065 色々と頑張れ
イイネをありがとう!
毎日1個増えているのはヤッパリ嬉しい。
これを励みに明日も頑張る。
また明日!
ヴィーゼは槍を持って魔物と相対していた。
今回の魔物はサーベルタイガーだ。
黄色と黒のシマシマに長い下向きの牙。
大きさは普通なのだが、それは凶悪なサイズと言うことだ。
そしてヴィーゼはスクール水着の上に、これまた黄色と黒のシマシマの毛皮を羽織っていた。
片方の肩だけに斜めに掛けられたワンピースの様な作りの衣装だ。
サイズは少し大きめ。
今回の公演のテーマは ”原始世界の少女” らしい。
そして主役はヴィーゼで脇に配されたのは魔法使いのオジサン。
名前は……聞いた気がする、が、忘れた。
設定は、転生してきた原始の野生児を拾って育てた、育ての親らしい。
ちなみに衣装は昨日の町? で、仕入れたとエセプロモターは言っていた。
その毛皮なのは、次がサーベルタイガーだとわかっていたかららしい。
ここでは何時も同じ魔物が出るのだそうだ。
今回はバルタが主役をと言われていたのだけど、それをヴィーゼがぶんどったのだ。
私はまだアイドルに成れていないと叫んでだった。
プロモターもサーベルタイガーは、少々危険だからここは一番に強い者がと説得はしてたのだが。
チヤホヤされたい。
カワイイって言われたい……そう駄々を捏ねたので仕方がない。
なので、衣装が少しブカブカなのだ。
さてその時点でのサブ……脇はクリスティナだった。
それもヴィーゼが拒否った。
自分が一人でやる……単独ライブだ!
もう面倒臭く成ったのかエセイベンターは妥協案として、オジサンを提示した。
魔法使いのオジサンは元々、怪我もしていないので出演しても問題ない。
それに、横にオジサンならカワイイが引き立つのでは? そんな提案だ。
流石に子供の怪我をされたのでは、今後のイベンターとしての仕事に差し支えるとでも思ったのか、単独での出演は許すわけにはいかないとの判断だと思う。
それでも、子供に魔物の討伐をやらせるのもどうかとは思うのだが。
そこは……お金なのだろう。
まあ、わからなくもない。
お金はたしかに必要で、重要だ。
それに、私達にも出演料として大きなお金ではないが貰えている筈……そのへんの管理はマリーだからイマイチわかってはいないけど、たぶん。
子供の私達が稼げる仕事なんて殆ど無いのだから……それはそれで有り難い。
ペトラは解説をしながら、そんな事を考えていた。
お立ち台は今回から、四つ足に成った大きなゴーレムの背中だ。
結構な高い位置に成った。
「では解説のペトラさんにお聞きしましょう」
司会のムーズが拡声器のマイクを向けた。
「サーベルタイガーとは……どんな魔物なのですか?」
「はい、猫科の中では二番目に古い種です。特徴は見た通りの二本の牙ですね」
チラチラと手元のカンペを覗き見しながら答えていった。
「しかし猫科とは言っても、四肢を見るとわかりますが太くて短いですね、なので瞬発力も速度もそれほどは出ませんし、大きな体なので持久力もしれています。ただパワーは有ります……そこは危険なところです」
まだまだ棒読みな所は有るけど……随分と慣れたと思う。
「では、今回の戦いでヴィーゼはどう立ち回るのがよいのでしょうか?」
「そうですね……」
手元のカンペをペラリと捲り。
「ヴィーゼは瞬発力と速さが持ち味です、なのでそれを生かして相手をどう翻弄するかがポイントだと思います」
よし! 完璧だ。
心の中で小さくガッツポーズ。
「では、魔法使いさんはどうでしょう……今回が初のペアと成りますが、連携が難しそうでは有りますね」
ムーズの司会は最初から完璧だ。
貴族の娘とも成るとそんな練習もさせられるのだろうか?
などと、考えながらにカンペをめくる。
私も余裕が出てきた。
「クリスティナは魔物使いなので……トン太の……」
と、そこでムーズにツツかれる。
「違うよ、魔法使いのオジサン」
小声で訂正。
「え?」
あれ?
あわてて、カンペを捲り直す。
しかし、魔法使いの記述は何処にも見当たらなかった。
サーっと血の気が引いた気がした。
このカンペは本来のバルタとクリスティナとでの事で書かれている。
バルタの部分はヴィーゼにそのまま置き換えても通用したけれど……魔物使いと魔法使いでは、それは違い過ぎる。
マズイ。
ハワハワと声が漏れて、それが拡声器のマイクに拾われてキーンとハウリングを起こした。
それが余計にプレッシャーを上げた。
とにかく、なにかを喋らなければと口を開いた。
「ま、魔法使いさんは……えーっと」
ゴクリと唾を飲み込んで。
「魔法をドカンと……ですね」
「ドカン?」
聞き直したムーズ。
「こうバーンと……」
慌てて身ぶり手振りが出てしまう。
解説なのだから、口頭での説明が大事なのにとまた焦る。
「ズバババンでシュパッとかキンとかカンと……」
「ハイ! 現場の準備が整った様ですね」
見かねたのか強引に話に割って入ったムーズ。
「ヴィーゼ選手は今か今かと余裕の顔ですね……これはいい試合が期待できますね」
さ、最悪だ……。
うわ……最悪。
ヒドイ事に成っていたペトラを見てしまったヴィーゼは顔をしかめた。
そして、溜め息。
先程から前方、少し距離のあけた所で唸っているサーベルタイガーに向き直る。
「待たせたわね」
これはさっさと始めた方がペトラの為だと魔物を睨む。
そして、チラチラと横を見た。
……。
客から見えない所で、顎先をクイクイっと。
……。
「チョッと……早く」
小声で魔法使いのオジサンを急かす。
台本上は先に攻撃するのは魔法使いだった。
だって、それは戦い方の違いが理由だとわかってる。
接近戦で組着いてしまう私が居ては魔法は撃てないだろうからだ。
私だって見方の攻撃に巻き込まれるのは嫌だ。
「早く撃って」
顔は正面でも口許は横を向いていた。
それでも頑なに動こうとはしないオジサン。
ただ前を向いて、魔物を睨んでいるだけ。
怯えて腰が引けてカタマって居るのでは無いらしいのがまだ救いだ。
スタートの合図に気付かないだけだ。
ヴィーゼは槍をクルクルっと回して構え直すついでに、槍の石突きで魔法使いのオジサンの脇腹をチョチョイとツツイタ。
ハッと顔をコチラに向けるので……見えない所で指を差す。
「始まってるよ……早く」
オジサンは少し目を泳がせる様は見せたのだが、すぐに小刻みに頷いた、直後に手元でナニかをゴソゴソと始める。
その時、ヴィーゼは見てしまった。
魔法使いのオジサンの手の中に手榴弾……闇に紛れさせる為か黒くは塗られていたけどあれは、M39卵型手榴弾だ。
私達が何時も使っているのはM24柄付き手榴弾で、その柄が無い後継バージョンだ。
そして……ヴィーゼは混乱した。
魔法って……手榴弾?
魔法使いがフェイクだと明かされた時にはヴィーゼは一人で寝ていたのだから、いまの今まで魔法は魔法だと信じて疑っていなかったのだ。
「もしかして、手榴弾が魔法?」
後ろがとても気になったヴィーゼ。
正確には後ろに居る犬耳三姉妹だ。
三人は良くM24柄付き手榴弾を投げている……もしかして魔法使いだったの?
「うそーん」
バイクで走り回る魔法使いなんてイメージが違い過ぎる。
ドカンと音がした。
ハッと目を向けると、私達とも魔物とも違う場所が焦げている。
あれ? 魔法使いさんはミスった?
実際にオジサンを見れば焦っていた。
「もう一度……」
ボソリと伝えた。
そのオジサンは、平静を装って頷いて……また手榴弾を取り出す。
手元の別なナニかを操作して、上空に火の玉を見せる。
ヴィーゼの横から見るとそれは平べったい火の絵が描かれた紙の札が光っていただけだった。
客からは夜の闇で火の玉に見えるのだろう。
はじめて見た最初の日には私にも火の玉に見えた。
これが魔法の術式ってやつ?
ちゃっちく無い?
そして、オジサンは手榴弾を投げた。
サーベルタイガーのまえにコロコロと転がる。
と、サーベルタイガーは前足で、それを弾いた。
パッシっと飛び付くように……まるで猫の様にだ。
「ああああ……サーベルタイガーってそうだよね」
先の事の成り行きを理解したヴィーゼ。
「大きい猫だもんね」




