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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
60/233

059 新”活劇”ショー

ここ最近続いていたイイネも止まってしまった。


もう少し頑張りが足りないと……そう言うことか。

ポイントも増えないし。


仕方無いよね。



また明日。



 その日の夜は、列車の横に大きな焚き火を幾つも作って盛大な宴会が開かれた。

 いや、これが何時もの光景なのかもしれない。

 倒した魔物を調理しての夕食会?

 

 今夜は豚のステーキに豚のスープに豚の……ゲップ。

 そして、ゲンナリされられるのも目にした。

 料理人が豚の薫製を作っている。

 あれは、明日の朝食に出てくるのだろう……たぶん。


 アマルティアはスープをフォークでつつきながら溜め息をつく。

 

 「みんな聞いて」

 そこにマリーの声がした。

 見ればエルを横に、後ろにはドワーフの車掌さんと一人の男がついてくる。

 ドワーフの車掌は見た目も普通だ。

 だけど、もう一人の男は少し変。

 腰を屈めて前で揉み手。

 服装も明るい黄色の背広に首のまわりに変な柄のスカーフ……頭はカンカン帽。

 さて……何者? と、そんな感じだ。


 「エセ貴族」 

 「バッタモン紳士」

 ムーズとバルタがお互いの顔を見合わせていた。

 「しりあい?」

 「まさか」

 しかし、会話を聞くに……二人は何処かでこの男を見たのだろう。

 そして、男の形容はどちらの意見でも納得と頷くしかない。


 「さて、古式冒険者の方々は戦線離脱を余儀なくされました。なので、明日からのショーは私達がやります」

 皆の反応を伺うマリー。

 しかし、反応は無い。

 ってか、理解が追い付いていない感じだ。

 「私達でやる討伐ショーとして、夕方に見定めた魔物退治となります。それは今回と同じで皆の夕食です」

 もう一度、皆の顔を見渡す。

 「報酬は……一人一個のベッド。つまりは四人部屋の個室を四つと売り子さんが持ってくるお菓子やジュースの食べ放題に飲み放題」

 ここで、数名が声をあげた……おおおおおっ!

 「なお、戦い方はこちらの判断です」


 「それは戦車でもオーケイって事?」


 「ありです」

 頷いたマリー。

 「マンネリ化を防ぐ意味合いで、都度都度に変えてはいきますが……戦車の戦闘も含まれます」

 

 「あくまでもショーとして見せる為よ」

 エルが付け足した。

 「報酬が有るのだから仕事よ」


 皆は各々顔を見合わせて……最後には頷いた。

 

 「指示はこちらのイベントプロモーターからマネジャーである私が受けます」

 マリーは黄色い背広の男を指差して、自分を指す。

 「クレームや要望は私から伝えますが……すべてが通る事は無いと思っておいてください」

 

 「みんなやるわよね」

 エルが確認を則した。

 

 首を小さく動かして頷く者。

 横か縦か良くわからない斜めに振る者。

 まだ考えている者も居たが……エルはすぐに話を切った。

 「みんなやるってさ」


 「有り難うございます、助かりました」

 胡散臭く頭を下げた男。

 「いやぁ一時はどうなるかと……」

 話が長く成りそうなので皆は立ち上がる。

 

 「で、何処の個室?」

 バルタが代表して尋ねた。

 

 「一番奥の寝台客車が一両丸々」

 エルは案内として、先頭を歩く。


 「部屋割りはどうする?」

 

 「最初に決めた四人掛けの座り位置でいいんじゃないの?」


 「あの……」

 置き去りにされた男の手が伸びたり縮んだりを繰り返しているのだが……もう誰も相手をしなかった。

 無視である。

 マリーに任せたのだから、後はほっとけばいいのだ。





 翌日の朝は快適に目が覚めた。

 やはりベッドで足を伸ばして寝れるのは体にもよいらしい。

 

 「やっと起きたのね」

 マリーがバルタの顔を覗き混んだ。

 「昨日はお疲れさま」


 バルタもマリーの顔を覗き込んだ。

 そして眉を潜める。

 「昨日の営業スマイルの残り香がまだ顔に張り付いているわよ」


 「あらそう?」

 マリーは自分の顔を両手の平でモミモミ。

 

 バルタはそんなマリーを横目に、ベッドから降りて着替えを始めた。

 「で……なんのよう?」

 何時もの白いセーラーのワンピース。


 「朝食と……」

 茶色い紙袋を差し出す。

 

 それを受け取って中を覗くと……パンと昨日の豚の薫製にオレンジが一つ。

 「オレンジはあんまり好きじゃ無いのよね……顔がシュパシュパするから」

 掴んでマリーに投げる。

 口には薫製を放り込んだ。

 「で? 続きは?」


 「少しの相談よ」

 受け取ったオレンジを剥いて口に放り込む。

 「戦闘ではバルタがリーダーでしょう?」


 「別にリーダーってわけじゃあ無いけど……」

 次にパンを噛った。

 

 「その戦闘についての相談」

 バルタの否定は聞こえない振りを決め込んだ。

 「バルタやヴィーゼにアマルティアもか……三人は肉弾戦も出来るのはわかったのだけど……」


 「あんなのはもうやら無いわよ……後が面倒だから」

 昨日は戦闘のあと、魔物の返り血でドロドロになった。

 流石にヒド過ぎたので、イヤイヤ水浴びをした……いや、させられたです。

 蒸気機関車のタンクの水だ。

 おかげで未だにイライラが残っている。

 「あれはどうしようもない時だけの特別よ」


 「他に肉弾戦が出来るものは?」


 「鼻が効けば、エレン達姉妹でも出来る筈だけど」

 

 「三人は強いの?」


 「ヴィーゼには三人掛かりでも、まったく歯が立たない感じかな?」


 「駄目じゃない……」


 「ヴィーゼが強すぎるだけよ」


 眉を寄せたマリー。

 「そのヴィーゼはバルタには勝てないのよね?」


 肩を竦めるだけのバルタ。

 「いったい何が言いたいわけ?」


 「結局は銃を使った戦い方に成るのかと思って」


 「それの何処がダメなわけ?」


 「今までとは違いすぎない?」


 「なにと?」


 「列車での古式冒険術のショーよ」


 「そりゃあそうでしょう……私達は古式冒険術なんてやったこともないのだから」

 フンと鼻を鳴らして。

 「そんなの無理よ」

  

 考え込んだマリー。

 

 「銃は何がダメなの? 魔物を倒すのは同じでしょう?」


 まだ考え込んでいるマリー。


 「そりゃあ魔法みたいに派手さは無いけど……そのぶん手榴弾とか砲撃とかの爆破は有るじゃない。剣士みたいに魔物と肉薄しないけど、バイクなら速さとかの機動力も在るし。戦車が動くだけでも迫力は出せると思う」


 「活劇風か……」

 唸ったマリー。

 「そうね、個々の技じゃあ無くて連携を見せれば良いのよね」

 頷いた。


 「技も有るわよ……イナ達の狙撃は凄いもの。なんなら元国王に魔物使いでもやらせれば?」


 「あれは駄目よ……まだ動けないから。流石にゴーレムに背負わされてちゃあ絵にならないわ」


 「じゃあ……」

 考えたバルタ。

 「クリスティナにでも遣らせれれば? 昨日もペン太を上手く使ってたみたいだし」


 「魔物達はクリスティナに使役しているわけじゃあないし」

 首を振ったマリー。


 「関係無いわよそんなの……見てる方は誰が使役しているかなんてわからないでしょう? クリスティナが動かしている風でもいいんじゃないの?」


 「それもそうね」

 

 「それよりもさ……みんなどこ行ったかしらない?」


 「みんなはムーズの部屋に集まってるわよ」


 「そう」

 バルタは部屋を出た。

 

 マリーも着いてくる。

 「活劇……活劇ショー……新活劇ショー」

 ブツブツと声に出している。

 

 



 その日の夕方。


 ムーズが小脇に拡声器を抱えて、観衆の前に立った。

 横にはペトラがいる。


 「ねえ……幾つか質問していい?」

 バルタはその前の観客の中に混じって、横に立つマリーに聞いた。


 「なによ?」

 ボソリと答えるマリー。


 「なんで、そんな格好なの?」


 見た目は白一色のワンピースだ。

 「一応は看護婦みたいでしょう?」


 「で? なんでそれなの?」


 「私の立ち位置は救護班って感じにしているから」

 後ろでゴーレムに背負わされている元国王をチラ見して。

 「怪我しても治療は元国王がするのだけどね」


 「それの意味は?」


 「みんな各々の役割というか、仕事というか……有るから私もよ」


 「元国王の役は?」


 「保護者」


 首が微妙に横に振れたバルタ。

 それでも一応は納得したのか、前を指差して。

 「ムーズは司会ね……それはわかった」

 指を動かし。

 「横のペトラはなに?」


 「解説役よ」


 唸るバルタ。

 「それ……必要?」


 「報酬は皆に平等に渡るのだから、全員で仕事をしないとダメでしょう? なんでもいいからそれっぽい事をさせてるのよ。でないと、気後れするじゃない」


 「それって……なにも出来ないから仕方なく?」


 「そ……そんな事は無いわよ」

 目線は下にズラした様だ。

 「もういい? そろそろ始まるわよ」

 

 「最後にもう一つだけ……」


 バルタが聞こうとしたらば、ムーズの声が響いた。

 「皆様おまたせしました。今宵はマーメイド・ヴィーゼに依る水中討伐ショーをお見せいたしましょう……司会は私ムーズと解説は……」

 と、横を手の平で指す。

 「わくしペテラでっす」

 

 「ぺてら?」

 眉が依るバルタ。


 「緊張しているみたいね自分の名前を噛んじゃってる」

 苦笑いのマリー。


 「いや……まあそれはいいわ」

 バルタはその二人の奥を指差した。

 槍を持ったヴィーゼが立っているその奥。

 「なんで湖なの? なんでヴィーゼのマーメイドショー? 新活劇ショーはどこいった?」


 「し、仕方無いでしょう……今回は湖の畔で一泊って予定だったらしいのよ」


 「それ……しらなかったの?」


 黙り込んだマリー。

 

 「一応はマネージャーだよね……確認はしていない? もしかして」


 「まさか、湖でやるなんて思わないじゃない」

 

 はあ……と溜め息とともに首を振ったバルタは吐き捨てた。

 「信じらんない!」

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