063 虚構
翌日は朝早くに起こされた。
誰に起こされたかは……自称イベンターのオッサンにだ。
もちろん直接に起こされた訳では無い、マリーがオッサンが呼んでいると起こしに来たのだ。
バルタはノソノソとベッドから這い出した。
客室のベッドは4つ……二段ベッドが出入口の扉と外を写す車窓を挟んで左右に在る。
向かいの二段ベッドはイナとエノが使っていたが、二人はもう居ない。
上の段からは、ヴィーゼの寝息が聞こえていた。
「まだ寝かせといてあげて……一昨日から昨日の夜まで寝てないから」
合計24時間以上だ……疲れて居ない筈はない。
「バルタは大丈夫なの?」
マリーは頷いた。
「私は少し仮眠を取っていたから」
私も戦車の操縦はできる、そして二人とも策敵もできる……なら、あの状況で二人して起きていも仕方が無い。
というよりもどちらかが順番に仮眠を取るのがいいとヴィーゼが提案してくれた。
なにか有ったら起こすから先に寝てて……と、だ。
年上だし、私が変わって戦車を動かすからと言ったのだが。
まだ、敵も近いし……それに興奮して寝れそうに無いと言うヴィーゼの言葉に甘えたのだ。
結局は一睡もせずに操縦を続けた。
持久力に関しては、どうしても私は皆に劣る。
エレン達犬耳獣人は別格にしても……次に来るのはイタチのヴィーゼで、その次がタヌキ耳獣人のエノ姉妹だ。
私とエルは殆ど人間族と変わらない感じで断トツに劣る。
エルはエルフとのハーフだから仕方無いにしても、私は純血の猫耳獣人……それが獣人としての能力の差なのだろう。
其々の獣人で少しづつ能力に差が着いている、だからか獣人達で纏まって一つの国には成れなかったのだ。
今の私達みたいに其々の長所で其々の欠点をカバーする様にすれば良かったのだけど……其々の種族が自分の長所だけを言い合えば、反発はしなくても一つには成れない。
だから、バラバラのままだったのだ。
だから国を持てなかった。
だから人として認めて貰えずに……奴隷にされた。
バルタは服を着替えながらに溜め息をつく。
その間にマリーは部屋を出ていってしまった。
「集まってるのは、私達の部屋だから」
そう言い残して。
マリーと元国王とローザにアマルティアの4人が使っている部屋は車両の最前列に在る。
因みにバルタ達の部屋は最後尾……イザと成れば戦車の有る貨物車に一番に近いからだ。
端から端にと通路を歩くバルタ。
部屋とは反対側には車窓が続く。
そこから見える景色も少しの変化があった。
草原の草が少ない……疎らに点在している。
砂漠までとは言わないけれど、荒野に向かっている? そんな感じだった。
部屋に入ると皆が集まっていた。
部屋が狭いので、子供達はベッドの横に腰かけている。
下段に溢れた数人は二段目の上だ。
元国王は居なかった。
その代わりのでは無いが、エセ紳士が窓際の奥に立っている。
その横はマリー。
「一人足らないけど……取り合えずこれで初めて」
マリーはエセ紳士に告げた。
ウオフォンっと小さな咳を1つで話始めたエセ紳士。
「集まって貰ったのは今後の事を相談するためだ」
少し偉そうだ。
立場が変われば態度も大きく変える……そんな人間性も見える。
元国王が居ないので、見た目大人は自分一人だと勘違いしたか?
マリーはもう数百歳なで、ムーズは元とはいえ貴族の子女だ……立場的にはへりくだる必要はどうなんだ?
まあ、それは口にはしないけど。
と、だまって空いた席に座る……エルがスペースを開けてくれたので隣だ。
「まず今日の公演は中止だ」
エセ紳士はそのまま続けた。
「色々とトラブルが重なったので、列車は本来は通過するだけの町で停まる事に成ったからだ」
「町?」
声を出したのはエル。
「小さな町で何も無い所だが……一応は町だ。病院は在るので怪我人を下ろすのと、補給もする」
「随分と弾も減ったし……燃料もね」
ローザが補足した。
「怪我人は、槍の冒険者と弓の冒険者だって」
「弓の人は怪我してたっけ?」
アマルティアは首を捻った。
「あの男は新人で今回が初めての魔物と相対したのだが……まあ、心が怪我をした?」
最後の方は曖昧な感じで答えた。
心の傷は見えないからだろう。
「PTSDってヤツね」
マリーは頷く。
「でも、弓の人が新人なの? そうは見えなかったよ……オジサンだったし」
クリスティナも首を傾げる。
「元は弓の競技者で私がスカウトしたのだけど……生きて動いている的は初めてだったのだ」
「へえ……そんな競技も有るんだ」
エルが驚いていた。
「古い競技の一つで、新しい技を研究する為でも有ったのよ……その競技者を田舎の地方貴族達がこぞって囲っていたわ」
ムーズが教えてくれた。
実際に戦闘で技を磨いても死ねばそれは失われる、だから安全な競技としての研究を国が推奨した。
国立の競技会もその昔は頻繁に行われたらしい。
弓の他にも剣や槍や魔法なんかもそうらしい、詰まりは軍事訓練の一部が競技との名目に変えての研究機関に成ったとそんな感じらしい。
そんなだからか技は一流だけど……ただ実戦の経験は無い。
それが最近は銃に取って変わられたので仕事に溢れたらしい。
だから余計に競技としての性格が強くなった……しかも囲ってくれる貴族達は戦車や銃に金を掛け始めたので収入も無くなる。
実際に軍事ではもう余り出番が無いのだから余計だ。
超一流が一人か二人も居れば教官としてじゅうぶんだ。
そして先の戦争。
貴族そのものが自身の収入を無くしてしまった。
だからの転職だったらしい。
「実際の冒険者としてのベテランは槍のラムザだけだ」
「あれ? 冒険者のリーダーは剣と盾の人では?」
「アレは元軍人では有るが冒険者の経験は少ないギリギリ中級にも届かない感じだが、まあ見た目と体格でリーダー役を遣っていただけだ。本来のリーダーはラムザだ」
「成る程……剣と盾は確かにソレっぽい」
フムとエル。
「だから、剣と盾の人が危なく成った時に真っ先に加勢に入ったのね」
「じゃあ、両手剣の人は? 槍の人と一緒に加勢に入ってたじゃん」
エレンが手を挙げた。
「アレはラムザの弟で、つい最近までキコリだった男だ」
「キコリ!」
驚いた子供達。
「まあ……斧も両手剣も扱いは似てるか」
アンナが少し考えている風。
「確かにどっちも両手で持って横に振るもんね」
ネーヴも納得。
「でも、槍の人……怪我をしたんでしょう?」
エル。
「実際の経験者が一人しか居ないのなら、一番に危ない所に出るから仕方無いのか……それも」
イナがエルに答えている。
「あれ? 魔法使いは?」
そのエノの問いに方を竦めたエセ紳士。
「魔法使いは……ただの手品師だ」
苦笑い。
「手品で誤魔化して手榴弾を投げていただけ」
「だからモタモタしてたのか!」
「迷ったんだと言っていた、加勢を求められた時にはもう手品の種を使いきっていたらしい、それはそうだ本来の出番はもう終わっていたのだから。で、その状態でそのまま手榴弾を投げれば嘘だとバレてしまうだから、躊躇したと」
「実際の冒険の経験が無ければ判断が遅れるのか」
エルは普通に答えていた。
もう、子供達も驚かない。
全部が虚構で出来ているのがわかったからだ。
自分達も、特にクリスティナは魔物使いでは無いしそれも嘘だと知っているから余計だ。
観客に見せるためのだけの嘘。
ただ……色々と知るとガッカリはするのだけれど。
たぶん、これが大人の世界なのだと割り切るしかない様だ。
大きな溜め息がそこかしこで漏れ聞こえた。




