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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
59/233

058 子供達の活躍


 暴れ熱帯牛は暴れない熱帯牛にして行動不能には出来たけど……まだ熱帯豚の群はそのまだ。

 目の前のこの子の相手が精一杯で回りが失念していた。

 

 アマルティアは盾を下げて周囲を確認した。

 少し離れた場所で熱帯豚の塊がパカーンと弾ける様に飛び散った。


 「ストラーイク!」

 マリーらしき声が響く。


 何がストライクだ? なにかした?

 列車の方を見れば、クリスティナとマリーがピョンピョンと跳ねながら両手でハイタッチしているのが見える。

 そして、そんなクリスティナの方へと滑っていくペン太。

 

 さっきのはペン太のしわざ?

 

 次に、クリスティナが豚の集団を指差して、足元に低く構えたペン太が頷いた。

 ……微妙にペン太の向きがズレていたようだ。

 クリスティナはペン太の向きを調えた。

 しゃがんで後ろから両手でクイクイと、視線は狙うべき熱帯豚から外さない様に、ペン太を直線上のラインに乗せるような感じだ。

 そして、おもむろに立ち上がって右手を前に指し示して。

 「イケー!」

 その合図にペン太は1歩、2歩と進んで……そこから一気に加速した。

 目標に向かって一直線だ。

 途中に居た塊から外れた熱帯豚を弾き飛ばしながらも速度を落とさずに、最終的に大きな魔物の塊を吹き飛ばしていた。

 そして、さっきと同じくマリーが叫ぶ。

 「ストラーイク!」


 「ペン太……私の言うことは聞かないのに」

 ヴィーゼがボソリ。

 「クリスティナの言う事は聞くんだ」

 少しだけ怒っている素振りを見せる。


 アマルティアは今の様子と、ヴィーゼが最初に最初にペン太に声を掛けた時の様子を思い出しながら比較してみた。

 「指示が適当過ぎたんじゃないのかな?」


 「ん? 私が悪いの?」

 ヴィーゼに睨まれる。


 私は慌てて補足した。

 「ほら、クリスティナは豚の中でもどの豚かを示して、ペン太が構えたその方向もイチイチ調整してるでしょう? あそこまでやらないとペン太にはわからないのよ……きっと……たぶん」


 「うわ……そんなに面倒くさいの? ペン太って」


 「そりゃ……ペン太は魔物だもの」


 喋っている間にも、熱帯豚が弾け飛ぶ。

 致命傷に成っているかはわからないけど、氷の塊に凄いスピードでブツかられればダメージは入るし、なにより心が折れる様だ。

 よたよたと逃げ出した熱帯豚も見えた。

 「逃げられるのはマズイのでは? 今晩のご飯でしょう? 豚は……」

 まあ、足元にダウンしている熱帯牛でも十分な気もするけど。


 「おっと! そうだね……私の獲物だ」

 槍を構え直してニヤリと笑ったヴィーゼ。

 「ペン太なんかに負けてらんない」


 「クリスティナじゃないの? 指示を出してるのだし」


 「クリスティナならもっと負けられない」

 走り出したヴィーゼ。


 私も後をおう。

 「ちょっと待って」

 盾だけで攻撃手段の無い私は誰かの補助が必要なのだ。

 何時までも豚一匹と押し比べをしてても意味がない。


 その時、何処かからか爆発の音が響いた。

 そして、次に銃撃音。

 良く耳にした戦場の音だ。


 「お待たせ」

 背後から声。

 ネーヴだった。

 私にはstg44軽自動小銃を押し付けながら。

 それを受け取るのは若干に躊躇した。

 盾が無くても豚の突進に堪えられるかだ……堪えれれ無くは無いだろう。

 豚には牛の様な角も無いのだし、ただブツかるだけだ。

 でも、うーんと悩んでいると……M24柄付き手榴弾も差し出してくる。

 「アマルティアって、案外欲張りだね」

 妙な勘違いをしている。

 武器が足らないとかそんなんで悩んだいるわけじゃあ無いのに。

 それを口に出そうとしたとき、先にネーヴがヴィーゼに声を掛けた。

 「ヴィーゼの武器はそれでいいの?」

 

 肩を竦めたヴィーゼは、そのまま走り出した。


 「あ、行っちゃったよ」

 ネーヴも肩をすくめる。

 そして、もう一度私に向きなり。

 「あんまり前に出過ぎないでよ……狙撃の邪魔になるし」

 そう言って、客車の屋根の上を指差す。

 そこではイナとエノがkar98kを片膝で構えて撃っていた。



 その後は、ものの数分で方が付いた。

 最後の一匹はバルタが剣で突いて終わり。

 観客からも大声援。

 ヴィーゼが槍を振り回しながらにそれに応えていた。


 まあ……良いのだけれど、ヴィーゼも頑張ったのは事実だし。

 と、周囲を確認。

 大半の熱帯豚は逃げたのだけど、それでも大漁だ。

 今晩の食事どころか二,三日は困らない数だ。

 個人的には困るのだけど……豚が何日も続くのは嫌だ。

 まあ、間に牛を挟めば……と、そちらを向くと。

 数人の人だかり。


 元国王にクリスティナにムーズ……それとゴーレムが数体。

 元国王はそのゴーレムの一体に背負われている。

 まだ腰が駄目らしい。

 動けないならオトナシク列車の中に居れば良いのに。

 と、見ていると。

 クリスティナが両手を前で組んで、アザトイお願いポーズをしていた。


 何をしているのだろうか? と近付いたアマルティア。

 

 元国王は魔方陣を発動させていた。

 熱帯牛の下に光る魔方陣。

 そして、ナイフで突いての治療?

 

 「どうするの?」

 作業を見守るクリスティナに尋ねると。

 「可愛いから、お友達に成ろうと思って」

 ニコリと返事。


 え? かわいいか?

 毒々しい色でサイズも大きい。

 どこに可愛いの要素がある?

 と、そこにペンギンがトコトコと歩いてくる……傍らには熱帯豚も一緒だ。

 「もしかして……これも?」


 「そう! 可愛いでしょう?」

 

 少し小さいサイズの個体を選んだのだろう……子豚? うん、こっちは可愛いかもしれない。

 でも……牛は……。

 クリスティナの美的感覚には疑問を抱くしかない。


 すると、熱帯牛は立ち上がった。

 一瞬、緊張が走るが……すぐにクリスティナがその背中によじ登る。

 そして、ノッシノッシと歩き始めた。

 

 可愛いかどうかは別にしても……実用性はあるようだ。

 背中に人を乗せられる。

 しかも、嫌がる素振りも無い。

 従順にクリスティナの言う事を聞いていた。

 元国王がそれを言い付けたのだろうけど……と、良く見れば牛の頭にハム吉。

 牛に指示を出しているのはハム吉の様だ。

 先輩だからか、頭の上で偉そうにしていた。


 「まあ……いいけど……ね」

 牛は食べ損ねたけど……私は元々が野菜好き。

 別に好き嫌いは無いけど……どちらかと言えば菜食主義だ。

 豚尽くしでも……我慢は……出来るかな?

 少しだけ気が滅入るのを感じて、その場を後にして客車の方に向いた。

 「明日は……別の魔物を退治してくれるだろう」

 そう口にして……ふと思う。

 「だれが?」

 古式冒険者達は全滅だ。

 死にはしていなくても、暫くは前線には出てこれないだろう。

 「その役……だれが? やるの?」

 嫌な予感がよぎる。

 

 それを紛らわしてくれたのが、観客の大声援。

 それが、私にも向いていた。

 ちょっとだけ気持ちがいい。

 人に見られて恥ずかしいのも少しは有るけど……コレだけの人数に成ると緊張は残るけど、殆ど気にならなく成るようだ。

 大人数の群衆は一塊で人とは違うモノにも感じれたからだと思う。

 

 「私達……アイドルかも」

 ヴィーゼの側にまで行くと、そう私に告げてくる。

 戦闘中も興奮していたけど、今はまた違う興奮に見えたヴィーゼはまだ皆に手を振っていた。

 「ねえ、何か歌わなくてもいいのかな?」


 そのヴィーゼの言葉に眉を潜めたアマルティア。

 勘違いしている。

 「歌はいらないんじゃない?」

 そもそも私は、母に聞かされた童謡か子守唄しか知らないし……てか、人生の殆どが収容所だ。

 気楽に歌なんか歌ってる暇はなかった。

 「ヴィーゼは何か歌えるの?」

 聞いてみた。


 「……歌か……知らないな」

 皆に手を振りながら……そのまま考えたのだろう。

 「今度バルタに教えてもらう……で、練習しなきゃね」


 「練習?」


 「だって、次の時は歌わなきゃだから」


 「え? つぎ?」


 「そう……明日かな?」


 「えええ?」


 「ええって何よ、アマルティアも練習するんだよ」


 なにそれ! 確定事項? 明日も遣るの? コレ。

 困惑している私にヴィーゼは観客の一角を指差した。

 マリーとエルが車掌さん? それらしき制服のドワーフと変な格好に見える背広姿の人間の男を怒鳴り付けていた。


 「交渉は上手くいくと思うよ」

 ニヘラと笑うヴィーゼだった。

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