074 能力向上のお勉強
手描きで描いた魔方陣はアマルティアの意図道理に機能した。
中心に体育座りのゴーレムが現れる。
だが……それだけ。
ゴーレムは動く気配を見せなかった。
そのゴーレムを繁々と吟味したジュリアお婆さん。
「見た目は大体問題無いね……ごく一般的なドワーフの形に成っている」
フムと満足気。
「ただ、サイズが少し小さいか……」
動かない事には言及しないのは、それは初めから折り込み済み?
その大きさも、試して見せる為に造られたお婆さんのゴーレムと比較すればわかるか? と、そのレベルだ。
お婆さんの方が一般的なSサイズのゴーレムだとすると、身長は規格ピッタリの1mのはず。
それよりも少し小さいアマルティアの造ったゴーレムは90cmか95cmってところかな?
人の身長だと、3才児か4才児って感じね。
遠目で見ていたペトラには、そんなの誤差じゃないの? としか思えない。
それに、なにか意味が有るのだろうか?
まあ、売り買いするなら規格は大事だろうけど、使うのはアマルティアの個人だから……問題無いと思う。
「まあ良く勉強しているね」
頷いたお婆さん。
アマルティアも誉められて嬉しそうだ。
そして、お婆さんはマリーに向き直り。
「ここまで出来ているなら……何が問題なの?」
そう聞いた。
「使用目的がゴーレム兵なのよ」
マリーが説明を始めた。
「それと、動かす為の魔素量の問題も」
アマルティアを指して。
「フム……知能か」
ジュリアは顎に手を当てた。
「魔素の方はナンとか出来るけど……」
ふーむ……と、唸る。
「出来るの?」
アマルティアが食い付いた。
マリーも食い気味に。
「魔素還元装置? 完成したの?」
「もう随分と前に完成してるわよ……そんなのは」
「え! 知らなかった!」
口を尖らせたマリー。
「それなら、教えてくれてもいいじゃないの!」
「だって、マリーは殆どここに寄り付かないじゃない……以前に来たのはいつ? もう十年以上も前でしょう?」
肩を竦めたジュリア。
「それに聞かれないし」
苦い顔になるマリー。
「確かにそうだけど……」
「あのう……その魔素還元装置とは?」
アマルティアが聞いた。
帰って来ないのどうのこうのは自分には関係が無いと思ってだ。
それよりも目の前のゴーレムが大事。
「簡単に言えば、ドワーフが使う魔高炉の小型化が成功したって感じね」
ジュリアもマリーとの口論はしたくないとアマルティアに答える。
「本来そこらじゅうにある魔素をエネルギーに変えるモノだけど、どうしても大きいのよ。で小型化を模索してたのだけど」
「それが出来るの?」
驚いたのはローザ。
「あんな大きな物をどうやって?」
「まあ、詳しく知りたいなら後で教えるわ」
ローザが同じドワーフなので、興味もあるだろうとニコリ。
「理屈がわかっても、簡単には造れないだろうけど……それは関係無いだろうしね」
「造れる造れない依りも、理屈を知っている事の方が大事」
ローザはそう言いきった。
それを聞いたジュリアは満足気に頷いた。
「それと、さっきの話で知能って言ってたけど……ゼクスってゴーレムは知能を持っていたよね?」
ローザはなにかを思い付いた様だった。
「あれを普通のゴーレムには組み込めないの?」
「ゼクスはネクロマンサーが造った魂が入れられているの……それはつまりはネクロマンサーの支配下からは逃れられないってこと」
マリーが答える。
それを聞いて、また考え出したローザ。
「さっきのネクロマンサーが居なくても魂が弄れる水晶……あれは? それで抜き取った魂もネクロマンサーの支配下? でも、それだとネクロマンサーが死んでしまうと……さっきの水晶も使えないって事よね」
ぶつぶつと唸る様に。
しかし、そのブツブツを聞いてマリーの顔色が変わった。
「確かにそうね……私の造る疑似魂を魂捕縛疑似結晶に取り込んで……いや駄目ね……なら、ネクロマンサーが造る魂を1度取り込んで……」
二人してブツブツ。
もう流石に理解の上限を越えてしまったペトラは、見ていてもツマラナイと他の子供達の所へと移動した。
サッパリわからない。
と、今度はクリスティナがイタチのオバサンになにかを教えて貰っているらしい。
紙を睨み、自分の右手の平を睨むクリスティナ。
「こっちはなに?」
ムーズの横に立ち尋ねた。
「クリスティナが動物を使って演芸ショーをやった時の話をしたら。エルフだし才能が有ると成って……その遣り方を教わってる所」
ムーズはクリスティナを見たままで答えた。
「あれって、エルフだからだったのか」
まあ、たぶんそうだろうとは思っていたけど。
「良く言うこと聞くもんね」
「エルフは魔物……特に土竜なんかの使役は有名らしいから、それと同じ方法だってさ」
「元炭鉱の町でも言ってたね」
穴を掘って、地下で暮らしたがるエルフのその穴を掘るのが土竜だ。
「人が使う奴隷印の元に成った魔方陣なんだって」
「うえ……奴隷印なのか」
あまり良い印象のモノでもないと、顔をしかめた。
「人に対して使わなければ……問題も無いでしょうけど」
ムーズも声のトーンは心配げだ。
「そんなの使う方の人の問題だよ」
エレンが横から入ってきて。
自分の背負う銃を指す。
「これも、使い方は人に向ける為のモノだけど……それは自分や仲間の身を守る為にも使えるからね」
「でも……」
ムーズは苦い顔を止められない。
「クリスティナはエルフだし……人間に混じって生きていくなら、それなりの武器も必要だと思うよ」
アンナも寄ってきた。
「人の世界では、獣人にもエルフにも厳しいもんね」
ネーヴもだった。
「同じ1つの国に成っても……そう簡単には差別も無くならないか」
ペトラは口許を歪めながらも、それでも頷いた。
迫害をはね除けるだけの力も必要悪か……。
世界がそうなのだから、仕方無いと諦めるしかない様だ。
そして、ここも見ていて面白くは成りそうに無いと辺りを探るペトラ。
少し離れた場所にヴィーゼとバルタが居た。
マリーのAPトライクを見ている様だ。
だが、その運転席にはカエルが乗って居た。
「カエルの擬人?」
ペトラは初めてそれを見た。
擬人とは、獣人の亜人と魔物の中間とされる生き物で、人語は喋れないが友好的なモノを指す。
有名な所ではウサギとかも居た。
もちろんウサギの擬人もペトラは見た事がない。
知識として知っているだけだ。
それが、すぐそこに居た。
興味を持たないはずがないとそちらに歩く。
他人の能力向上を見ているだけよりも絶対に面白いはずだ。
「これはナカナカに面白いモノをマリー様は見付けた様ですね」
「擬人が喋った!」
ペトラは指を指して驚いた。
「うん、喋れるみたいだよ」
ヴィーゼがそれに答える。
「なんで?」
喋れないって聞いてたのに!
「そう言う種類じゃないの?」
ヴィーゼは適当に。
「喋れたらもう擬人じゃないじゃん! 人っぽいけどコミュニケーションに難が有るから擬人でしょう? 普通に喋れたら亜人じゃん」
「でもさ……見た目はカエルだよ」
指差して。
「チョッと大きいけど……顔も肌も柄もカエル」
確かにそうだ。
カエルが二本足で立っている……いまはAPトライクのシートに座ってるけど。
しかも、ハッピを着ている。
フンドシもだ。
そして、頭にはネジリハチマキ……くるくると巻いた手拭いを輪っかにして、頭の上に乗っけているだけだけど。
でも、その姿は人間ぽい……。
「えええ? 私が間違ってるの?」
擬人の事を教えてくれたのは誰だったっけ。
誰だかは忘れたけど……だまされた?
ハハハと笑うペトラだったが……しかし、常識の範疇を越えていたのはカエルの擬人のほうだった。
普通の擬人は喋らない。




