089 後始末
元国王とマリー達が壊れたゴーレムを検分していた、その頃。
ムーズを筆頭にして、キャラバンの救助をしていた。
タヌキ耳姉妹のAPトライクに乗り込んで、バラバラに為った荷馬車や車両を1ヶ所に集まる様にお願いして回ったのだ。
敵の驚異はと、火の吹いた戦車を指し示し。
怪我は無いかと聞いて回る。
その補助にはクリスティナだった。
ギュウ太に股がり着いてくるだけだけど、それでじゅうぶん。
このキャラバンはヤハリか、同じ列車に乗っていたからだ。
ほぼアイドルだったクリスティナの事は皆が知っていた。
もちろん司会を勤めて居たムーズも、ここでは有名人である。
だからか、説得も早い。
「皆さん……馬の状態はどうですか?」
集めた皆に最初に尋ねたのはそれ。
エルにそれを一番に聞いてと頼まれていたのだ。
スグで無くても、移動できるかどうかは重要事項だそうだ。
それは、確かにと納得出来た。
もちろん解決策も聞いた。
駄目に為った馬は……元国王にゾンビ化してもらうのだ。
ただし、普通は潰れた馬はそのまま食料に成る……その前に止めないといけないのだ。
流石に馬刺では荷車を引けない。
「2頭は駄目だ……あと1頭もアヤシイ」
キャラバンのリーダーなのだろうか?
ガッチリとした体なのに、商人ッポイ格好をしたオジサン。
「その死んだ馬は、私達にくださらないかしら」
ムーズは交渉を開始した。
「勿論代わりの食料は私達で調達します」
「それは構わないが……しかし」
考え込んでいる様子だ。
7頭居た馬が4頭に為ったので、荷が引けないと考えているのだろう。
その上で、死んだ馬をどうするのかと訝しんでいる様子も伺えた。
「私共の仲間に、死んだ馬をゴーレム化が出来る者が居ますので王都まではそれで凌ごうかと考えております」
ハッキリとゾンビ化とは言わないで置いた。
ゾンビ化は余りにも不穏当だと感じたからだ。
「そんな事が出来るのか?」
オジサンはその出来ると言う者を目で探した。
随分と離れた所に数人の集団が見える。
誰々とはわからないが……たぶん、列車でのショーの時に治療士として居た老人だと理解した。
「もしかして……あの方は元国王様?」
「知っておられるのですか?」
言い当てられて、驚いたムーズ。
「直接に見た事はないが……」
オジサンは少し間を空けて、声を潜める様にして。
「随分と昔の事だが。叔父が軍人で、戦死したのだけど英雄だといわれて元国王様に復活して貰ったと聞いた」
どう解釈すれば良いのかと悩んだ覚えが有るのだろう、そんな気配も感じたのだ。
見た目は変わらないし生前と同じ様に動き考えるのだが、それでもゾンビは生きては居ない。
知っている者だけがその事がわかる。
だけど、残された者にはそれは関係がない。
そこに今も居るのだからだ。
眉間に皺が寄るムーズ。
「その事は……あまり口外はしない様にお願い出来ますか? 今回の馬もあくまでもゴーレム化だと、お願いします」
たぶん他にも沢山知っている人が居るのだろう。
でも流石に国民の皆をゾンビ化するわけにもいかない。
しかしそれは、身内の死に不公平が産まれる。
あそこの父親は生き返ったのに……なぜ我が家の父は駄目なのか? と。
その不公平は恨みにも変わるものの類いだ。
ゾンビ化が絶対悪なのはそれが有るからだ。
死は統べての者に公平で無くてはいけないのだ。
「わかった……」
元で有っても国王は国王だ……そこらの貴族とは一線を引く。
もちろん貴族様にだって逆らえはしないのだけど……と、そんな顔だ。
だからか、その理由も聞かずに頷いたのだった。
一度、恩恵を受けた者にはわからない事なのだろう。
それも、仕方無いとも思うムーズだった。
「でも……ヤッパリ元国王はロクな事をしない」
声には出さない独り言だった。
アマルティアは4体のゴーレム兵を従えて、火の吹いたアメリカ戦車を確認していた。
もちろん生存者は居ない。
エルの流弾は元より、犬耳三姉妹のファウストパトローネもキッチリと弾薬庫を貫いている。
中は確実にオーブンだ。
逃げた形跡も何処にも見られないので死は確実。
火がおさまっても……死体すら残らないだろう。
「他の戦車も居ないようだ」
側に来た国防警察軍のL3ガーデンロイドから警官が二人で覗いていた。
残りは未だに周囲を探索しているのだろう……だからか一両だ。
「これでは、目的もわからないね」
流石に死体も残らないのでは、ゾンビににも出来ないので聞けもしない。
「ただの追い剥ぎかしらね」
戦車の維持費もバカに為らない。
燃料代は動かすだけで掛かるし。
撃てば砲弾も消耗する。
「いや……たぶん」
一人の警官が何かを言い掛けたそれを隣の警官が止めた。
「言う必要はない」
言葉の強さから、そちらが上官なのだろう。
でも、言うなと為れば……それは理由が有る筈。
まあ、特別なナニかを運んでいたのだろう。
物なら、書簡かナニかかな? たぶん物騒な内容。
人なら……要人かその家族、こちらの方が有りそうか。
書簡や物そのモノならキャラバンに紛れ込ませる理由もない。
小さいモノなら、もっと安全にを選択するならバイク便が有る。
警察軍が直接にバイクで運べば早くて安全だ。
大きいなら足の速いトラックか、遅くても装甲を持つ戦車で運べば良い。
敵に拿捕されても燃やせば良いだけだし……物なら代わりも有るだろう。
代わりが用意出来ないのは、ヤハリ人間だろうと思われる。
でも、それを問いただしても……私達にはあまり良い事には為りそうもない。
国防警察軍が守るなら……ヤッパリ国の政治に関わる事だろうから。
だから、興味の無い振りで。
「別に……どうでもいいわよ」
肩を竦めて。
「驚異が去ったならそれでいい」
マリー達は壊れたゴーレムから魔結晶を集めていた。
「他に無い?」
「散らばっていた体の一部も全部見たけど、もなさそう」
エルはルノーftを指差して頷いた。
叩き付けられてへばり付いていた土塊も剥がしてバラしたのだろう。
そのルノーftはローザが壊れた所が無いかと点検をしていた。
バルタとヴィーゼはペトラに言われて、大人しく座り込んでいた。
体に怪我は見当たらないが……それでも脳にダメージが有るかも知れないからと、様子を見ている。
精神的なモノも含めてだ。
特にヴィーゼはショックを受けている様だった。
バラバラに成ったゴーレムを悲しげに見ていた。
所詮はゴーレムなのだから、特別友達かと言われれば違うのだろうけど。
それでも身を挺して庇ってくれた事に、感情移入してだろう罪悪感とでも言うのかを感じている様子だった。
「治るの?」
何度も呟いている。
「そうじゃな……一応はやってみるが、元のそのままのゴーレムかどうかは保証出来んぞ」
形としてはゴーレムだが、バラバラを作り直して……さてそれが元と全く同じかはわからない。
本来なら意思は無い道具なのだからだが……このゴーレムは希薄だがその意思を示した。
自分から行動して戦車を守って見せた。
その答えも知りたいと、再生を試みる。
「集めた部品はこれだけか?」
元国王は足元の土の山を見下ろす。
「足らない分は……そこいらの土で埋めるか」
チラリとエルを見た。
「適当に掘ればいいのね」
エルは頷いて、自分のゴーレム達に指示を出す。
ある程度を掘り返した所で。
「形はどうするの?」
そう尋ねる。
「そうじゃな……元が市販品じゃし」
ルノーftの方を向いて。
「ローザ、ちと頼めるか?」
と、呼んだ。
「いいよ」
頷いたローザ。
「今、行く」
と、元国王の元へと歩く。
途中、バルタとヴィーゼに。
「戦車は大丈夫そうだよ」
そう声を掛けていた。




