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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
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069 ペトラの相談事


 さて、町? 駅? を出た一行。

 先頭はマリーのオート三輪のAPトライクで次に元国王の運転するピックアップトラック。

 何時もならルノーft戦車が前に出るのだが……ペトラがイヤだと駄々を捏ねたのだ。

 大体が行き先もわからないので知っている人が前に出るのは……それが普通だと思う。と、それが言い分だ。

 ほんとのところは前に誰かが居ないと単に不安に成るからだろう事は、皆にはバレていたが……まあいいか、面倒臭いし。と、黙って皆で頷いておいたのだ。


 それに、駅には結構な数の馬車が居た。

 それらが、多少バラけても同じ方向へと行くものもそれなり以上に居た。

 暫くは、もうほとんどキャラバン状態なので、それほど危険でも無さそうなのも有る。

 まあ、大概の魔物は危険でも何でも無いのだし。

 怖いのは魔物では無くて人間だ。

 盗賊なんかが戦車を持ち出して来られればそれは危険だが、そうそう出会うモノでも無いだろう。

 回りの馬車達もそこまで武装をしている風でもない。

 この辺りはやはり、比較的に安全だと思われる。

 警察隊のお陰なのかもしれない。

 王都に近いと言うのも有るのだろうし……よい仕事をしているのだろう。

 私達の田舎とは大違いだ。


 そんな事を考えながらにボーッとしていたバルタ。

 見える景色にも飽きていた。

 道の前後は馬車だけだし……左右は短い草が半分に剥き出しの土が半分、たまに林か森の木々が見えるだけ。

 そして、上は……重そうな灰色の分厚い雲。

 もっと何かをと探しても、遠くに見える山が有るだけだった。


 それでも犬耳三姉妹は楽しそうにしていた。

 バイクで前に行ったり後ろに行ったり……元来、人懐っこい性格なのでアチコチデ楽しそうに話をしている。

 あの三人は何処に行っても、誰とでも直ぐに仲良くして貰える……少し羨ましいスキル? を持っていた。

 さっき、チラリと見掛けた時にはネーヴはパンを咥えて居たので誰かにもらったのだろう。

 それは……べつに羨ましくは無い。

 パンが羨ましいのでは無くて、パンを貰える性格が羨ましいのだ。

 何時もの事だけど。

 

 そして、もう一つ気に成っている事がある。

 さっきから操縦室のペトラがチラチラと後ろを気にしている。

 戦車の後ろでは無くて、私を見ている。

 ため息を一つ吐いて……声をかけた。

 「もう、疲れたの?」


 「え?」

 驚いた声を出すペトラ。

 

 「まだ、そんなに時間も経っていないと思うけど……シンドイなら代わろうか?」

 

 「ウーン……そうじゃ無くて」

 モジモジと歯切れが悪い。


 「じゃあ、なに?」


 「うん……相談があって」


 方眉が動いた。

 私に相談?

 

 「実は……」

 ペトラは半身を捻り、後ろに手を差し出してきた。

 手には紙のカード?


 それを受け取ったバルタは表と裏とを繁々と見る。

 表には名前が書いてあった……知らない名前だ。

 裏には簡単な地図と連絡先? それが手書きで書いてある。


 「イベンターのオジサンに名刺を貰ったのだけど……一緒に仕事をしないか? って」


 「何それ」

 自称プロモーターのエセ紳士か?


 「君ならアイドルに成れるって言われて」

 モジモジと満更でも無さそうな風のペトラ。

 

 「仕事ってなら、給料も出るのでしょう?」

 アイドルと言う仕事が何かはわからないけど……そう言えばヴィーゼが成りたいって言ってた様な?

 「でも、どんな仕事?」

 

 「舞台で人前に立つ? そんな感じだって言ってた」

 小首を傾げて。

 「列車でやってた公演の……あんな感じ?」

 本人もわかっていない様だ。


 「いやらしい事では無いなら、ペトラが決めればいいんじゃないの?」

 娼婦まがいの仕事なら止めるけど。

 そうで無いなら……本人次第だ。


 「うん……興味は有るんだけど」

 また、歯切れが悪い。


 「何か問題でも?」


 「私だけじゃ無くて、ムーズとヴィーゼとクリスティナも一緒で……4人ならアイドルグループとして絶対に売れるって」


 眉が寄って目が細まるバルタ。

 「他の三人は? 何て言ってるの?」


 「うん……ムーズには断られたらしいんだけど」

 首を振って。

 「ヴィーゼとクリスティナは……よくわかって無いようだから、その説明ともう一度ムーズの説得も頼むって……」


 「ペトラ独りではダメなの?」


 「私一人だと押しが弱いって言われた……それに、不安だし緊張もするし」

 ボソボソとモソモソと。

 

 「あんた……ダシに利用されただけじゃないの?」

 本当に欲しいのは、後の三人?


 「そんな事はない! と、思う」

 ガタンと戦車が揺れた。


 「ちゃんと前見て運転して、それでも話くらいは出来るでしょう?」

 先に一言注意して、続ける。

 「どっちにしてもヴィーゼは駄目よまだ子供だもの……あと、クリスティナも」


 「やっぱり?」

 本人もそうなるだろうと理解はしていた様だ。

 別段、慌てる素振りもない。


 「ムーズはもう自分で決められるだろうけど……元貴族様よ、そんな仕事はやらないと思うけど?」

 

 「そうよね……」

 ムーズに関しては、ガッカリを見せた。

 「諦めるしかないか……」


 「どうしてやりたいなら、ドラゴンに相談してみれば? あんたの親で世界で一番に偉いんだから……どうとでもしてくれるでしょう?」


 「ドラゴンさん……か」

 ハーッと息を吐き出した。


 さん付け?

 まあ、わからなくも無いけど……血も繋がらない、育てられた覚えもない。

 ただ、前世では親子? そんな関係だ。

 「それでも、向こうは親子だと思っているのだから……利用すれば?」


 うーん……と、唸って話を止めてしまったペトラ。

 

 まあ、わからなくもない。

 私もパトには我が儘は言いにくいし……。

 どうしても猫被りしてしまう……そりゃ猫耳だからしょうがないのだろうけど、私の場合は。

 

 と、戦車が止まった。

 ん?

 外を見ると、川の横で皆は集まっていた。

 馬車のキャラバンはそのまま橋を渡っている。

 「どうしたの?」


 「なんか、ここから道を外れるみたい」

 川を指差して。

 「遡るんだって」

 指はそのまま山を指していた。

 

  

 一行は川に沿って進む。

 舗装はされていないが道らしきモノは有ったので、隊列の順番はそのままだ。

 ただ、集団から離れたので……少し危険度は上がった感じか。

 魔物風情に遅れを取る事もないのだろうが。

 それでも、たまにどうしようもないヤツも居るには居る。

 バルタはチョッとだけ耳の先端に力を込めた。

 危ないヤツも先に見付けてしまえばどうとでもなるとそんな感じでだった。

 


 しかし、魔物は出てこない。

 もちろん危険な人もだ。


 山に入り、少しきつめの坂を登り始めた。

 途中、どうしよう無い所はゴーレムに担がせて進む。

 基本、車両が通る様な道でも無かったのでそれは仕方がない。

 それでも、そんな場所は一部だけなので……まあ順調だ。


 そして、夕食。

 山の中腹、川のそば。

 ご飯は魔物が居ないので、ダンジョン産のレトルトとか言うヤツ。

 

 「カレーか……」

 犬耳三姉妹が顔を見合わせて……苦笑い。

 鼻が良すぎるので、この手の匂いのキツい食べ物はどうしても苦手にしていた。


 「簡単でいいでしょう」

 ズイッと皿を差し出すマリー。

 文句は聞かないと押し付けていた。


 「でさ、目的地はまだなの?」

 諦めて口に運ぶエレンが聞いた。

 と、驚いた顔になる。

 「美味しい」


 アンナとネーヴも驚いていた。

 何時もの様に鼻を摘まむ事もしないで、パクパクと食べている。

 「ほんとだ……美味しい」


 「まだ、鼻はダメな様ね」

 マリーはその様子に、そう呟いた。

 そして、質問にも答える。

 「もうすぐだけど……このままだと夜に成りそうだからここで一泊ね」

 

 「て、言う事は……明日には着く感じ?」


 「そうね、ここから三・四時間ってとこかしら……明日の昼前には着いてるわよ」


 それを聞いてバルタは鬱蒼と木々が繁る山を見上げた。

 薄暗く成りかけた山だが、坂はまだまだ登っている。

 こんな所に何が在るのだろうか?

 少し不思議に感じて小首を傾げるのだった。

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