087 ラクダっぽいヤギのロバ
その日の夕方。
適当な所でキャンプを張った。
何もないだだっ広い草原の一本道のそのすぐ脇。
夕食はお弁当。
お婆さんとオバさんが作ってくてれたオニギリだった。
何故にソレかと言えば……元国王のリクエストだったらしい。
「米が食いたい気分じゃったのだ」
何で? と聞いたクリスティナに胸を張ってそう言っていた。
まあ、簡単に済ませられるからそれでも良いのだけれど。
口にオニギリを一個丸ごと詰め込んだアマルティアが地面を掘り返して、土をコネ始めていた。
それに、興味を持ったヴィーゼが食べながら、少し離れた位置で見ている。
泥遊びが、チョッと楽しそうだなとでも思っているのだろう。
だけど、もう8才だしと……ウズウズとした手を隠している様だ。
と、ソコにクリスティナがやって来た。
ムフと見たヴィーゼ。
成る程クリスティナはまだ7才だし、子供だねと頬を緩める。
が、クリスティナはヴィーゼにお願い事が有った様だ。
「ねえ、今度……可愛い感じの動物を見付けたら捕まえて欲しいのだけど」
オズオズとモジモジと。
?
「どうするの?」
なんで? と顔をした。
「コツメさんに教わった、獣使役を試したいの」
「もう、イッパイいるじゃん……ギュウ太とかペン太とか」
「それ……みんな元国王のだから」
少し淋しげに。
「そのうち別れるし……自分のが欲しいの」
ああ、そうかと頷いた。
「可愛い感じのか……ムズいね」
もう王都に近いのか、魔物もアンマリ見かけないし。
「虫……とかダメ?」
露骨にイヤな顔をした。
「えええ……」
「蝶々とか蜜蜂なら可愛いじゃん」
「でも……寿命が」
「そっか、一年だしね」
確かにだ。
使役して、情が移って一年では悲しいか。
チラリと焚き火を見たヴィーゼ。
その明かりに蛾がタカっていた。
……ダメか。
「あれは! 絶対イヤ」
目線を追いかけたクリスティナが強い口調で否定した。
ウーンと考えるヴィーゼ。
「じゃあ……何処かの森か林か……」
と、思い当たった様だ。
「王都の近くに池と林が有ったから……そこなら何か居ないかな?」
「モフモフな感じの……ウサギとか居ないかな」
ヴィーゼの提示した可能性に、チョッとだけ嬉しく為った様だ。
だけど少しだけ驚いたヴィーゼ。
「ウサギか……イモリとかカエルとかサンショウウオとか、あと亀も」
水辺の生き物達だ。
「いーや!」
頬を膨らませて居た。
「やっぱりバルタに頼む」
怒って立ち上がろうとした。
その時、アマルティアの声がした。
「出来た!」
二人はソレを見た。
「ひつじ?」
「ヤギ?」
まだ魔方陣の光の残り火の様な明かりがチラチラと残るその真ん中に、四つ足のゴーレム。
「ロバですが?」
アマルティアは二人を睨む。
「でも、首が太いし……角も有る」
ねえ……と横のクリスティナに同意を求めるヴィーゼ。
「ソレは耳です!」
言い張るアマルティア。
確かに言われればそうかもしれないとは思うけど。
土で出来た尖ったモノが頭の上に有れば……角にしか見えないと思う。
そのアマルティアの言うロバ。
首を下げて地面の土を食って居た。
「何してるの? あれ?」
クリスティナがロバを指す。
「土の中の細かい魔石を食べている……らしい」
アマルティアには少しはロバの意思が伝わるのだろう……でも、らしい迄の様だけど。
そのロバ。
いきなり頭を横に振って口をクチャクチャ、そして唇を震わせてブババッと噛み砕いた土を吐き出した。
「ラクダ……だったのか」
ヴィーゼが呻く。
「ちがう! ロバ!」
さて翌朝。
アマルティアは早速に荷馬車をロバに繋いだ。
元々は馬用。
多少のサイズの違いは有るが……形はそれに合っている。
ほんの少しの手直しをローザに頼むだけで、ピッタリとフィット。
ロバ車の完成だ。
そして、流石はゴーレムだ。
力も有る。
グイグイと引っ張ってくれた。
その上、疲れ知らずで速度もソレなりに出る。
ギュウ太よりも少し速いくらいだ。
「それ……ほんとにロバ?」
三姉妹がモンキー50zで並走しつつ、エレンがアマルティアに尋ねた。
「ロバよ」
「見た目はヤギだよね」
アンナが納得いかないと首を傾げていた。
「ロバです」
「ヴィーゼはラクダだって言ってたよ」
「シツコイはね」
珍しくイライラを隠さないアマルティア。
ソコに無線で。
「その速度は……ラクダで正解じゃ、ロバは25km程が限界じゃ」
「今は55km……出てる」
「ラクダの限界は65kmじゃ」
「成る程……荷車を牽いているから、その分を差し引いての速度」
フムフムとエレン。
「でも、見た目はヤギだよ」
しつこく食い下がるアンナ。
「魔方陣で造るゴーレムは、イメージ力が重要だからね」
この声はマリー。
「アマルティアの感性では、ソレがロバなのよ」
「足が太いよ? 首も短いし……どっちも土管みたいだ」
「ゴーレム兵は普通の形なのにね」
「そりゃ、側に見本が有ったからでしょう」
「そう言えばさ、絵を描くと自分に似るって言うよね」
……。
「ロバ」
急に黙った三姉妹と無線の先のマリーにハッキリと告げたアマルティア。
「ロバのゴーレム」
そして、また暫くの沈黙。
それを壊したのはバルタだった。
「誰か居る! 戦車もだ」
「どこ?」
エルが確認。
「進行方向の先……20km程」
「移動しているだけ?」
「舗装路から外れて……散会してる」
「妙ね……相対している敵が居る?」
「たぶんね……」
その敵までは、バルタにもわからない様だ。
「見てくるよ」
三姉妹が先頭にでた。
「20分頂戴」
頭を低く目一杯にアクセルを捻った三人は、揃って加速していく。
「私達は、少しスピードを落として……10km手前で待ちましょう」
「そうね、むやみに巻き込まれてもイヤだしね」
20分待たずに連絡が入った。
「チャーフィーとスチュアートが居る」
「エルフ?」
アメリカ戦車ならエルフの筈だとエルは考えたのだろう、その確認。
「わかんないね……頭は出してないし」
「まあ、そうね」
頷いたエル。
「エルフだとしても転生者を奴隷化して使役しているだろうし」
エルフならそれを遣ると知っていた。
繋がる力を使っての動物の使役……今はクリスティナもそれが出来る。
そして転生者は人間……つまりは動物だ。
「相手はわかる?」
「今、アンナとネーヴが確認に走ってる……回り込むのに少し遠回りに成りそうだから、時間は掛かると思う」
「わかった、見付からない様にね」
ヴェスペに砲弾を突っ込んだエル。
撃つか撃たないかはまだ判断は出来ないが……イザと為ればのその準備だ。
「もう少し近付きましょう」
ヴェスペの射程は約10km、出来れば5kmくらいで撃ちたいとの事なのだろう。
相手がアメリカ戦車だと言うのも有る。
射程は大体が3kmまでだし、それ以下でも大概当たらない。
アメリカの戦術は数撃て当たれだ。
砲手だってマトモに狙う気が有るのかどうかもアヤシイ。
それでも500mくらいの近距離なら、当ててはくるのだけれど。
速度を落としつつ前進。
エンジンの音を下げる意味も有る。
音は存外、遠くに届いてしまうからだ。
まあ、戦車の中から顔を出さないなら、それも聞こえはしないのだけど。
こちらはエンジンを載せ変えて静かに成っているのだし、余計に気付く事も無いと思われる。
それでも、用心に越した事はない。
「チャーフィーは敵だ!」
無線から叫びが聞こえた。
「キャラバンを襲っている……護衛にはL3豆戦車、ガーデンロイドだ」
「ってことは……国防警察か」
エルは敢えて説明を加えた。
バルタの決断を待つためだ。
「列車で一緒に為った人達だと思う」
距離と時間を考えると、普通の荷馬車の速度だとそんなものだ。
「わかった」
バルタは低い声で答えた。
「助けよう」




