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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
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062 二人きり


 ルノーft戦車は草原を走っていた。

 朝日が登り、辺りが見渡せる様に成って気付く。

 足の遅いわりにシツコク追い掛けて来ていたアルゼンチノサウルスも何処にも見えなく成っていた。

 完全に置き去りに出来た様だ。

 これでひとまずは安心。

 もしかすると夜行性とかだったのかな?

 それともゾンビとか吸血鬼とかの分類?

 ……あ、訂正……ゾンビは昼間でも普通に動いてた。

 徹夜で動いて疲れただけだきっと……あれだけ大きければメッチャ疲れて当然。

 

 まあでもソレはいい。

 アルゼンチノサウルスはもう終わった過去だ……ヴィーゼは、ソッと後ろを振り返った。

 思念体で見る戦車の外では無くて、リアルの自分の目で見た戦車の中だ。

 バルタがイライラを隠さずに指の爪を噛んでいた。

 

 ここ最近のバルタはおかしい……ここまで露骨にイライラを隠さないのは初めて見た。

 エレン達はお腹でもいたいんじゃないの? と、適当に笑っていたし……イナとエノは体の具合でも悪いのかしらと心配していた。

 その五人はバルタが不機嫌でも実害が無いからか、まったく危機感がないので適当だ。

 でも私とエルはそうはいかない。

 この間なんかはエルは震え上がっていたのだし。

 何時もなら軽い小言をチクリとやられてて……謝ればスグに許してくれるのに。延々とガミガミやられたらしい。

 私の時もだ……床の上に正座までさせられた。

 でもただ怒られるだけならそれは仕方無いのでいいのだ。

 実際に怒られる様な事をしたのだから。

 でも今回の怒り方は何時もとは違い、不安にさせられた……もしかするとバルタは私を置いて何処かに行っちゃうんじゃ無いかとさえ感じたのだ。

 それはイヤだ。

 ソレが本当に怖かった。

 エルも同じだったに違いない。

 あの時は、反省したって泣きそうだったもん。


 そして……思う。

 やっぱりバルタも寂しいのではないかと。

 私がバルタに感じた事を、バルタはパトに感じたのだと思う。

 二年も帰って来ないのだし……もう一生会えないのかと不安になっているのだ。

 それはバルタだけじゃあない、みんなが不安に成っていることだ。

 でも、私達にはバルタがいる。

 年長者の五人は、盗賊の檻の中で次は自分だと考えた時に、皆と離ればなれに成るその覚悟は出来ていたと言っていた。

 バルタ自身は売られる事はないと盗賊に言われていたらしい、一生を檻の中で過ごせと……拐ってきた子供の面倒を見ろとだ。

 だから、在る意味では覚悟は出来ていない……私とエルと同じなのだ。

 そして、パトは盗賊から救ってくれて保護者にまでなってくれた。

 私がバルタに依存している様に、バルタもパトに依存する様に成ったのだ……たぶん。

 バルタも怖いのだ。


 「ねえ……ヴィーゼ」

 バルタが話し掛けてきた。

 イライラはしているけど、それを私に当たらない様にしている声音だ。

 バルタ本人も自覚はしてるのだろう。


 「なに?」

 出来るだけ何時もの様に普通に返した。


 「列車は見える?」


 「うーん……見えないけど、線路は見えてるから大丈夫だと思うよ」


 「列車って結構速かったのね、全速で走ったのは初めて見たけど」

 どうでもよい話で紛らわそうとしているようだ。


 「普段は50キロか60キロって、ローザは言ってたよ」

 

 「ふーん、本気で走れば? それは聞いた?」


 「聞いた、130キロ以上出せるらしい、でも速度が上がるとメチャクチャ振動が出て乗ってる人間が大変に成んだって」

 蒸気機関車でもソレくらいは出せる、それは線路が在って車輪が丸いからだ……戦車の履帯とはヤッパリ違う。


 「出そうと思えば出せる……そんな感じか」


 「逃げ出した最初は全力かもだけど、逃げ切ったと安心すればユックリの何時ものスピードに落とすんじゃない? なら、やっぱり追い付けるよ」

 ペンペンと戦車を中から叩いて。

 「このルノーftは特別だからね、最高速度は90キロだけどそれは履帯の都合だけで、エンジン的には全然余裕が有るって言ってたし……巡航速度も変わんないから」

 

 「パトの38tは60キロとチョッとぐらいだったから、やっぱり速いのね」


 「38tは軽戦車ってわりには、このルノーft戦車の倍の重さが有るからその差じゃない? パトも言ってたけど」

 実際のところは載せ換えたエンジンの年代も有るらしい。

 38tもエンジンは載せ換えてはいるけど、その年代は戦車とほぼ一緒。

 ルノーftは戦車とエンジンは半世紀の差が有るって聞いた。

 半世紀って事は50年……そんなに違えば性能も全然違って当たり前だとも思う。

 それプラス軽さだ。


 「パト……今頃どうしてるんだろう」

 

 しまった、別の話にしとけばよかった。

 バルタが思い出してしまった。

 私も思い出したけど。


 「バルタ……お腹すかない?」

 無理矢理に話を変える事にする。

 だって、このままじゃあ寂しく成るから。


 「え? あああ……空いたね」


 「ねえ……失敗したね、戦車に何か食べ物を積んどくんだったね」

 

 「列車で運ぶだけの積もりだったからね、仕方無い」


 「何処かで狩りでもしたい処だけど……早くみんなに追い付きたいからソレも無理だもんね、我慢するしか無いか」


 「そうね……」

 バルタの返事も、少し上の空になってきた。

 イライラが誤魔化し切れなく成ってきたのか……それとも退屈してきたのか。

 どっちだかはわからない。

 でも、私は喋り続けた。

 どうで良い話を永遠と。

 

 


 夕方頃……やっと列車が見えてきた。

 追い付いたではなくて、待っていてくれたらしい。

 線路上に停止していた。


 「二人とも無事?」

 列車から戦車が見えたのだろう、エルが無線で連絡してきた。


 「大丈夫……私もバルタも生きてるよ」

 笑って返す。

 「それよりもお腹減った」


 「一角ウサギのシチューが有るよ……待ってる間にエレン達が狩って来てくれたの」


 「おお……さっすがー」

 でも、あれ? っと思った。

 「ねえ、昨日と今日って……ショーは?」


 「ハハハハ……」

 か細く乾いた笑いのエル。

 「それは大丈夫……もうシッカリと怒られた」

 

 「え! やっぱり怒られたんだ」


 「コッテリと……車掌さんに絞られたよ」

 フウっと息を吐いた。

 「魔物が居ないのは仕方無い……それは怒られては居ないのだけどね。エレン達が連れてきたあのバカデカイのは如何なものかとネチネチやられた」


 「まあ、そうだよね……列車を危険に晒したんだから。そりゃ怒られるよ」

 

 「まあ、そゆこと……だからアナタ達二人は怒られないよ。もうそれは終わったから。エレン達も反省を込めての一角ウサギだし」


 「なるほど……」

 

 「あと……ペナが着いた」

 それは報告らしい。

 「よくわかないオジサン……自称イベンターの人が、今後は仕切るって」


 「あああ……あのオジサンか」

 敢えて胡散臭いとは言わない。

 「マリーが良く許したね」


 「そのマリーも平謝りだから……土下座の勢いでだし」


 「そうなの? それは見てみたかった」

 と、大笑いした。


 「見れないよ……だって、その時は私達も怒られているんだから」

 エルも笑った。


 まあ、笑えるんだからもう本当に終わったのだろう。

 「あと……4回か5回でしょう公演って。ソレまでは仕方無いね」


 「そだね……我慢しよう」


 そんな会話を続けていると……列車に到着した。

 客は皆、降りていて火を囲んで食事をしながら談笑していた。

 私は、後ろで静かに寝息を立てていたバルタを起こすことにした。

 「ゴハンだって」

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