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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
61/233

060 アイドルはクリスティナ


 マーメイド・ショーなる良くわからないモノが始まった。

 本当にわからない。

 だって、ヴィーゼが水に潜れば数十分は出てこない、顔も出さない。

 観客が見ているのは凪いだ水面だけだ。

 これの何処が面白い?


 因みにだがヴィーゼはチャンと服を着ている。

 マリーが言うところのスクール水着と言うやつだ。

 ダンジョンで拾ったのだが、なぜにそれを持って帰ろうと思ったのかと訪ねれば。

 「ヴィーゼはスグに裸に成りたがるから丁度良いかと思ってね」

 そんな事らしい。

 「皆の全員分あるわよ……バルタも着てみる?」

 それには、眉を寄せる。

 「あんなの裸よりも恥ずかしいじゃない……足や手は放り出して、体にピッタリな服なんて絶対にイヤ」


 と、突然に水面が割れた。

 おおおっ! と観衆の声。

 出て来たのはイカだった。

 組み付いているヴィーゼと同じくらいのサイズ。

 手足を伸ばせば倍くらいか?

 

 それに槍でチクチクとツツいているヴィーゼ。


 何処にも見どころは無い。


 「帰って寝るわ」

 溜め息しか出ない。


 「夕食は? 食べないの?」


 「あれは無理。私達獣人はイカを食べると腰を抜かすの」

 バルタは元国王を指差して。

 「あんな風に成るのはイヤ」


 また、歓声が上がった。

 見ればペン太が水面を滑っていた……その跡には水面が線に成って凍っている。

 手前の岸際にはクリスティナが指を指して叫んでいた。

 イケー! とか、加勢する! とかそんな感じだ。

 

 チョッとは見せ場も作れたのかとみていれば。

 ペン太はイカにゴチンとぶつかり……そのままイカを気絶させていた。

 ……呆気なさ過ぎる。

 

 「ナニソレ……」


 



 翌日のショーは熊だった。

 大きく黒い月ノ輪熊が一匹。

 ロケーションは森を背に広場が造られていた。


 明らかに人工的に手が入れられた場所だ。

 そして、魔物を呼び寄せる為か餌場も造られている……そこには魔物の死骸が適当に投げられていた。

 餌を放置したのは、たぶん前回の列車……今とは反対方向に向かっている時だと思う。

 だからだろう魔物の肉は総て腐っていた。

 ただ臭いはしない、風向きも考えられた場所のようだ。

 それでも犬見み三姉妹は鼻を摘まんではいたのだが。

 朝には鼻水も随分と良く成ったと言っていたから……間の悪いことにだった。

 

 さて、今日のメインはクリスティナだ。

 前回の出演で評判に成りファンも付いたので、今日もそれ押しなのだそうだ。

 もちろんヴィーゼはむくれていた。

 前回のメインは自分だったのに何でクリスティナばっかり。

 そんな愚痴だったが……まあ、当たり前だと思う。

 なんせ、ズッと水中で見えて居なかったのだから。

 その点、クリスティナは水際で一生懸命にペン太に指示を出していた。

 明らかに露出が多い。

 

 「いやいや、露出なら私の方が多かった……クリスティナは何時ものセラーワンピだよ! 私はスクール水着ってヤツだったのに」

 

 その露出ではない。

 との突っ込みは止めておいた。

 何故なら、今のヴィーゼの言葉に思うに……スクール水着は確信犯で着ていたのだとわかってしまったからだ。

 クリスティナもあざとい所が有るが、ヴィーゼもそれに対抗してあざとさを自分で演出したに違いない。

 明らかに方向が違って……間違えてはいるが、努力はしたのだろう。

 完敗だと思う。


 さて、ショーの方だが大盛り上がりだ。

 熊に対して、先ずはタロとジロを向かわせた。

 タロとジロとは、スピノサウルスのゾンビ兄弟だ。

 命名はマリー……同じ様なのが二匹居ればその名前に成るのが鉄板らしい。

 どうでも良いのだが……そう言うのならそれでも構わないとクリスティナは頷いてた。

 

 そのタロとジロが両脇から牽制している最中にペン太が腹に一撃。

 怯んだところに牛太が突進。

 因みに熱帯牛の命名はクリスティナ……とにかく何でもお尻に吉か太らしい……その違いはと聞けば、語呂の問題と一言で終わった。

 大概の名前はどちらかで収まるとても不思議な名前なのだそうだ。

 では、イグアナに名前を付けるとしたら? と聞いてみた。

 「イグ吉かアナ吉」だそうだ。

 なら、アヒルは? と聞けば。

 それは ”ガア太” の一択らしい。

 とにかく何でも太か吉だ。

 もしかすると、ジロもジロ吉でタロはタロ吉なのかもしれない……クリスティナの中ではだけど。

 

 そして、トン太……もうわかると思うから、以下省略。

 の、鼻の穴に石コロを詰めて……鼻息で飛ばさせていた。

 これは熱帯豚のスキルらしい……強烈な勢いで鼻息を吐いて目の前の敵を飛ばす。その都合上、鼻の穴は大きく一つになっていた。

 良く良く奥を覗けば二つに別れてはいる様だが、真っ直ぐ前にと為ればヤハリ、一つの方が都合が良いらしい。

 まあ、魔物だしそう言う進化もアリなのだろう。

 その飛ばした石は熊の眉間に見事に命中させていた。

 クリスティナの微調整ありきではあるのだが……それは、威力も合わせてスバラシイかんじだ。

 

 都合30分の戦闘。

 途中、マリーの ”引き伸ばせ” のカンペにもシッカリと答えた結果だ。

 観客の反応も含めても、大満足の出来だとマリーも大喜びだった。


 ただクリスティナは伸びた熊を物欲しげに見詰めてはいたが。

 それは流石に無視された。

 もう、魔物の友達はこれ以上は必要ないし……ナニより熊は今日の夕食だからだ。

 無理なモノは無理。




 そして、また翌日。

 四日目のこと。

 今回はマズイ事になった。

 予定の場所……幾つか予備の候補も有ったのだが何れも駄目。

 魔物が一匹も見つからない。


 昨日の熊もその前の魔物も、すべてが餌場に残してきたので今日は何が何でも魔物を狩らないと食料がない。

 だからか、予備の場所も多目に設定されていたのだが……まさか全滅とは、流石に車掌さんも頭を抱えていた。


 「バイクで探してみるよ」

 犬耳三姉妹が提案。

 「見付ければ、こっちに追い込めばいい?」


 その提案には車掌は頷くしかないようだ。


 なので、今は魔物待ち。

 もう随分と待たされている。

 車掌さんはイライラでエセ紳士に当たり散らしていた。


 今回の魔物が居ないは……エセ紳士には関係が無いとはおもうけど。

 クライアントに怒られるのもイベンターの仕事の内だと笑っていた。

 適当にやってる風でもソレ成りに苦労が有る様だ。

 だからと言って相手をしてやる義理は無いんだけど。


 その時、バルタの耳に振動音が届いた。

 距離はまだまだ遠いにのに音はユックリと大きくなる。 

 本当にユックリだ。

 人が歩く速度の半分? いやその半分だ。

 つまりは4分の1?

 でも、その振動は足の裏にも感じられる。

  

 なんだろう?

 バルタも想像の着かない音と振動だった。

 しかもそれは何時間も続いた。

 夕方から深夜前の今も続いている。

 そして、徐々にそれは大きく成ってきた。

 今は普通の人間でも感じられるくらいだ。

 

 今日は無理だと一度は諦めて其々の客車に戻っていた客がまた、表に出てきた。

 口々に何事か? と尋ね会っていた。


 そこにバイクの音と共に三姉妹が帰ってきた。

 そして、暗闇の空を指差して。

 「連れて来たよ」

 「いい感じの大きさだよ」

 「無茶苦茶のろいけどね」


 その方向を見たバルタには、何も見えない。

 そばにいたイナに目線を送ると……イナとエノは口をあんぐりと開けて呆けていた。

 夜目の効く二人には見えている?


 「エル……照明弾はある?」


 「カンプピストルなら今すぐ撃てるけど……届くのかな?」

 エルは犬耳三姉妹の指差す方向と、狸耳姉妹の目線で方向を読み……自身の持つ、何かが居るであろう所の位置を特定するスキルで目測を着けたのだろう。

 距離も場所もわかっていると、そんな感じなのに首をひねっていた。


 「とにかく撃ってみて」


 バルタのそれに頷いたエル。

 カンプピストルに照明弾をねじ込んで、斜め前方の空に向けて撃った。

 

 光の筋が夜空を切り開く。


 不意に、大きな顔が現れた。

 あり得ない高さに……あり得ない大きさ。


 「アルゼンチノサウルス?」

 声を出したのは元国王。

 腰が悪いのにズッと子供達に付き合ってくれていたのだ。

 

 「それって?」

 マリーもそばに居た。


 「一番に大きい恐竜じゃ……確か全長は45メートル? 体重は100トンだったかの……」

 その声は震えていた。

 アルゼンチノサウルスが出した振動で、では無くて……ホンキでビビった声だった。


 「せ、戦車!」

 バルタは叫ぶ。

 「ヴェスペも用意して!」

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