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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
87/233

086 さて……出発


 結局……その日の昼食後と為った出発。

 さあ張り切っていこう……等と声をあげる者は誰一人として居なかった。

 みんな名残惜しい様だ。

 原人の女の子が別れ際に手を振ってくれていた時には、戻って抱き着いていていた者も居たほどだ。

 バルタに怒られていたけど……戦車が動かないって。


 そんなこんなで山を降りて、舗装路に出た。

 

 「で……ルノーftってどんな感じ」

 エルが無線で聞いてきた。


 「砲塔を動かすのは回転ハンドルに成った」

 バルタが返す。

 「まあ……38t軽戦車と良く似た感じかな」

 砲を左右に動かして見せて。

 「グラグラとはしなくなったけど……チョッと遅くなった感じ」


 「ふーん……で、サスペンションは?」


 「安定は良く成ったかな?」

 そちらはイマイチ実感は出来ない様だ。

 「車体の前後をスイングさせるのも、思ってた依りも早いかな」

 ルノーftのお尻を上げ下げして見せる。

 上げる時は、ポンポンポンと空気を送る為だろう音がする。

 下げる時はプシューだ。

 

 「不整地では全体を上げて底着きが減らせるし、整地では下げて速度を上げやすく成ってるよ」

 ヴィーゼだった。

 「それと、曲がる時は外側が上がって傾ける感じだから、曲がるのも楽に成った」

 左右に蛇行運転して見せた。

 

 「たしかに、右と左が別々に上下してるね」

 バイクで後ろに着いて来ていたエレン。

 「バイクみたいに傾いてるね」

 アンナ。

 「前傾に成ればフル加速でも前が浮きにくいんじゃない?」

 ネーヴ。

 

 「確かにそうかも」

 前を目一杯に下げたヴィーゼ。


 「今はやらなくてもいいからね」

 ソレを止めたのはローザだった。

 「N2Oが勿体無い」


 「そんなに貴重だっけ? 亜酸化窒素って」


 「いや、ドイツ軍の戦闘機を見付ければ簡単に手には居るよ……他に使い道は無いし……」

 そこで止まったローザ。

 「あ、麻酔としても使えるとは聞いたかな……笑気ガス? だっけか」


 「そうなの?」

 マリーが無線に割り込んできた。

 「それなら、私でも作れるじゃない……甘い良い香りのするガスでしょう」

 

 「お? アレがそうなのか!」

 横で驚いて居る元国王の声がする。

 「結構、気持ち良くなるんじゃ……あれ」

 経験が有るようだ。


 「一応は代用麻薬みたいに使われていたからね」

 エルが横で説明していた。

 「元が貴族のパーティーグッズよ」


 ホーとかヘーとかの声が聞こえるが……そんなのはどうでも良いと話を変えたバルタ。

 「ヴェスペはどうなの? 新しいエンジン」


 「わかんない……静かに成った気はする」

 エルの返答。

 

 「イヤイヤ……楽に成ったよ」

 ローザの笑い声。

 「馬力が上がってオートマだからね、もうレンチで叩かなくても良いし」


 「そうなの?」

 ペトラが驚いた声。

 散々レンチで叩いていたからか実感がこもっていた。

 

 「しかもだ……なんと、ゴーレム化もしたから自動運転も可能だし」


 「ナニナニそれ」

 食い付いたヴィーゼ。


 「アマルティアの遣っていた方法を簡略化してやってみたのよ……元国王のゴーレム化の魂を抜き取る方法を省いて、ソレを戦車に移植してみたら出来た」


 「凄い! スゴイ! すごい!」

 ヴィーゼはハシャグ様に。

 「ルノーftにもやって! それ」


 「やったよ」

 ローザの声は嬉しそうだ。

 スゴイは最大の誉め言葉なのだろう。

 「手を放して、話し掛けてみなよ……勝手に動くから」


 ヴィーゼは早速にやってみた。

 「ルノーちゃん……前進」

 なんの変化も無くに進んでいるルノーft。

 次に。

 「右に曲がって」

 変化は無い。

 「あれ?」

 首を捻ったヴィーゼ。


 「先に名前を言わないとダメだよ……こんな風に」

 一呼吸置いて。

 「ヴェスペ君、前の戦車に追従」

 外から見れば、ヤッパリ変化は無い。

 さっきからズッとルノーftの後ろを走っているのだから。


 「ルノーちゃん、左右に蛇行運転して」

 ヴィーゼはもう一度、指示を出す。

 すると、右に左に車体を揺らし出したルノーft。

 「おおおお!」

 感動しているようだ。


 「おおおお?」

 後ろではローザが慌てていた。

 「ヴェスペ君、真っ直ぐに走って」

 いきなりの動きに驚いた様だった。


 「あんまり賢くない?」

 エルがムムムと声をあげている。


 「賢いよじゅうぶん……でも、ほら、普通のゴーレム達の指示とおんなじ感じでないとね、わかり難いからね」

 ローザが後ろのエルに告げているのだろう……無線の声がいきなり遠くなった。


 「市販品のゴーレムと同等って感じなのか」

 バルタの声も少し落ちた気がする。

 

 「アマルティアのゴーレム兵とか元国王のゴーレム達が特別過ぎるによ……これが普通だから」

 ローザが言い訳を始めた。

 

 そのアマルティアは、タヌキ耳姉妹の運転するAPトライクの後ろで牽引されている荷車に乗っていた。

 ペンギンのダンジョンで破壊されたヤツを修理したのだ。

 そこにはアマルティアの他に13体のゴーレム兵が体育座りで座っていた。

 12体……造れるだけ造ったのだけど、うまく動かせるのは4体か5体まで。

 5体目を動かすと、視界がや意識がゴッチャに成りすぎて酔う様な感覚に襲われる。

 それ以上に成ると吐きそうにまで成る。

 そのうちに慣れればそれも治まるだろうとは、ジュリアお婆さんに言われては居るのだが……とても気分が悪くなるので、あまり慣れたくは無いなと思うアマルティアだった。

 

 ちなみに、タヌキ耳姉妹もゴーレムが1体貰えた。

 色々と実験して、ダメだったヤツだ。

 それでも、市販品よりかはチョッとだけ、マシらしい。

 いまは、APトライクの後ろで荷車の牽引の為の棒を握っている。


 「しまったかもしれない」

 アマルティアが呟いた。

 無線は皆の話を聞く為に握っていたので、その呟きも無線に乗る。


 「どうしたの?」

 クリスティナが聞いてきた。

 ギュウ太の背中に乗っていた。

 そして、ギュウ太は小さめのリヤカーを牽いている。

 消防署で見付けた鉄の頑丈そうなヤツだ。

 そこにはペン太と荷物が乗っていた。

 

 「私も、馬のゴーレムを造っとけば良かったなと思ってね」

 クリスティナの牛車を見て答えた。


 「今からでも作れば良いじゃない」

 マリーの返答。


 「もう捕縛疑似結晶が無いから……」

 溜め息が漏れる音。

 初めは10個の筈だったソレを3個も余分に貰ってしまった。

 調子に乗って造り過ぎたのだ。

 お婆さんは笑って許してくれたけど……もう予備も無い筈。

 造るのが面倒臭いって言ってたから、今頃は大変だキッと。

 もちろん反省はしている。


 「なら……1体潰して作り替えるとかは?」

 

 「だめよ、みんな各々に意識が有るのよ……可哀想じゃない」

 

 「なら……捕縛疑似結晶無しで魔素還元装置だけで造ってみれば? タヌキ耳姉妹姉妹にあげたヤツみたいに」

 マリーが提案。

 「どうせ、荷車を引くだけならそんなに知能は要らないのだし、何よりあんたの負担にも成らないでしょう?」


 動かせる数に制限が有るから、ソレを割いて荷車を引くだけには使えないって事か。

 たしかにそうだ。

 勿体無い。

 「使役だけして、意識の共有を抑えれば良いのか」

 フムと考えたアマルティア。

 「次の休憩の時にでも作ってみるよ」


 「それでも問題が有るようだけど」

 マリーがクスクスと笑う。

 「たぶん、馬は造れないわね」


 「どうして?」


 「だって、大き過ぎるでしょう」


 ……。

 ムッとしたアマルティア。

 「じゃあ……ロバで良い!」

 

 「山羊ってのはどう?」

 クスクスが大きな笑い声の変わった。

 「山羊が引く山羊車に山羊娘が乗るのよ、完璧じゃないの」

 

 「ロバくらいなら造れるわよ!」

 山羊のゴーレムなんて絶対に造ってやんない。

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