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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
79/233

078 最初の一匹


 建物の中から覗いて居た魔物はハダカデバゴブリンだった。

 決して強い魔物では無い……どちらかと言えば最弱の部類だ。

 だからか、最初の発砲で簡単に仕留められた。

 倒れて居たのはビルの壁に沿ったショーウインドウの中だ。

 

 そのハダカデバゴブリン……身長は1.5mほどで、真っ裸で全身の体毛が斑に禿げたシワシワのお爺さんの様でも有る成りと……少し出っ歯の二本の前歯が特徴的だ。

 手には武器だろう小さい棍棒で……マリーのスリコギ棒よりは、少しマシな程度の代物。

 ゴーレムが撃ったmp40の9mmパラベラム弾でも簡単に倒せる程に弱い魔物だ。

 

 「これがここの魔物?」

 三姉妹が退屈を隠さずにボヤク。

 「これじゃあ……面白くないよ」

 「楽勝過ぎ」


 しかし、首を傾げているのはマリー。

 「まあ……ここには色んな魔物が複数いるからね」

 もう一度、首を傾げて。

 「でも、こんなに弱い魔物がどうして生き残れるんだろう?」

 最後に首を振って、わからないと……そんな顔をした。


 「そういえば、コイツらって……群れるのよね」

 「以前に大群に襲われたね……そう言えば」

 イナとエノが、辺りをキョロキョロと警戒する仕草。

 いくら弱くても大群に囲まれれば、それは厄介だ。


 「所詮はハダカデバゴブリンよ」

 笑うエレン。

 「群れたって知れてるって」

 アンナも笑う。

 「あて……」

 ネーヴも続けて笑おうとしたのだろうが……邪魔された。

 ヘルメットがカーンと音を立てたのだ。

 そして……足元に転がる石。

 「上から降ってきた?」

 上を見上げたネーヴ。

 「あ! 居た!」

 建物の屋上を指差した。

 指した先には複数のハダカデバゴブリンが見えた。

 手には石をもって、投げ落とそうとしている。

 建物の高さは7階か8階……100mは無い感じだ。

 それでも、その高さからの投石は当たれば痛い。

 投げてくる石の大きさが小さいのがまだ救いだが……それは、その高さにまで運ぶ事を考えてなのだろう。

 小さな石を沢山か?

 

 と、次々と石が落ちてきた。

 下に居た皆は右往左往だ。

 

 「バルタ! 上! 上!」

 ヘルメットを両手で押さえたエルが叫ぶ。

 

 「無理! これ以上は上に向かない!」

 バルタは情けない声で答えた。

 ルノーftの戦車砲の上向きの限界では真上は撃てない。


 「とにかく中へ!」

 いち早く、さっきの割れたショーウインドウの中に逃れたマリー。


 ルノーftの二人を残して、皆も飛び込んだ。

 

 戦車に当たる石がカンカンと、断続的に音を立てた。

 アマルティアはゴーレムを建物の外に出して上を覗くと、ハダカデバゴブリンはすぐに身を隠す。

 ゴーレムの持つmp40の怖さがわかっている素振りだ。

 「下から撃ったって建物の影で体の半分以上が隠れて当たりもしないのに……それでもまだ隠れるか」

 独りごちる。

 

 「なかなかに鬱陶しいヤツラじゃのう」

 苦々しい顔の元国王。


 「でも、ソレなりの知能は有りそうね」

 マリーも合わせて苦い顔。


 「いったん……戻る?」

 イタチ耳のオバサンは肩を竦めた。

 

 「逃げ出すの?」

 マリーはそれを吐き捨てる。

 「あんなヤツラに、負けたみたいで嫌よ」


 「じゃあ……どうすんの?」

 少し呆れた顔を見せたオバサン。


 「そうね……」

 考え出したマリー。

 「どうせ石を上から投げるだけでしょう? なら、上をガードすれば良いのよ」

 

 「たとえば?」


 「この裏に警察署が有るわ、そこに金網で囲った様なバスが何時も停まってた……それを持ってくるってのはどう?」


 「そこまではどう行くのよ」


 「どうせ動かせるのは一人なんだから……戦車で行けば良いだけよ」

 元国王を指差して。

 「ここまでもって来れれば、あとは全員で乗り込めばいいの」


 「なるほど、イチイチ建物を登って相手をするよりかはいいのか」


 「そんなの、弾の無駄よ……だいいち面倒臭いじゃない、数も多いし」

 フンと鼻を鳴らして。

 「目の前に出てきたバカだけをやっつければいいのよ」


 「わかった……それでいきましょうか」

 頷いたオバサン。

 

 「うむ……でも、その前に」

 元国王は足元のハダカデバゴブリンを見下ろして。

 「せっかくなのじゃから、戦力の補強じゃな」

 ゾンビ化の魔方陣を発動した。

 

 光る魔方陣。

 ピクリと動くハダカデバゴブリン。

 

 だが、突然に叫び出した元国王。

 「まずい!」

 慌てた元国王は側に居たゼクスの片手剣を奪ってハダカデバゴブリンを斬り付けた。

 切り口から湯気の様な煙を吹いてそれが全身を覆い……最後には消えて無くなるハダカデバゴブリン。

 滅せられた様だ。


 「どうしたの?」

 マリーが心配気に見る。

 

 元国王は脂汗をかきながらに、荒い息を整える。

 「今……一瞬、繋がった」


 「繋がる?」


 「ああ、まるでエルフを奴隷化した時みたいじゃった」


 「エルフと同じ能力を持っているってこと?」

 首を傾げるマリー。


 「そうか……だからか」

 アマルティアがそれを聞いて頷いた。


 皆がアマルティアを見た。

 「なにか心当たりが有るの?」

 オバサンが代表してか尋ねた。


 「うん、一匹目のあとすぐに大量に現れたでしょう? それも躊躇もせずに、戦意を剥き出しで石を投げてきた……それと、こちらの武器、ゴーレム兵の使ったmp40を明らかに怖がっている」

 

 「コイツが死んで、その情報が伝達したと?」


 「そう、それもわざと殺された」

 元国王の足元のハダカデバゴブリンを睨んだアマルティア。

 「簡単に倒せ過ぎたもの」


 「それは、コイツらが弱いからでしょう?」

 

 「それでも……不必要に、不用意に体を晒した」

 顔をしかめて。

 「自分を犠牲にして……私たちの戦力とその戦い方を確かめてそれを仲間に伝える為にだと思う」

 

 「敵を知る為にわざと死んだと?」


 頷いたアマルティア。

 「繋がるのがエルフと同じなら……そこに個人は無いのでしょう?」

 

 皆は黙り込み……ハダカデバゴブリンの死体を見詰めていた。

 

 「でも……エルフはわざと死んだりはしないわよ」

 マリーの疑問。

 

 「それは恐怖を知っているからじゃ」

 元国王がマリーに答える様に。

 「しかし、コイツらは魔物じゃ……死の恐怖は無いのか、薄いのかも知れない」


 「確かに……その恐怖が強いなら、ここまで好戦的には為らないか」

 オバサンも認めた。

 

 「そう言えば……転生者も死に対して無頓着に為るものね、相手に対しても、自分に対しても」

 フームと唸るマリー。

 「転生した時に欠落する感情? だったかしら」


 「転生者が持つ最大のチート能力じゃな……どんな生き物も躊躇する事なくに殺せる」

 

 それは元国王もマリーにも当てはまる事だった。

 二人はその転生者だからだ。

 自分の事だから実感もすぐに沸くのだろう。

 納得も早かった。


 「魔物も転生者も同じって事か」

 オバサンは呟いた。


 「どちらも魔素に引かれてか、こちらに体をコピーするのじゃから……理屈は同じじゃ」

 頷いた元国王。

 「人が転生して転生者……人以外が転生すれば漏れ無く魔物じゃ」


 「まあ……転生者も魔物と言う人も居るみたいだし」

 頷いたオバサン。

 「同じなのか」

 

 「それでも、弱い魔物なのは間違いないと思う」

 チラリと外を見やるアマルティア。

 「だから、離れた位置からの石を投げるって選択にしたと思うの」

 また、ハダカデバゴブリンに視線を移して。

 そして、その手の棍棒を軽く蹴飛ばした。

 「最初のコイツは棍棒なのにね」

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