き物って……近くにいない?」
「なんで?」
これは、オリジナルの方のバルタの返事。
「クリスマスに頼まれてるのよ……自分の使役獣が欲しいんだって」
「ふーん……」
と、返して耳を澄ます。
「鳥でもいい?」
「見付けた?」
ヴィーゼが運転席のハッチを開けて顔を覗かせる。
「どこ?」
砲塔内のゴーレム・バルタがヴィーゼの肩を叩いて指で方向を示して。
「たぶん……フクロウかなにかね」
「猛禽類! ……どうなんだろう?」
「取り敢えず捕まえとく?」
オリジナルとゴーレムが相談していた。
目的が一緒なら、揉める事無くすぐに決まる。
「ゴーレム・エル! 運転変わって」
二人して戦車から飛び出して行った。
その空いた席に慌ててゴーレム・エルが滑り込む。
「チョッと停まってからにしてよ……ぶつかるじゃないの!」
森の中に走り去る二人に向かって怒鳴っていた。
オリジナルとゴーレムが見えていたのは一瞬。
ゴーレムもやはり速いとわかる。
バルタはその二人の動きを目を摘むって音だけで追いかけた。
すると、少し差が有る事に気付いた。
ゴーレムの方が若干に遅れ気味だ。
速度に劣るのは、たぶん身長のせいだけでは無いと思う。
体も硬い様だし。
バネが効いてないのかも知れない。
それでも、パワーはゴーレムの方が有りそうだ。
邪魔な太い木も薙ぎ倒して、遅れる分を取り戻していた。
「成る程……じゃあ、私もか」
車内のゴーレム・バルタも同じ様に聞き耳を立てている。
「何処かで、体の動きを確かめておいた方が良さそうね」
ゴーレム・バルタは自分の境遇を受け入れている様にも見える。
まあ、変えられない結果を嘆いても仕方無いと考えているのだろう。
確かにその方が有意義だ。
オリジナル・バルタも考えた……ゴーレム・バルタとどう付き合うのが一番良いのだろうか……と。
まあ……自分でも有るのだし姉妹の様に付き合うのが良いのだろう。
それは、ヴィーゼやエルの様にって事か。
いや……ソレよりももっと自分として扱った方が良いのかな?
……自分として扱うがイマイチわかんないけど。
「ふーむ」
車内と社外のバルタが同時に溜め息を吐き出していた。
そして、夕方。
キャラバンは停まった。
まだ、森の中だ。
「今日はここでキャンプをするって」
連絡を寄越したのはネーヴ。
無線を持って、キャラバンのリーダーの乗る馬車に乗り込んでいたのだ。
「了解」
ヴィーゼが返事を返した。
そして、辺りを確認する。
森を貫く舗装路はそんなに広くは無い。
所々に休憩の為か待避所かの小さな草地の広場が有る。
停まったのは、幾つか有ったその1つだった。
一行は順にそこに入っていった。
小さくても広場には全部の車両が入れた。
だから、そこを選んだのだろうけど……。
ルノーft軽戦車と警察軍のL3ガーデンロイド豆戦車はその舗装路側に砲を向けて停まった。
つい今しがた襲われたのだから、その警戒は怠らない。
まあ、背にした森はとてもじゃないが戦車は動かせそうに無いから、道路側を気にするだけでもじゅうぶんだ。
もちろん人は森を抜けては来れる。
しかし、それを気にし出したら……不眠不休での移動となる。
そして、それは……ここで休むのと変わらない。
すぐ横が森なのだから。
まあ、夜の警戒はバルタが居ればじゅうぶんだ……しかも、今はバルタが二人だから完璧だと思われる。
「みんな、カレーを作ろうと思うのだけど……手伝って」
イナだった。
ダンジョン産のカレーだ。
「って事は……今日も白飯が食えるのか」
喜んでいるのは元国王。
「カレーとパンでも良いと思うけど」
オリジナルのエルが嫌みを言っていた。
準備が始まると、ヴィーゼはクリスティナを呼んで……さっき捕まえたそれを見せる。
「どう? かわいくない?」
「これって……フクロウ?」
灰色の胴体に顔は白い、そして眉毛がピント角の様に顔から飛び出していた。
サイズは25cm程だ。
「アフリカオオコノハズク?」
マリーが横から覗いて教えてくれた。
「ミミズクね」
「可愛いかわ……微妙ね」
唸るクリスティナ。
「肉食でしょう?」
何時もクリスティナの胸のポケットから顔を覗かせているハム吉の姿が見えない。
そのハム吉を気にしての発言だった様だ。
「猛禽類だしね……主にネズミとかを補食している感じね」
マリーが補足すると、クリスティナは自分の胸を両手で庇った。
たぶんそこでハム吉が震えているのだろう。
「使役して良い聞かせれば大丈夫でしょう?」
後ろからバルタも一言掛ける。
「まあ、初めての一匹だし……これで良いか」
クリスティナも頷いた。
妥協か? と、クリスティナの顔を見たヴィーゼ。
でも、その顔をやたらに嬉しそうに見えた。
成る程……ハム吉に遠慮してただけだったのか。
クリスティナの顔には、このミミズクはトテモ可愛いと成っていた。




