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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
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081 別動隊


 「あれじゃない?」

 ヴィーゼが戦車の中で指を指す。


 バルタにはまだそれは見えなかった。

 だけど、ヴィーゼ言うのだから……目的のそれはそこに有るのだろう。

 その方向に向けて戦車を動かした。


 そして、警察の簡易装甲車両のバスを見付けて近付くと……カンカンと石の当たる音がする。

 警察署の建物の屋上にも奴等は居たようだ。

 

 「コレでは……出られんな」

 フームと唸る元国王。

 グイグイと押し出そうとしていたヴィーゼに抵抗するためのぼやき?


 もういい加減にヴィーゼも限界の様だ。

 いや、ここまで良く我慢した。

 私ならそんなの秒で嫌だ。 

 なんで他人の男の人とくっつかねば為らないのか……そりゃ、まあ? それが作戦のうちだと言われてもだ。

 絶対に無理。

 車両確保の為のお爺さん移送作戦?

 それはわかるけど……もっと他に方法は無かったの?

 ……私じゃそれも思い付かないけど。

 エルとかマリーなら頭が良い筈……もう少し考えて欲しかった。


 まあ……しかし。

 もうここまで来てしまっている。

 間の前には大きなバス……物々しい金網が窓を塞ぐ様に横を覆い、天井にも覆う様な金網。

 これはたぶん火炎ビン対策なのだろう。

 金網だから流石に銃弾は防げないし……この薄っぺらいボディの鉄板ならファウストパトローネの対策も意味が有るとも思えない。

 普通に戦車砲でも、対戦車ライフルでも……それ以前の9mmだって貫通しそうだ。

 まあ、ハダカデバゴブリンの投石や棍棒くらいは防げるのだろうから、今の用途には十分なのだけど。


 ブツブツと呟きながらに無線機を手に取ったバルタ。

 「エル……何とか為らない?」

 至極……適当な要請。


 「場所は?」

 それでも返答は普通に返ってきた。

 「何処に居るのか見えないわよ」


 建物の影に成っているのだろう。

 それに私達以外の意識も多すぎる……魔物のハダカデバゴブリンなのだけど、エルにはその区別は着いていないようだし。

 何故に私達と魔物ごときが一緒なのかとも思うけど……何年一緒に居るのよ! とだが、わからないと言われれば……それは仕方無いと言わざるをえない。

 少し寂しいが、そんな能力なのだろうと割りきるしかない。

 感じた相手の意識の中身までわかる様ならそれは凄すぎるのだし、もう殆ど無敵だ。

 相手の行動の心が見えればその対策も簡単。

 ……そう言えば、花音は相手の心が読めたっけ? あの子は今は何処に居るのだろうか?

 突然に居なくなってそれっきりだ。

 元国王のスパイ? だったみたいだけど……いまはその元国王とも一緒に居るのだし、それなら帰って来ても問題無いとは思うのだけど。

 また、別の何かを企んでいるのだろうか?

 

 頭で考える事とは別に体は動いていたバルタ。

 操縦席の前のハッチの覗き窓の部分だけを跳ね上げて……そこから手を差し出して、空に向けて信号弾を打ち上げた。

 エルの持っているカンプピストルとホボ同じモノだけど、これは戦車に常備しているだけの信号弾と照明弾の為の発射機で信号拳銃だ……残念ながら榴弾の発射には的さない。

 ホボ同じのその違う部分は、銃身にライフリングを刻んで有る方がカンプピストルで狙える命中率を持っている。

 この信号拳銃の銃身にはライフリングは無い滑空式だ、だから発射されたそれは大体の方向にしか飛ば無い。

 まあ、信号弾に照明弾用なのだからそれでも十分に用途は足りるのだけど。

 

 シュルシュルと音を立てて、黄色い煙で線を引きながらに空高く昇っていった信号弾。


 「見えたわ」

 エルからの返事。

 そして、すぐに警察署の屋上で爆発が起こった。

 その規模から考えるにカンプピストルの榴弾ではなくて、8cm,sgrw34迫撃砲の榴弾だと思われる。

 それは、それが撃てる状況を確保出来たとそう言う事なのだろう。

 

 「フム……コレ必要なのか?」

 バルタはバスに取り付いた元国王をみた。

 

 その元国王はバスのドアの前でまごついている。

 

 「早くして」

 叫んだバルタ。

 「さっきの爆発で投石は止んだけど……また何時始まるかわからないよ」

 

 「わかってはいるのじゃが……鍵が」

 扉を押したり引いたりの元国王。


 顔をシカメたバルタ。

 それはそうだろう、普通に停めてあるなら鍵は掛けておくだろうに……それを今更?

 「ヴィーゼ……後ろのゴーレムに扉を壊させて」

 ブスリと呻く。

 

 肩を竦めたヴィーゼは砲塔の後ろのハッチから何時もの様に尾橇に座っているゴーレムに。

 「行って! 行って!」

 と、指示を出す。


 ノソリノソリと戦車の尾橇から降りるゴーレム……市販品の性能は、まあこんなものだ。

 アマルティアの造ったゴーレム兵も。

 エルのミスリルゴーレムも。

 元国王の喋って自我を持つゴーレムが異常に性能が良すぎるだけだ。

 私の感じる雰囲気では……市販品は4歳児? もっと下かも知れないが、それくらいの知能に素直に言う事を聞くがプラスされた感じだ。


 リアルな4歳児は……例えばヴィーゼなんかはその年齢の時には思いっ切りのイヤイヤ期だった気がする。

 なにを頼んでもイヤ! 

 自分でやり始めた事でも私が触るともうイヤ! 

 お腹が減っている筈なのに口許にご飯を持っていっても……プイ!

 ……その分だけ市販品でもゴーレムは優秀なのだけど。


 アマルティアのゴーレムは8歳くらいで自我の片鱗を見せる……もちろんイヤイヤもない様だ。

 様だ……とは、その指示はアマルティアのが基本だからだ、私達の他の者が指示を出しても、どうだろうか? と、疑問が残る。


 エルのミスリルゴーレムは、その点では優秀だ。

 私達の言う事も理解するし聞いてくれる。

 知能も8歳程とアマルティアのゴーレム兵とあまり変わらないとも思う。

 だけど、喋れないし……それに、器用さも無い。

 縦を撃つ事は不可能だ。


 元国王のゴーレム達は完全に自我を持って独立して動いている様だった。

 年齢的にも相当に高い雰囲気。

 器用に武器も使いこなせて、その上にもちろん喋る。

 そして自我や知能が高すぎるのか文句や反抗もするようだ。

 私も少し話してみたけれども……もしかして年上? と、感じる事も有る程だ。

 実際に造られてから100年近いラシイので、年式というか年齢は上なのは確実なのだけれど……その個体の持つ精神年齢的なヤツの事だ。

 

 成る程、その4種を見てみてもゴーレム造りが奥深いのはわかる。

 アマルティアが難しいと溢して居たのも納得だ。

 ゴーレムはその特性上、決して成長はしない……筈。

 ……どうも、元国王のゴーレム達はそれも有りな様な雰囲気だけど。

 本来はそれは無しだ。

 となれば、造る最初が肝心と成る。

 そこで、適当に妥協しても性能は上がらなければ使い道も限られる。

 簡単な仕事をさせるだけなら、それは安い市販品を買えばそれで済むのだからだ。


 その市販品のゴーレム君。

 元国王の横に行って、扉を掴み……強引に引き剥がした。

 ベキベキと音を立てて外れた扉をぽいと捨てる。

 ……丁寧に開くという事は出来なかったようだ。

 完全な力業。


 驚いて肩を竦めた元国王は、それでも笑って簡易装甲車両のバスの中に入っていった。

 

 「ヴィーゼ……」

 バルタは呼んで、ハンド無線機を手渡す。

 KENWOODと書かれた省電力無線機……もちろんダンジョン産のそれ。


 「なに?」

 自分も同じ物を持っていると、二つを見比べて首を捻ったヴィーゼ。


 「ああああ! 鍵がない!」

 その時に元国王の叫びが聞こえた。

 

 そうでしょうとも。

 鍵が無いから無理矢理にこじ開けたのだし。

 鍵が無ければ普通にエンジンも掛けられないでしょう事はわかりきっていた。


 バルタはヴィーゼに、顎を癪って肩を竦めて見せた。


 「えええ……面倒臭いよ」

 

 「わかるけど、早く終わらせたいでしょう?」

 一応の説得だ。

 元国王が諦めて出てくるなら、そこで無線機を手渡してやれば良い。

 でも、それを届ければその分だけ早く終わる。


 「もう……しょうがないな」

 ブツブツと文句を垂れながらも、戦車から降りてバスに向かったヴィーゼだった。

 

 「ローザかお婆さんに連絡を取る様に言うのよ」

 その背中に声を投げ掛ける。

 その二人はドワーフだ……鍵が無くてもどうにか出きる方法くらいは知っているだろう。

 それを無線で聞いて、どうにか出来るかは……元国王しだいだけども。

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