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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
92/233

091 新たに転生したゴーレム


 ローザが形造ったゴーレムはとても普通だった。

 ズングリムックリで何処にでも居る様なヤツ。

 それは、元の姿とも変わらない。


 「これで良い?」

 ローザが元国王に確認。


 「ウム……じゅうぶんじゃ」

 体育座りのままで動かないソレを見下ろして満足げに頷いた。


 「じゃあ……お願い」

 横のマリーが魔素還元装置を差し出す。


 元国王はソレをジッと見た。

 次に自分の手の中の、元の壊れたゴーレムから取り出した魔結晶を見る。

 「ソレもつかうのか?」


 「有るんだし、使った方が良いんじゃあないの?」

 ホレともう一段に差し出してくる。

 「誰かの魔素に頼らずに、独立して動けるんだしその方がいいでしょう?」


 「フム……まあ、よいか」

 少し引っ掛かるのは、ソレを使えば完璧な元のままから、外れるからだ。

 しかし、今回のゴーレム造りのキモは、魔結晶なのでソレ以外はあまり関係無いとも言える。

 この魔結晶が魂の代わりをしているかどうかの実証なのだから。


 さて……と、ゴーレムに向き直った元国王。

 モゴモゴと呪文を唱える。

 その下には光る魔方陣。

 ゴーレムの体もその光に包まれた。

 その背中に魔素還元装置を押し付けると……ズブズブと体内に押し込まれる。

 少し固めの重い油の中に沈める様な感じだ。


 「これも……いつ見ても不思議ね」

 エルが呟いた。

 

 「理屈は……転生と同じよ」

 マリーが横に来て教えてくれる。

 「転生は元の世界にそのままに、こちらにコピーを作るのだけど……その発動の一瞬はどちらも存在が希薄に成る現象を利用しているわけ」

 転生者や転生動物……魔物の事だ。

 「この状態が有るから魔素の無い世界からコピーされたモノにも魔素が浸透するの……あと、スキルとかもね」


 わかった様なわからない話だど眉が寄り下唇が突き出すエル。

 

 その間にも元国王は作業を続けていた。

 次に魔結晶の幾つかの粒を纏めて胸に押し込んでいく。


 「あれってバラバラに入ってたのよね」

 エルが首を傾げた。


 「そうね、でもその正確な位置もわからないし……何より面倒臭いと思ったんじゃあ無いの?」

 マリーは簡単に答える。


 「面倒臭いって……それでも良いの?」


 「たぶん大丈夫でしょう? 魔結晶が魂だとすれば……何処に入っていても体の中なら同じ筈」


 ふーん……と返事は返したがヤッパリわからない。

 まったく別のナニかに成りそうで怖い。


 「出来たぞ」

 元国王は額の……出てもいない汗を拭った。

 

 良い仕事をした態なのだろう。


 「ペトラ! 二人の様子はどう?」

 マリーその元国王とゴーレムを見て声を掛けた。


 「大丈夫そうですよ」

 バルタとヴィーゼを見ながら、軽い返事を返すペトラ。

 

 「なら、二人を連れてきて」

 ゴーレムを指差して。

 「二人のうちのどちらかに起動させたいから……どうせ戦車の後ろの子に成るのだし、その使役先はどちらかが良いでしょう?」


 ソレはそうねとエルも頷いた。


 そして、二人は相談して……するまでも無いのか? バルタがヴィーゼを押し出した。

 「ヴィーゼの子にして」


 「では、ゴーレムの額に触れ」

 元国王も頷いた。


 ヴィーゼも頷いて、人差し指をゴーレムの額に当てた。


 すると……すぐに動き出したゴーレム。

 立ち上がり、首をキョロキョロと辺りを確認する仕草。

 そして、ヴィーゼを見て首を傾げる。

 

 元に戻ったのだろうか?

 よくわからない。

 普通のゴーレムにしか見えない。


 ヴィーゼはナニも言わずに……ルノーftを指差した。

 

 そちらを見たゴーレム。

 頷いて歩き出す。

 ノソノソと何時もの動きだ。

 そして、何時もの尾橇に座った。


 ヴィーゼは口に出してナニも指示は出してはいないので……ソレを指差しただけで理解できたのは、たぶん元に戻ったからだろう。

 そう思う事にした。

 わからないのだし……良いと思った方を信じれば良いのだ。

 

 しかし元国王は米神を指で掻いていた。

 「成功かの?」

 

 「たぶんね……」

 ゴーレムを目で追っていたマリーも頷く。

 「で、ナニかわかった?」

 視線を元国王に戻して聞いた。


 「ふむ、ヤハリあの魔結晶は魂が宿っとる……ワシの造る魂と同じ種類じゃが、ソレを保つ方法が魔結晶に閉じ込める形に成っておる様じゃ」


 顎に手を当てたマリー。

 「疑似魂を形にする方法と同じ事を魔結晶でやっているって事? 本物の魂をつかって」


 「その本物の魂が何処から来たのかはわからんがの」


 「パトは物の意識を読む時は幾つか物を試している感じだった…読める物と読めない物が有る、そんな感じで」

 エルが考える。

 「持ち主の重いが強い物でないと駄目だって」


 「物に込められた意思か……」

 首を捻る元国王。

 「ヤツは元々は思念体でこちらに来たのじゃな……コピーでは無くて」

 それはこの異世界に最初に来た者としてのパト。

 この世界はパトの記憶が元に成って出来ている。

 それを形にしたのはペトラの最初の前世。

 「自身が思念体なのじゃったから……側の思念体を形にする能力でも有るのかもしれん」


 「それが魔結晶で魂って事?」

 マリーが問い直して。

 

 元国王が頷く。

 「流石にナニも無い所からは造れんとは思うのじゃが……」


 ん? と、首を捻ったマリー。

 あんたはナニも無いのに魂を作れるじゃないの……と、思った様だ。

 まあ、ネクロマンサーも、もしかすると何かの材料を使っているのかも知れないけど……それを確かめる術はない。

 いや……試して見るか。と、1つ思い当たった。

 「これ、何にも無い魔結晶だけど……使い終わったカラのヤツ」

 マリーは黄色い錬金術の鞄から少し大きな透明な魔結晶を差し出した。

 野球のボールよりも小さい……そんなサイズだ。

 「これで再現できる? さっきの魔結晶を」


 手に取った元国王。

 「魂を造るでは無くて……思念体を集める……か」

 

 考え込んでいる元国王を置いてマリーはローザに注文。

 「もう1体……ゴーレムを造ってくれない?」


 ん?

 「実験?」

 すぐに理解したローザは手早く造る。

 材料はもう既に沢山有る……エルのゴーレムが捏ねた土だ。

 「これでいい?」

 さっきと同じ形のゴーレムが座っている。


 頷いたマリーは元国王に魔素還元装置を押し付けた。

 「ほら、早く遣ってみて」


 それを受け取ったのだけど……困惑した元国王。

 「そこらの魂を広い集めても駄目なのじゃろう?」

 見ているのは、焼けたアメリカ戦車。

 

 「それじゃ……ネクロマンシーと同じじゃないの」

 首を横に振るマリー。

 「集めるのは思念体でしょう?」


 「その思念体ってのが……わからん」

 元国王も首を振る。

 「いや、理屈はわかる……じゃが、目に見えないそれをどう区別する?」


 「そんなの魂以外を適当に詰め込めば良いだけじゃないの?」

 ほんの少しだが、イライラし始めたのだろうか……声に鋭い所が乗っていた。

 「ネクロマンサーは魂はわかるんでしょう? ソレ以外を集めるの!」

 

 情けない顔を見せた元国王。

 「そんな無茶な」


 「ねえ……ネクロマンサーは魂を動かせるのでしょう?」

 エルが考えながらに口にする。

 「なんでもかんでも、ソレに詰め込んで……後から魂だけを抜き取ってみれば?」

 透明な魔結晶を指差して。


 「そうね、それをしましょう」

 フムとマリー。

 そして、元国王をビシッと指差して。

 「さあ、やって!」


 圧に負けた元国王は情けない顔をそのままで……魔結晶を前に目を瞑る。

 「あれか? これか?」

 ブツブツと呟きながら、なにかをしていた。


 と、魔結晶は色が変わり始めた。

 とてもドス黒い茶色の様な色。

 

 「さっきのはもっと綺麗な色だったわよ!」

 覗き込んでいたマリーの駄目出し。

 「真面目にやんなさいよ」


 「いや……これから、魂を抜く作業が……」

 また、ブツブツと。

 

 色が次第に澄んできた。

 

 「それ……色が違うんじゃないの?」

 マリーは魔結晶を指して。

 「さっきのは赤で、ソレは緑でしょう?」


 「赤は透明な水みたいだったけど……緑はなんか紙に絵の具で塗ったみたいね」

 エルの覗いた感想そのままに口にした。


 言われた元国王。

 もう一度同じ事した。

 汚く濁らせて……緑に変える。

 

 「変わんないじゃないの……」

 

 「これが限界じゃ」

 諦めた元国王。

 「しかし、色は着いたのじゃし……これでナンとか為らんのか?」

  

 「そんなの……私に聞かないでよ」

 マリーはゴーレムを指差して。

 「やってみれば!」


 ああ……これはサッサと結果を出した方が良さそうだ。と、そんな感じか? スゴスゴとゴーレムに近付いて……魔方陣。

 魔素還元装置を入れて。

 緑の魔結晶を押し込む……。

 すると。

 すぐさま異変が起きた。


 ゴーレムが分裂し始めたのだ。

 普通よりも小さいゴーレムが1体……75cmほど?

 もっと小さいゴーレム2体……60cmほど?

 小さい方はもう少し微妙な差が有る……数センチの差だ。

 そして、各々には耳と尻尾が生えていた。

 たぶん……猫耳と狐耳とイタチ耳だ。

 

 元国王とマリーはバルタとエルとヴィーゼと、そのゴーレム達を見比べた。

 

 「あんた! 生きた人間の魂を抜いたの?!」


 「いや……そんな筈は」

 狼狽える元国王。


 「でも……これって、明らかにこの子達じゃないの!」


 呆然としていた三人の獣人の子達。

 各々が自分の体を確かめる。

 「おかしな所は無いよね?」

 ヴィーゼはバルタに聞いた。

 「大丈夫だと思う」

 エルがソレに答える。


 「ホントにロクな事をしないわね!」

 元国王を指差して怒鳴ったのは……狐耳のゴーレムだった。

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