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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
69/233

068 アンマンド・シティ


 終点の駅で降り立った一行。

 駅舎から出ると……横長の看板。

 そこには ”アンマンド・シティ” とだけ書かれていた。

 そして、他には何もない。

 床には広々と石畳が敷き詰められている……ただ広いだけの空間。

 

 「広場? だけ?」

 「建物が一個もないね」

 「噴水も無いよ」

 三姉妹は順番に見たままを口にした。


 それでも人は居た。

 沢山の駅馬車に……荷馬車。

 そして、各々の馬車の御者が呼び込みの叫びを上げていた。

 何処其処行き! とか。

 荷物を請け負うよ! とかだ。

 

 「アンマンドだから……無人って事?」

 アマルティアがペトラに訪ねていた。


 「物流拠点の様だね」

 ペトラも今一わかってなさそうだ。


 「一応は人は住んで居るよ」

 ローザが教えてくれる。

 背中にした駅舎を指して。

 「駅の中に宿屋と食堂と物流協会の支店とかだね……常駐の駅員は一人と整備士が1人に、それ以外は3人だけ」


 「宿屋が駐在所も兼ねている感じですか?」

 どう見ても他に住めるような場所は見当たらないとアマルティアは首を捻った。


 「そうだよ、宿屋は空いている寝台客車を使ったりもするね」


 「あ! 成る程」

 ペトラは理解出来たようだ。


 その成る程が気になったアマルティアは、ペトラを見詰めて答えを待った。


 「ほら、ここって列車が到着して降りた客が次の目的地まで移動する駅馬車を待ったり……逆は早くここに着いて列車を待つ為に宿を取ったりだから、宿屋は20日に一日か二日程しか忙しくならないじゃん。だから空いている寝台客車を部屋にして効率を上げているんだよ」


 「そうか……その寝台客車も列車が動く時には客の数に合わせて使うから、その方が都合が良いのか」

 フムとアマルティア。

 「確かに、列車が居ない時は人も居ないのだし……無駄に部屋が有っても意味はないと」


 「そゆこと」

 ウンウンとペトラは……ナゼか偉そうだ。


 「でも……前に来た時は、小さいけど町は有ったよね?」

 イナは顎に手を当てて考えている。

 エノもウンウンと頷いた。


 「戦争で治安を気にして駅をズラしたんだよ」

 ローザが線路を指差して。

 「まだ先が続いてるでしょう? あれを伝って歩くと町に着くよ」

 

 「でも、それだと線路が勿体無くない?」

 エルは眉をしかめた。


 「お! 鋭いね」

 ローザがエルに驚いて見せた。

 「一日に二便の、ゴーレムを動力にしたコミュニティトレイン……ちんちんゴーレム列車なんだけど……が、走ってるんだよ」


 「まあ、今でも国の専属列車とかは、その町まで行くんだけどね」


 「そか……あの時の列車も国防警察軍の持ち物とか言ってたっけ」


 「それ……ぶつかんないのかな」

 ヴィーゼがゴーレムに背負われて。


 「ちんちん列車は一両で、その前後をでっかいゴーレムが押したり引いたりだから、普通の列車とすれ違う様な事が有れば、ちんちん列車をゴーレムが持ち上げて脇に退けるんだよ」

 笑うローザ。

 「まあ……そんな事は滅多に無いけどね」


 「その、ちんちんゴーレム列車に乗ってみたい」 

 クリスティナが目を輝かせて食い付いた。


 「今回はダメだね」

 苦笑いのローザ。

 「ほら、戦車とか車とか有るから……置いていけないでしょう?」


 「ええ……残念」

 むくれたクリスティナ。

 「折角のちんちん……」


 「クリスティナがちんちん、ちんちん言ってる」

 指差して笑った。


 ハッとしたクリスティナの顔が赤くなる。


 元国王もそれを見てかニコニコとしていた。

 もう腰も随分と良くなり自力で立って、歩いている。

 寝台車のベッドで足を伸ばして寝れたお陰だろう。

 

 その元国王をチラ見したマリー。

 「見せてやろうかとかは……言わないでよ」


 「言わんわ」

 被せ気味に叫ぶ。


 「こんな所で出さないでよ」

 ローザが人ゴミを指差して。

 「逮捕されるよ」

 指した先には黒い服の警察官らしき者が数名いた。


 「あ……親衛隊?」

 「国防警察軍にも見えるよ」

 「どっち?」

 犬耳三姉妹は眉を寄せた。


 「もうどっちでも無いぞ……今は統合されて国家警察隊じゃ」

 元国王が説明した。


 「そうなんだ……私達の街には居ないから、はじめて見た気がする」

 「制服はどっちかと言えば親衛隊っぽいね」

 タヌキ耳姉妹も興味深げに見ていた。


 と、その警官の一人がこちらを見咎めて歩いてくる。


 「あ! 逮捕しに来た?」

 ヴィーゼが元国王を指差した。


 「何故にワシがじゃ……まだなにもしとらん」


 「なにかする気だったの?」

 マリーが睨む。


 「せんわ!」


 その近付いてきた警官は、バルタを筆頭に子供達に挨拶をした。

 「やあ、久し振りだね……元気にしてたかい」


 キョトンとした子供達。


 「あれ? 忘れられている?」

 笑った警察官。


 「もしかして、国防警察軍の?」

 エルが首を捻りながら。


 「ああ、そうだ……元だけどな」


 「アンの元部下だった人だ」

 ヴィーゼが指差した。

 

 「今も部下だけどな」

 苦笑いの警察官。

 

 「え? アンて今も警察やってるの?」

 驚いたヴィーゼ。


 「今は、ムチャクチャ出世して偉いさんだよ」


 「へえー」

 キョロキョロ首を振って探し出す。


 「ここには居ないよ」

 笑った。

 「偉いさんに成ったって言ったろう? もう滅多に現場には来ないよ」


 「なんだ……居ないのか」

 わかりやすくガッカリとしたヴィーゼ。

 「久し振りに会いたく為ったのに……」


 「王都に行けば会えるぞ……たぶん」


 「たぶんなの?」


 「アン総司令官は……忙しいからな」

 頷いて。

 「まあ……お前達なら時間もつくって貰えるんじゃないか?」


 「そか!」

 ニコリと笑う。


 「私達も王都に行くから……会えたらいいね」

 エルも笑った。

 「その時は、駅で警察の人が頑張ってたって言っとくよ」


 「俺の事か?」

 警察官も笑った。


 「名前は伏せとく……それだとやらしすぎるから」

 ニヤリと笑って。

 「なんだか、言わせられた見たいになるしね」


 「成る程……」

 頷いた警察官。

 「うまく誤魔化したな……俺の事、ほんとは覚えて居なかったろう?」


 エルは斜め上を向いた。


 「大丈夫! 馬車の時の人だし……あの時の写真が有れば指差せるよ」

 ヴィーゼは思い出した様だった。

 でも、名前は無理なようだ。

 聞いた覚えがない気がする。

 

 覚えて貰えた事が嬉しかったのかニコニコと成った警察官は。

 「じゃあ、まだ仕事が有るから」

 と、手を上げて元の場所へと帰っていった。


 その後ろ姿に声をかけるヴィーゼ。

 「仕事、頑張ってね」


 警察官は後ろ向きで、もう一度手を振った。


 「王都に言ったら、行くとこが出来たね」

 ヴィーゼはエルに。


 「そうね、挨拶くらいはしないとね」

 エルも嬉しそうに返していた。


 「でも、その前に少し寄り道よ」

 後ろで聞いていたマリーが二人告げた。


 「どっか行くの?」

 尋ねたのはヴィーゼの方。

 エルは振り向いただけ。


 「ちょっとね……あれが調子悪いみたいだから、確認」

 元国王を指差した。


 「病院かなにか?」


 「でもないんだけど……イザという時の為の準備かな?」

 

 よくわからない返事だったが、雇い主でも有るマリーの言う事なのでうなずいておいた。


 「さて、そろそろ戦車を受け取りに行かない?」

 ローザが、色々と話の区切りが着いたのだろうからと、切り出した。


 「いこー!」

 ゴーレムの背中で手を上げたヴィーゼ。


 「で、誰がルノーftの操縦をするの?」

 歩き始めたエルが聞く。


 皆はヴィーゼを見たが、やはり操縦は難しそうだ。

 

 「取り敢えず私かな?」

 声を上げたのはバルタ。


 「バルタは出来るなら砲手で居て欲しいから……」

 エルはチラリとペトラを見る。


 見られたペトラはソッポを向いた。


 「否定の言葉も聞こえないしペトラで決まりね」

 エルはそれを宣言した。


 ええええ……ブー垂れた声。

 でも、本人もそうなるだろうとは覚悟していた様だ。

 それ以上はなにも言わなかった。

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