079 作戦行動
狭いルノーft軽戦車の中に三人が乗って居た。
本来は二人乗りである戦車……操縦士と砲手だけの所に元国王が割り込んだのだ。
まあ……その二人の乗組員がバルタとヴィーゼの小さい女の子なのだけど、それでも無理矢理だ。
なので、バルタは年上を傘に着て、ヴィーゼと役割を交代した。
たとえ、お爺さんでも男の人とクッツクのは嫌だ。
それは、ヴィーゼも同じだったらしくとても嫌な顔をしていた。
だから、今度おわびにお菓子を買ってやる約束を持ち掛けて……王都で一番のケーキ屋で、やっとこさに話が着いたのだ。
「はぁ……面倒臭い」
ぼやくバルタだった。
「そう言いなさんな……数分の事じゃろう?」
溜め息を吐く元国王。
「ヴィーゼを見よ、なにも言わんと大人しくしておるぞ……この作戦の重要さが良く理解出来ているのじゃろうの」
フンと鼻息を鳴らして、そのヴィーゼを見た元国王。
そして、言われたので振り返ってみて見たバルタ。
鼻を摘まんだヴィーゼが見えた。
その向こうには絶句している元国王もだ。
暫くの間を空けて……元国王がヴィーゼに尋ねた。
「その指はなんじゃ?」
「だって……狭い中に居ると、口が臭いんだもん」
鼻を摘まんでいるから、そのまんま鼻声だ。
「ワシのがか?」
「それに……体臭がゾンビの臭いもするし」
「ワシはまだ生きとる……」
少し悲しい顔をした元国王。
「それは……加齢臭って言うヤツじゃ」
ブツクサと漏らす様に。
と、戦車が停まった。
「どうした? なぜに停まる?」
バルタに声を掛けた元国王。
「まさか臭すぎて、操縦できんとか言わんよな?」
「それも有るけど……」
肩を竦めたバルタ。
「これはどっちに進めばいいの?」
道が五差路に別れていたのだ。
しかも、さっきの建物の裏と為ると、道は二本有る。
鋭角に曲がった細い道と、少しの角度が着いたその向こうの道。
どちらを進んでも、その裏に成りそうだ。
元国王は前に居たヴィーゼの頭を押さえて、砲の照準器を覗きながらに左右に動かす。
「普通に考えれば……手前の道か?」
「でも、道幅が狭いよ」
路地の様でも有る。
そんな先に警察署なんて有るのだろうか?
「ふむ……聞いて見るか」
元国王は無線に手を伸ばした。
「マリーよ……どっちじゃ?」
「なに? 今、忙しいんだけど……」
マリーの声の後ろからは銃声も聞こえる。
「ん? 大丈夫か?」
「たぶん、大丈夫でしょう?」
マリーよりも先にバルタが答えた。
「さっきから、戦闘音は聞こえているけど銃だけで対処できているみたいだし……それよりも、どっちに行けばいいの?」
先にそれを聞いて欲しいと思う。
「そんなの広い方に決まってるでしょう!」
無線の向こうでマリーがキレていた。
「でも、マリーってこのダンジョンに詳しいんだね」
どうでもいい感想はヴィーゼ。
「ここが私が元居た世界のコピーだからよ!」
そのどうでも良い事にも返事を返すマリー。
「ふーん」
小首を傾げていたヴィーゼ。
「転生は、元の世界のコピーなんじゃ……だから、ここと元の世界は同時に存在している事に成る……わかるか?」
元国王がヴィーゼに説明を始めた。
しかし、ヴィーゼの首の角度は深く為るだけだった。
後ろの話はもう関係無いとアクセルを吹かすバルタ。
進むべき方向さえわかればそれだけで十分。
ガクンと揺れる戦車。
履帯をガリガリと言わせて旋回。
そして、また前進。
少し時間を遡った所の、残った方の子供達。
元国王を戦車に押し込み、進む後ろ姿に手を振っていたアマルティア。
その押し込む際の護衛をしていたのは、アマルティアの2体のゴーレム兵だった。
「敵が降りてくる!」
いち早く声を上げたのはアンナ。
建物の上には魔物が居るのだからと、三姉妹は階段を監視してたのだ。
そして、やはり動いた様だ……切っ掛けは戦車の移動だろうと思う。
「上にもまだ居るよ」
アマルティアは道に出ているゴーレム兵に投げられた石の軌跡を追いかけて、こちらの建物と向かいの建物の屋上には、まだハダカデバゴブリンが居ると判断した。
逃げ込んだ階段の場所は奥に1つ。
三姉妹が押さえては居るが、階段の上から石を投げられるのは辛いと、踏み込めないで居た。
それを見ていたアルマが前に出る
「シルバ! 私達で2階の階段前を押さえましょう」
フルプレートアーマーと土塊ゴーレムなのだから、敵の攻撃は無効だ。
そこに居て近付くモノを凪ぎ払えばそれでいい。
「俺は?」
同じくゴーレムのゼクスが聞いた。
「ゼクスは盾が有るから、人間を守って」
階段の途中からの声。
「なら、私を道路の真ん中まで連れてって」
その話を聞いたエルが、自分のミスリルゴーレムを1体指差して頼んだ。
指したのは8cm,sgrw34迫撃砲を担いでいた。
「これで、屋上を爆撃するから」
「いや、いっそのことこの建物を制圧した方が良くない?」
「このまま全員で階段を登るの」
イナとエノがそれを提案した。
「下から撃つよりも横からの方が楽でしょう?」
「上を気にしなくても良いのだしね」
「バスは?」
マリーが聞いた。
「その時はまた降りれば良くないか?」
イタチ耳のオバサンが笑う。
「上を先に制圧してしまえばもう気にしなくてもいいんだよね? だったら降りる時も下だけを見てれば良いのだし」
「そうね……わかったわそうしましょう」
マリーも頷いた。
「皆もそれで良いわね?」
そして、全員の同意を求めた。
頷いた全員。
「決まりね」
エルはすぐに三姉妹に号令を出す。
「2階を制圧して!」
「階段は取った!」
上から声はシルバのようだ。
それを合図に掛け上がる三姉妹。
すぐに銃声が響く。
「下からも来そうよ」
順番的にはお尻を受け持つのだろうと、ゴーレムを道路の真ん中で周囲を警戒させていたアルマが叫んだ。
「他の建物や……道路の奥からゾロゾロ出てきた」
「建物1つから、どれぐらい出てきた?」
これはイナ。
これから階段を登ろうとしていたタヌキ耳姉妹。
「20か……30!」
「そんなにか……」
「それだと、上に残った分も合わせると、建物1つで50近くだね」
二人は苦笑いを残して駆け昇った。
そして、アマルティアも苦笑い。
20か30は建物1つ……その道路の両側に連なる建物。
つまりは掛け算という事か……。
いや、離れた所の建物からは出て来ない様だ。
湧いて出てくるのは、近場の幾つかの建物だけだ。
それでも十分に数が多いのだけど……と、苦笑い。
「急いで!」
私のゴーレム2体とゼクスでシンガリを務め無ければいけない、出来るなら狭い階段で纏めたい。
ゴーレム2体にmp40を撃たせながらに、ジリジリと後退していく。
アマルティア本人は階段の下に先に移動した。
「早く昇って!」
遅れて居たクリスマスを急かす。
大きな魔物のギュウ太やスピノサウルス兄弟が居るからと気を使ったのだろう。
最後まで待っていた。
バリンとガラスの割れる音。
別のショーウインドウが割られた音だ。
それは、つまりは……この建物に侵入したって事。
アマルティアは慌ててゴーレム兵達を呼び戻した。
カンと音が真横で鳴った。
「来たぞ」
ゼクスが横で盾を構えている、その足元には転がる棍棒。
それを投げたらしい。
アマルティアはそのゼクスの頭越しにmp40を構えて引き金を引いた。
大体のその辺り。
銃の特性上か自分の力の無さで抑えが効かないのか……狙ってもマトモに当たらないので適当にばら蒔いた方がいいからだ。
そんな時に無線機からマリーの叫びが聞こえる。
なんか……キレているみたいだ。
まだ、戦闘は始まったばかりで、これからなのに……と、逆に冷静に成れたアマルティアだった。




