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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
56/233

055 列車の旅の最初の日

おおお!

イイネが増えてる!

気付いて無かっただけなのか、だけど……メチャ嬉しい。



ありがとう!

まだまだ、がんばる。


また明日!




 翌朝。

 列車の旅の1日目。

 朝食はドワーフのお姉さん職員がワゴンを引いて配ってくれた。

 少し大きめなバケットと生ハムにピクルスを茶色い紙袋に放り込んだモノ。

 子供用は無いようで 紙袋を覗いたクリスティナは目を白黒とさせていた。


 「次のご飯は夕食まで無いから、余ったらお昼に食べればいいよ」

 ローザが子供達に声を掛けていた。


 「足りないときは?」

 ハイ! っと、手を挙げたのはネーヴ。


 「日に何回かワゴンのお姉さんが通るその時にかな?」

 ローザは苦笑いで答えていた。


 こちらの異世界は文明レベルが低い。

 なので1日の食事は朝と夜の二食が基本だ。

 理由は簡単、朝に食べて作業をする……農耕やら牧畜やらに、こちらの世界特有の魔物退治等の冒険。それらを終えて日暮れに夕食を取るのが合理的だからだ。


 魔物退治以外は15世紀以前の元の世界と変わらない。

 例外として古代ローマでは1日3食の食事をガッツリ取っていたらしいが、それが許される時代とそうで無い時代とが有るのだろう。

 

 しかし、今は転生者が持ち込んだ文化もある。

 だから昼食を取る習慣を持つものも居る。

 しっかりと料理をする者はそれでも少数だが、バックランチやブラウンランチは良くあることだ。


 マリーはその茶色の紙袋に手を突っ込みピクルスをつまんだ。

 紙袋にピクルスを放り込むなんて無茶な事をするのは、ブラウンランチを完全には理解出来てない証拠なのだろう。

それが朝に配られるのも含めて理解が足りないか……朝に食おうが昼に食おうがどちらでもお好きにどうぞと、そんなつもりなのかも知れない。


 摘まんだピクルスを口に運んだマリーは溜め息をつく。

 不味かった訳ではない。

 どちらかと言えば美味しい。

 しかし、ブラウンランチとはまったく関係の無いところ……目の前の元国王が情けない顔で固まっていたからだ。


 「駄目そうなの?」

 

 「いや……もう少し時間がたてば」

 元国王は腰を擦りながらうめく。

 寝起きに腰が固まって動けんとマリーに訴えてもう数時間に成るが、ずっと同じ会話を繰り返していた。

 

 老体にはこの体勢で寝るのは厳しいのだろう。

 それ以前にも随分とガタが来ている用だしと唸るマリー。

 「仕方無い……寄り道するか……」


 「え? 列車の旅は?」

 アマルティアがパンを加えてマリーを覗き込む。


 「終点で降りてからの話」

 マリーのさらりと返した返答に、また驚くアマルティア。

 大丈夫なのだろうか? と元国王を見た。

 体調をおもんばかっての事ではない。

 一晩でこれなら10日の旅の後は身動きすら出来ないんじゃないかと考えたのだ。

 そうなれば誰がトラックを運転する?

 あれの荷箱や牽引車には、ダンジョンで集めた服とか小物とかがある。

 それを置いていくのは嫌だと思ったのだ。

 ……いや……いやいや、ほんのちょっとは……爪の先の垢くらいは気遣った分もある。

 ……たぶん。


 そこへ犬耳三姉妹がやって来た。

 元国王が心配で見に来たわけでは無さそうだ。

 3人とも鼻水を垂らしていた。


 「マリー薬頂戴」

 ズズズッと鼻をすすりながら。


 ハイハイと鞄に手を突っ込むマリーを横目に。

 「どうしたの? 風邪?」

 今度のアマルティアは体調を気遣ってだ。


 「蒸気機関の煙がね……」

 エレンは天井を指す。

 「ペンギンのダンジョンで、爆発の時の煙とガソリンで鼻をやられてそれから少し調子が悪いの」

 アンナが小さくクシャミをした。

 「臭いがわからなくて……気持ち悪い」

 ツツツツツーと伸ばした鼻水を手の甲で拭うネーヴ。


 「暫く治まってた様だけど……風向きかなにかが変わって車内に煙が入ってきたのね」

 マリーは薬の粒を手渡した。


 アマルティアは上を向いて鼻をクンクンと鳴らす。

 「わからないや」

 煙り臭さはまったく感じない。


 「敏感すぎるのよ、この子達は」


 


 昼頃に成ると、三姉妹はクシュンクシュンと咳き込み始める。

 何処から入り込むのか……に他の獣人にも煙り臭いのがわかる様になっていた。

 客車の先頭、蒸気機関車のすぐ後ろだから、余計に入りやすいのかも知れない。

 それでもマリーに貰った薬が効いたのか鼻水は止まっているようだ。

 時折出るクシャミはもう仕方無いと諦めた顔をしていた。

 

 

 そしてまた少しの時間が経つ。

 夕方前だと思う。

 何時までも草原の変わらない景色に飽きて、寝てしまっていた用だ。

 瞼を擦って外を見る。

 列車が速度を落とし始めていた。

 

 「そろそろかな?」

 鼻を気にしつつ、エレンが窓の外を覗いた。


 アマルティアもそれに倣って除く。

 景色は相変わらずの草原。

 なにがそろそろなのかと首を捻る。


 「アレじゃない?」

 アンナが指差した先に豚の様な魔物の群れがある。

 形はそのまま豚なのだけど、その色が……ピンクの体にパステルブルーのシマシマ。

 なんとも毒々しい色だ。

 

 「ちょっと数が多すぎないかな?」

 ネーヴはどうだろうと懐疑的。


 「でも、見た目弱がそうだからそれでもいいんじゃないの?」

 エルもわかっている口振り。


 サッパリわからないアマルティアは首を捻るしかない。


 と、列車は完全に止まった。

 そして、車両の後ろから女の人の声。

 「皆様お待たせしました。今夜の夕食はカラフルな熱帯豚でございます。毒持ちでは有りますが、当列車の料理長は腕も優秀なので毒も処理もバッチリです。そして、あれらは毒さえ無ければとても美味しいと評判でございます」


 少しの間を空けて。


 「出て参りました」

 窓の外を指し。

 「古式冒険術の使い手、トニー率いるパーティーです」

 少しばかり年のいった5人組が列車の外に並んだ。

 「真ん中に居りますのがのがパーティーのリーダー……トニー。剣と盾の使い手」

 そのトニーと呼ばれた男が片手剣を上に突き上げて一歩を踏み出す。

 「その左右は槍使いと両手剣使いとなります」

 その二人も、自分の持つ武器を掲げて前に出た。

 「最後に外側の二人は魔法使いと弓術士と成ります。5人共に優秀な冒険者ですので、その華麗な討伐劇をおたのしみください」


 おおおっと車内に歓声が湧く。

 

 「車内からでも、車外に降りての観戦も自由では御座いますが。車両から離れ過ぎない様にお願いします」


 「出ても良いんだって」

 ヴィーゼはクリスティナの手を握ってバルタに言った。

 外で見たいとお願いらしい。


 そして、バルタはそれにうなずいた。


 すると、子供達の全員が立ち上がる。

 アマルティアもネーヴに手を掴まれた……少し湿った感じが有るのだが、きっとそれは興奮しているからだとおもう。

 決して、鼻水では無い筈だ……たぶん。



 

 車両の外、すぐ側の草むらに立っての観戦。

 ふと思うアマルティア。

 車内の窓から見た方が位置が高いから良く見えるのでは?

 そんな疑問はネーヴの臨場感の一言で納得させられた。

 たしかに、ガラス越しではないここでは、空気も臭いも肌で感じられる。



 冒険者達は一度、集まり相談しているようだ。

 作戦なのか、見せる為の段取りなのかはわからない、が、すぐに散会。

 位置につく。


 最初に攻撃するのは魔法使いの用だ。

 杖を掲げて、大仰な呪文を唱え始めた。

 

 「火の魔法かな?」

 ネーヴはワクワクを隠さない。

 「爆発のヤツがいいな! ドカンと派手なやつ」


 そして、その期待道理の事が起こった。


 魔物の群れの中央に向かって、大きな火の玉が飛ぶ。

 真ん丸で真っ赤なそれは、中々に見応えがあるものだった。

 飛ぶ速度は……遅いけど。

 もちろん銃弾や砲弾に比べての話。

 目で追えるギリギリの速度だった。

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