085 なんやかや
病院のガレージはごった返していた。
各々がアレが良いコレが良いとお持ち帰った車やバイクがアチコチニ置かれている。
数も結構有った。
アマルティアは早速、ゴーレム造りを初めて居た。
元国王がゴーレム化した魂を抜き出したモノは10個……捕縛疑似結晶の数に限りが有るからだ。
どうにも作るのが面倒な代物らしいから、それも仕方無い事なのだろう。
「でも、捕縛疑似結晶をこんなに使って大丈夫なの?」
アマルティアはマリーに聞いた。
元はゾンビ達皆の復活の為のモノのはず。
「まだ……誰も使いたがらないしね」
苦笑いのマリー。
その誰かの中には自分も含まれている様だ。
「まあ、緊急事態用に数個は残して有るから大丈夫でしょう……面倒なだけでもう作れないわけでも無いのだし」
「緊急事態?」
お婆さんは元国王を見て。
「まあ……直近は寿命かな」
まあそうか……ゾンビ達は余程の事が無ければ死なない、ってかもう死んでる。
滅っせられるか、動けなくなるかだけど。
滅するのはネクロマンサーにしか出来ないし、それは元国王だ。
動け無くなるも、手足や体は他の死体から取って付ける事も可能で、そもそも肉を腐らせればスケルトンに成るだけ。
後は神官魔法での強制転移らしい……転移先は天国?
「ほら……余計な事を考えていると形が歪むよ」
マリーに怒られた。
そしてまた別の一角。
ペトラはカーテンを縫い合わせていた。
原人達の服だ。
女の子のはもう出来て既に着ている。
前と後ろに二枚のカーテンを繋ぎ合わせただけのポンチョの様なワンピース。
流石に本格的な服は作れないと、それで諦めて貰おうと思っていたのだが。
原人の女の子にはそれでもじゅうぶんに嬉しかった様だ。
服の裾を掴んでピョンピョンと跳ねたりクルクル回ったりととしていた。
今、縫っているのは母親の分。
父親の方はイナとエノのタヌキ耳姉妹が担当していた。
ムーズはそのお手伝い。
縫い物なんてした事が無い筈だけど……適当に言われた事、出来る事をしているのか。
そしてクリスティナとヴィーゼは……女の子の相手。
ただ遊び相手に成ってやっているだけらしい……ただし、遊んで貰ってるのはヴィーゼの様だけど。
そして、戦車のまわり。
ローザがルノーftを弄くり。
ジュリアお婆さんがヴェスペ自走砲のエンジンを下ろしていた……エンジンを載せ変える積もりらしい。
「でも、あんまり速度は出せないよ」
と、エルに告げていた。
「どうして?」
食い下がるエル。
「重心が高すぎるからね……どうにも成らないよそれは」
見上げたお婆さん。
「まあ、運転が楽に成るならそれで良いよ」
ローザがルノーftの中から会話に交ざる。
速度の方は期待できないと初めからわかっていたようだ。
そのエンジンは、当初ピックアップトラックのシルバラードのモノを使う積もりらしかったが……元国王はその事にえらく渋って、代わりにとポルシェ928GTSを見付けてきた。
エンジンは5400ccのv8で4速オートマだ。
馬力的には今の140馬力から340馬力にまで向上するのだが、それらは操縦のしやすさに割り振られた。
速度が出しにくいのだから仕方がない。
それでも不整地で60kmは出せる様にはしてくれるらしい。
「……まあ、じゅうぶんか」
渋々だが納得はしたエル。
「それでもオーバースペックだとは思うけど?」
ローザがルノーftの砲塔後部から頭だけを除かせて。
エルは眉を寄せて下唇を突き出して……そのルノーftを指差す。
「アレは特別だ……随分と無茶をしている」
ジュリアお婆さんは顔を左右に振りつつ。
「車体のバランスが良いから、まあナンとか成っているが……気を付けないとそのうち横転するよ」
「最高速でもフル加速でも、履帯が暴れまくっているものね」
ローザもそうだろうと頷いていた。
そのローザ。
ルノーftから降りて来て、ジュリアお婆さんに相談。
「砲の角度だけど……どうにか成らないかな?」
唸ったジュリアお婆さん。
「砲塔も砲も、弄り難いね……」
ジッとルノーftを観察して。
「仕方にアレを使うか」
指差したのは一台の車。
警察の装甲バス。
? な、顔に成るローザ。
「車の部品? エンジンはもう今のままでも良いと思うけど……第一ディーゼルだし」
「アレのサスペンションはエアサスなんだよ、使うのはそれ」
掌を横にして前後を上下させて。
「前や後ろを車体ごと持ち上げれば砲も下を向けられるでしょう」
「履帯だし動力輪は固定でも問題ないし、接地転輪を纏めて前後で上下させればよいだけだし、それが一番に簡単だろうね」
ええ……っと眉をしかめたローザ。
簡単なのか? と、そんな顔だ。
「車高を下げれば、それだけ速度にも対応が出来るし、砲を撃った時の安定も増すからいいこと尽くめだし」
そうか、走行安定も含めてかと納得のローザ。
「でだ……あのエンジンなんだけど、誰が載せ変えたの?」
ジュリアお婆さんがローザに尋ねる。
「私のお爺ちゃんなんだけど」
「マンセルの仕事か」
ため息を着くお婆さん。
「今度、会ったら言っといて……適当な仕事はダメだってね」
「え? お祖父ちゃんを知ってるの?」
「そりゃ……息子だしね」
「えええ!」
ローザは思いっ切りと、ジュリアに指を差す。
「ひいお祖母ちゃん?」
「あんたがマンセルの孫ならそうなるね」
「うそー!」
「嘘付いてどうなる」
お婆さんはローザの手を掴み。
「さあ、ちゃっちゃとやるよ」
ルノーftの改造に取り掛かった。
そして、なんやかやと五日ほど過ぎた。
「そろそろ出発しましょうか」
マリーが突然に宣言する。
子供達は一斉にマリーを見た。
テントから這い出してくる者。
ガレージにテントを張ってそこに住んでいたのだ。
もちろん元が病院なのだから、部屋は沢山あった。
でも、何となく落ち着かなかったのだ。
だから、何時もの野営のテント。
そして、原人達親子もガレージに住み着いて居た。
屋根の有る快適な場所で、危険もない。
子供を育てるには最高の場所だろう。
ちなみにマンモスは外の玄関前のロータリーに居座っている。
ガレージの中は天井が低いと感じたのだろうけど……それでも、ここが良いらしい。
たまに出てくる食料……餌が美味しいのだそうだ。
それに、マンモスはこのダンジョンではまだ下位の存在に近いらしいのだ。
奥に行けばもっと凶悪な魔物がゴロゴロと居る。
それらも、この病院には近付かないので、それも有るようだ。
やはりここは安全なのだ。
「何処へ?」
原人の女の子と遊んでいたヴィーゼが、間の抜けた質問。
「王都に行くって……そういえば言ってたね?」
ペトラもスッカリ忘れていたらしい。
夢中に成っていた縫い物の手を止める。
裁縫にハマった様だ。
「あんた達……ダルンダルンね」
マリーは呆れた声を上げた。
「何時までもここに居てもしょうがないでしょ?」
「そうかもだけど……」
面倒臭いと言いかけて止めたエル。
そう言えば最初に仕事を受けたのは私だったと思い立ったらしい。
元はヴィーゼの借金だけど、ソレを交渉したのだ。
フムと立ち上がり。
手を叩いて。
「みんな……準備しましょう」
ノソノソと動き出す。
準備は簡単なのだけど。
その速度は遅かった。
テントを畳むだけでも時間が掛かる。
一通りが済むのに半日も掛けてしまった。
子供達の全員がここの居心地に慣れてしまっていたようだ。
「またそのうちに連れて来てあげるわよ」
マリーは苦い顔。
「ここは田舎の、お祖母ちゃん家か?」
ため息が漏れるのだった。




