064 ブラックダイヤ
おお!
ポイントが一気に38だ!
これは驚いた。
メチャクチャ嬉しい。
これは頑張らねば!
もっと書くぞー!
ありがとうみんな!
また明日!
そして昼前。
列車は町に着いた。
元国王とマリーとローザに寝ているヴィーゼ以外の子供達が降り立った。
一塊に成りグルリと見渡す。
「これが……町?」
驚いて声を上げたのはペトラ。
そしてその他も声は出さないが驚いていた。
何も無いのだ。
見えるのは、平屋の小屋みたいな建物が幾つか。
その間を通る道も地面は剥き出し、舗装なんて概念すら無さそうだ。
見た目は町どころか村とも呼べない……それ以前。
「ま、まあ……普段は列車も素通りだって言ってたし、ソレなりの理由が有ったって事ね」
エルが無理矢理に絞り出した答えがそれだった。
「いや……ほら、ここが町の外れで端っこなのでは?」
まだ少しの希望を口にするアマルティア。
しかし、そんなアマルティアを見た皆の目は懐疑的だ。
「一応……一回りしてみる?」
そう言ったペトラ自身もこの町に希望はもう殆ど無い。
ただ、やることも無いのでそう口にしただけ。
でも、ローザはここで弾の補給をすると言っていた。
では……その店くらいは有るのだろう。
「夕方までに戻れば良いのよね」
アマルティアはこの町を擁護した手前かペトラの話に乗った。
皆で顔を合わせる。
そしてバルタ以外の全員で肩を竦めて歩き出した。
「バルタは行かないの?」
エルが振り返った。
「私は、ヴィーゼを見てるよ……起きたときに誰も居ないと拗ねるから」
「たしかに……鬱陶し事に成るかも」
「私も……まだ眠いしね」
「そう……わかった」
手を振って。
「後で報告する」
皆の集団に戻っていった。
バルタは少しだけその場で見送り、列車に戻る。
そして暫く後。
子供達の集団は戻ってきた。
向かった方向とは逆の方から……つまりはグルリと一回りしたと言うことだ。
掛かった時間は一時間もない。
そして、一様に暗い顔。
「本当に……何も無かったね」
ボソリと呟くエレン。
「商店街は無くても……店の一軒も無かったね」
アンナも同じ様に。
「食堂も無い」
ネーヴも倣う。
店が無いと言っているのだからそれは当たり前の事。
「途中で元国王とマリーが小屋に入って行くのが見えたけど……アレが病院?」
「ただの小屋にしか見えなかったけど……そうなんでしょう? きっと」
「ようこそ、ブラックダイヤシティ……へ」
クリスティナが指を差す。
その方向を皆で見た。
看板だろうか、縦にぶら下がって揺れていた。
もとは二本の柱で横に掲げてられていたのだろうそれが、片方が外れてそのままの状態の様だった。
何故に今それに気付いたのかと言えば、列車の方からは読めない角度に垂れ下がっていたからだ。
グルリと回って町の方に向いていた。
「おかしいよね……看板は列車の客に見せる為でしょう? 何で?」
エレン。
「壊れたんでしょう……」
エル。
「修理しようよ」
「本来は素通りなのに?」
即座に否定されると……それはそれでムッとする。
そう考えたのだろうエレンは否定しにくい言葉を考える事にした様だ。
「うーん」
「ブラックダイヤシティって……大層な名前ね」
考えている間に先にエルが問う。
ハッと目を開くエレン。
即座にそれを否定してやりたくなったのだろう……けど。
「うーん」
「ブラックダイヤは石炭の事だよ」
背後から声。
「ここは、元は炭鉱の町だったんだよ」
ローザだった。
先に答えられて悔しそうな顔に成るエレン。
このままでは負けっぱなしだと口を開こうとした。
……。
開いたまま数秒。
もしかすると皆は待っていてくれたのかも知れないが。
何も出てこないと諦められたのか、クリスティナが先に声を出す。
「もう、お仕事はおわったの? 買い付け」
「ああ、終わったよ」
頷いたローザ。
「後で届けてくれるってさ」
「店なんか何処に在ったの?」
ペトラの問い。
一週グルリと回ると言う無駄足な提案をしても何も見付けられ無かったのにと驚いた。
「店?」
首を傾げて考えたローザ。
「そんなモノは無いよ」
「え? でも買ったんでしょう?」
「いまのこの町は倉庫の町だからね」
と、指で下を差す。
「だから、直接買ったの」
直接と言ったのは、この異世界に今は預かり倉庫は存在しない。
倉庫に仕舞われる商品は、倉庫主が金で買うのだ。
それを他所に売る、中間卸し問屋の様なもの。
通信手段も無いのでそれが普通だ。
殆どの場合は売り主が売り手を見付けてきてまた買い戻す。
その時の差額が収入となる。
少し前までは魔法のカードが存在した時は、そのお金を銀行からの融資で賄う事も出来た……その時は疑似預かり倉庫と同じ事に成ったのだが。
今はその魔法のカードは無い。
先の戦争で元国王が裏で暗躍して潰したからだ。
カードの機能には通信も含まれていて、即座に金のやり取りが出来るし、魔法での契約も出来る……それを破れば魔法でのペナルティも着く。
簡易な裁判もこなせたカードだったのだが……その機能は城の地下のエルフの子供の脳を集めた集積回路擬きで処理していたのだ。
つまりは魔法のカードを設計したのはマリー。
そしてカードが使えなく成って町が衰退した。
二度目の衰退。
一度目は、石炭の価値が暴落した時。
石油に取って変わられたのだ。
いまでも少しの重要は有るのだが、町の成長に成る程もない。
そして、ローザが指を下に向けたのは、その炭鉱道跡が地下に有り、それが倉庫として使われているからだ。
地下を掘る技術はエルフからの輸入技術だ。
巨大な土竜の魔物を子供頃から飼育して、それを使役する。
指示はエルフの通信能力で行った。
それはエルフを雇う事でも有ったが、儲けている時はその高い給料も払えたのだ。
もちろん、それは昔の話。
今はこの町にエルフは居ない。
だから、石炭はツルハシで掘る。
どうせたいして売れないのだから、それでもじゅうぶん。
そんなだから、倉庫もこれ以上は広くはならない。
全てが終わる方向へと転がっているのだ。
三度目の衰退も、もう目と鼻の先だ。
さて、ローザが指を下に指した時点で……何処? なり何なりと声を上げればエレンも少しは悔しさを晴らせたかもしれないが。
エレンどころか誰もその事には気付かないままに終わってしまった。
スゴスゴと列車に戻る事にした子供達だった。
夕方に成れば列車が動き出す。
その少し前にヴィーゼは目を冷ました。
横にはバルタが寝ていた。
だからといって、寝ているバルタに抱き付いたりはしない。
もうそれは卒業したのだ……と、自分に言い聞かせて我慢したヴィーゼ。
自分からバルタの横に寝る事は、今は無い。
でも、起きて横にバルタが居ればそれは嬉しいのだ。
だから、顔もほころぶ。
「何をニヤケてるの?」
バルタの向こう側にエルが立っていた。
「ゴハンよ」
そう告げて立ち去る。
起き出したヴィーゼは窓際の折り畳める簡易テーブルの上にお弁当を二つ見付けた。
エルはそれを届けに来てくれたらしい。
ヴィーゼはそれを手に取り、少しだけ悩む。
バルタは起こした方が良いのだろうか?
でも、気持ち良さそうに寝ているのだし……別にお弁当なら何時でも食べられる
と思い直して、起こすのは止めにした。
自分一人でテーブルの横……そこもベッドが椅子代わりなのだが、座ってお弁当を広げた。
見事に茶色い。
揚げ物ばかりだ。
鶏に豚に白いお米が下に有る。
お米は本当なら珍しい食べ物なのだけど、ヴィーゼにはそうでもなかった。
パトがたまに食べさせてくれたからだ。
ダンジョン産の食べ物にもお米は多かったし……とフォークを掴む。
列車のお客には、たぶん珍しい食べ物なんだろうな? と、鶏の唐揚げを頬張る。
次に白いお米だ。
合わせると美味しいのだ……これもパトに教わった。
お米が出る時は、お上品に食べなくても良いのだ。
ほっぺたがパンパンに膨らむまで、色々なオカズと一緒に口に入れても怒られない。
別段、ヴィーゼは良いとこの子でも無かったしそれが普通なのだけど、ムーズはそれに驚いて苦労をしていたし。
ムーズのお爺さんは、その姿を目に止めると説教を始めた。
行儀がどうのとか……ハシタナイとかだ。
だいたい、ナイフとフォークのマナーなんて知るわけも無いのに……盗賊の奴隷出身だよ私。
それでも頑張ってフォークの扱いは覚えたんだから。
別に手掴みで食べたって良いじゃない。
どのみち入る場所は、私の胃袋なんだから!
「なにプリプリしてるの?」
フォークの先から転がるウインナーに悪戦苦闘をしているとバルタが起き出してきた。
自分も向かいに座ってお弁当を見下ろす。
「ちゃっちいフォークね」
お弁当の上に乗っかっているフォークを手に取り一言こぼす。
そして、私の暴れるウインナーをフォークで刺して……口許に差し出してくれた。
「なに……ニヤニヤしてるのよ」
バルタも少しだけ嬉しそうだった。
そして、自分のお弁当を開けたのだった。