075 喋れるのか!
擬人のカエルはマリーのAPトライクで、広いガレージをスイスイと走っている。
「力は無いですけど、小回りは利きますね」
フムフムと試乗中。
そして、そのトライクの後席にはイナとエノが乗って居た。
車体の幅が狭いから、二人で乗るとピッタリとくっついている。
「荷物も載せられないし……前と後ろで一人づつがベストかな?」
改めて見てみたペトラの感想だった。
「そうですね……後ろに小さなカーゴでも引っ張りますか」
カエルがペトラに返答を返す。
あ! また口に出していたと……口をすぼめたペトラ。
「でもさあ……カエル君は、それが運転できるって事は元国王の眷族なんだ」
ヴィーゼがなるほどな? な問いをした。
「そうですね……私は一緒に冒険や旅はした事は有りませんが、父や母はその昔はお供をしたそうです」
頷いて。
「そんな事も有りまして、私が事故で死んだ時にはアンデッドにしていただきました」
「ああ……ゾンビだったんだ」
成る程と頷いたヴィーゼ。
「だから喋れるのか!」
はははと笑うカエル。
そして、ペトラは思う。
ゾンビに成れば喋れる様に成るのか?
いや、それは違う様な気もするが……どうなんだろう。
わけがわからないと考えていると、全く別の事で閃いた。
ペトラはマリーの所にいって。
「ねえ……有れもゴーレムよね? 意思も有るのよね?」
APトライクを指差して。
「勝手に動いたりもするんだし」
何がとペトラを見たマリー。
考え込み過ぎて頭が沸騰しそうに成っている様だ。
見た目茹でタコの様な顔色。
「あれの魂ってのは……抜き取れないの? その水晶で」
ガバッと掴み掛かるマリー。
目玉は丸く驚いていた。
「それだ!」
「実験ですか?」
カエル君が呼ばれて、マリーの元へとトライクを移動させる。
「ほら、さっさと退いて」
そのカエル君と後ろに居たタヌキ耳姉妹を追い出したマリーは件の水晶を取り出した。
「早くしないとあんた達の魂も吸い込んじゃうわよ」
慌てて降りた三人。
「さて……どうなる?」
マリーが水晶を掲げてトライクに触れさせた。
途端にトライクは地面に浮かんだ魔方陣の光に一瞬、包まれて……終わった。
トライクには、なんの変化もない。
首を傾げたペトラ。
「もう終わり?」
マリーは返事も返さずに、その水晶を睨む。
そして、マリーも首を傾げた。
そのままの姿勢でジュリアお婆さんに水晶を見せる。
お婆さんも首を傾げた。
二人供に結果がわからない様だ。
唸った二人は。
「取り合えずこれでやって見ましょう」
「そうね……やれば結果もわかるわね」
ブツブツと言い合いながらに、水晶をアマルティアに差し出した。
受け取ったアマルティアも首を傾げた。
水晶がどうのではなくて……どうすればいいのかがわからないとそんなふう。
「あとこれも……」
お婆さんはそのアマルティアに追加で渡したのは銀色の短い筒と銀色の石ころの様な粒をバラバラと。
「えーっと……これは何ですか?」
「ああ……ミスリル銀の筒とミスリルのペレットよ、筒は……まあ胃袋の様なモノになるのよ、ペレットはその補助」
マリーはモノの説明。
「とにかく、その筒にコレを描いて見て」
お婆さんは紙を差し出した。
良くわからいと唸りながらも言われた通りにするアマルティア。
筒の外周に魔方陣を描き始めた。
それを見て、お婆さんも少し複雑な形の機械? の様なモノに魔方陣を描き始めた。
「それはやらせないの?」
マリーが尋ねると、お婆さんは首を振る。
「コレは流石に無理ね」
出来上がったモノが二つと、それにそのままのペレット。
それらを体育座りのゴーレムの胸のと足の間に置いて。
「もう一度、さっきの魔方陣を発動させて」
「一から造り直すんですか?」
アマルティアの問いに頷いたお婆さん。
「形は出来上がっているから省略しても良いけど……それだとややこしいから、さっきのままでやってみて」
頷いたアマルティアが魔方陣を発動させた。
「手描きだと魔方陣そのモノが残るから、こう言う時は便利ね」
お婆さんが面倒臭いと言ったのは、描き直す必要が有るからのようだ。
マリーと二人でそんな話をして、ゴーレムの結果を待っていた。
そして、出来上がったゴーレム。
先程と寸分の違いが見当たらない。
動かないし、体育座りのままだ。
「失敗?」
ペトラは思わず聞いた。
「まだよ……さあ、アマルティア」
マリーはゴーレムを指差して。
「起動させてみて」
頷いたアマルティア。
人差し指をゴーレムの額に当てた。
「魔素が吸い出される感覚はわかる?」
「はい……ユックリです」
「まあ……そうね」
頷いたマリー。
「モノは普通の土塊ゴーレムだし……燃費も良い方だから大丈夫よね」
「魔素還元装置にも、幾分かの魔素は充魔素してあるからそれも助けに成っているはずよ」
さっきの機械みたいなのがそうなのか。
ホウホウと頷いたペトラ。
充魔素とは充電の様なものなのだな。
暫く経つと……ゴーレムが動き出した。
ムクリと立ち上がり、辺りをキョロキョロ。
そして……自分のお腹を擦る様な仕草。
「喋れないのね……」
それはそうだとペトラは、自分の言葉に笑った。
ゴーレムが喋れるのは、特別な事だ。
「いえ……喋れますよ」
そのゴーレムが答えた。
「うそ!」
ペトラは驚いた。
そして、それはペトラだけでは無かった。
マリーもお婆さんも驚いている。
もちろん他の子供達もだ。
「お腹が減っています……補給を希望します」
ゴーレムはそんな皆を気にする事もなくに自分の要望を伝える。
「このまま充魔素を続けるか……魔素還元装置にナニかを入れてください」
アマルティアはお婆さんを見た。
ゴーレムの言っている充魔素の方法……ナニか入れるがわからない。
とても困った顔だ。
「マリー、ナニか魔石を待ってませんか?」
お婆さんが横のマリーに聞いた。
「まさか、ここまで上手くいくとは思ってなかったので……魔石までは用意していないのです、取り急ぎで良いのですがどうですか?」
マリーは頷いて、黄色い小さな錬金術士の鞄をゴソゴソと探った。
「火の魔石ではどう?」
取り出したそれをゴーレムに差し出す。
受け取ったゴーレムは口? それらしい場所が丸く開いてソコにねじ込んで……飲み込んだ。
「どう? 足りた?」
アマルティアが確認する。
「そうですね……満腹というわけでも無いですが、暫くは大丈夫そうです」
そう言って、また腹をさすった。
今度は満足気にだった。
「今のは結構、純度の高いヤツよ……値も貼るのだから、満足出来ないとわ言わさないわよ」
「そうか……魔石だとコストがかさむのか」
マリーのそれに凹むアマルティア。
自身の魔素の消費は少なくても済むのだが、代替えの魔石を用意しなくていけないのだ……詰まりは買って食べさせる、だ。
「飛空石とかわ? あれなら安いし……魔石だよね」
ペトラは提案した。
子供の玩具に成るくらいに何処にでも有る。
「なんなら、デッカイ飛空島の下に行けばゴロゴロ転がっているし」
「そうね……」
アマルティアは頷いたが……ゴーレムは嫌な顔をした。
そんな安物が美味しいわけがないとでも言いたげだ。
「まあそれは後々、考える事にして少し休憩をしましょう」
お婆さんはそう言って歩き出した。
「そうね……2体目を造るにしたって、今のアマルティアには無理でしょうし。続きは休憩して魔素を戻してからね」
マリーもお婆さんに着いて歩く。
皆もそれにしたがった。
そして、歩きながらにポツリ。
「あのトライクはどうなるのかな?」
チラリと振る向いて。
「もう、魂というかゴーレム化というか……それは解けたんでしょう? 魂を抜いたのだから」
「あら……そうね」
エレンが同意した。
「時間凍結も解けたままみたいだし……もしかして普通に動かせるのかしら」
フムフムと頷いた。
「後で試してみたいね」
イナも頷いていた。




