053 子供達の昔話
お菓子を買って貰ってウキウキで列車に乗り込む子供達。
元国王が切符を確認して指定した席は一番前だった。
蒸気機関車の繋がっているそのすぐ後ろの車輌の前から16席分。
対面4人掛けが通路を挟んで左右なのでそれが2つだ。
1つ席は空いたのだがそこにはペンギンが座って居た。
まあ15席分を取って他人が1人混ざるのも面倒なのでそうしたのだろう。
子供達が各々に自分の席を決めて座る頃でもまだ他の客は誰も居なかった。
だからか席決めは大騒ぎだ。
特等席は窓際で座れるのは8人。
まずは年の若い順に座る。
進行方向右の一角には
ヴィーゼにバルタにタヌキ耳姉妹の4人。
その後ろには犬耳三姉妹とエル。
対面2マス左に元国王とマリーとローザにアマルティア。
残った1マス、左の先頭はクリスティナとムーズとペトラにペンギン。
結局はそうなった。
でも10日の旅ではそのうちにグチャグチャには成りそうなのだが取り敢えずだ。
その席決めの最中に何故に寝台の個室を取らなかったのかとローザや元国王を責めた者いたが……それだと寝台客車を1車輌丸々の貸し切りで、そんな金は無いと言われていた。
もう既に貨物車輌を2つも貸しきっているのだ、それだけでも予算オーバーだと首を振られる。
流石に戦車を運ぶのは高いらしい。
文句を着けたその1名もヴェスペの運賃を聞いて、スゴスゴと席に着く。
まあ体の小さい子供ばかりなので狭い所でも寝れるのだけれど。
実際にシンドイのは大人の元国王だけだ。
ローザも大人だがドワーフなので体は小さい……縦の話だけど。
そしてそのまま数時間が過ぎる。
まだ動かない列車に子供達は退屈し始めた。
ての中のお菓子は殆どの者が食べ尽くした後だ。
クリスティナはウツラウツラと船を漕ぎ始めている。
もう少しで寝入りそうになる頃合いに、ヴィーゼが一粒だけを残したドロップの缶のカランカランという音にハッと目を空ける。
その度に窓の外を覗いてガッカリ。
動かない車窓はヤッパリ退屈なのだ。
「ヴィーゼ……その一個、食べちゃえば?」
ペトラはそんなクリスティナが気になって仕方がなかった。
それに自身も退屈していたのだ。
クリスティナはそんなだし、ムーズとの話も尽きた。
てかコテコテの庶民育ちのペトラと生粋のお嬢様のムーズではそもそもが話が合わない。
最近に成って一緒に遊びはするが……そんな1年2年の話題などはすぐに終わってしまう。
なので暇潰しの切っ掛け作りの一言だ。
「ええ……食べちゃったら無くなるじゃん」
それにヴィーゼは何時でも誰でも、声を掛ければ答えてくれる。
「こうやって振れば音がするし、まだ残ってるってホッとするじゃん」
カランカランと缶を振った。
「無くなったら、また買えばいいじゃないの」
それは後ろからマリーだった。
「そう言う問題でも無いと思うよ」
また別の所から、犬耳のエレンだ。
「新しく買うのは駄目なの?」
首を捻るムーズ。
犬耳三姉妹は顔を見合わせて苦笑い。
その組に混じっていたエルがボソリと返事。
「カラカラと音を立てて居ると、バルタが気にして自分の方を向いてくれるからよ」
「それは逆だと思う」
タヌキ耳のイナ。
「小さい頃に暗い檻に閉じ込められて居た時……赤ん坊のヴィーゼが音を立てて遊んでいるとバルタが安心するのよ、まだ生きてるってね」
「なにそれ……そんなヘビーな理由なの?」
マリーは顔をしかめた。
「赤ん坊の面倒を見るのはバルタの役目だったのだけど……それでも沢山死んだからね」
エノも普通の声音で続けた。
「赤ん坊が死んでも、バルタが盗賊に怒られる事も無かったけど……それでもバルタが暫くはシュンとするから」
「赤ん坊でもバルタには笑ってて欲しかったんじゃないのかな」
アンナが昔を思い出す様に、目を閉じて。
「辛かったけど、皆で笑ってれば我慢も出来たしね」
「エルがうるさいのも……おんなじ理由だし」
ネーヴも付け足した。
「二人に取っては……お母さんだからね」
「別にそんなじゃ無いわよ」
エルはそれを否定した。
「それにうるさくはしていないし」
「そうお? 声は大きいし、何か有れば1番に声を出すじゃない」
エレンは笑った。
「赤ん坊の時も……今でも」
「エルフの能力でバルタが辛いとか悲しいとかがわかるからか、それですぐに泣いてたよね」
頷いたアンナ。
「だから、この二人がうるさいのは仕方無いのよ」
「その盗賊に捕まっておった時は……他に年上は居らんかったのか?」
元国王が尋ねた。
「居たよ……沢山ね」
「エルも最初はエルフのお姉さん達に順番に面倒を見て貰ってたのだけどね」
「でもすぐに居なくなるから、結局はそれがバルタに成ったかんじ」
犬耳三姉妹もそのお姉さん達にお世話に成ったと、そんな感じだ。
「猫耳は……どうしても売れ残るから」
バルタも思い出したのだろうボソリと。
「もしあの時……パトに助け出されて居なかったらたぶん……」
言い難そうにして、途中で止めた。
「そうね……3つ年下の私達の方が先に売れたでしょうね」
イナがそれを続けた。
「私達も3つ年下だし……後は順番がどうなるかだけで」
そしてエノも頷く。
「結局はバルタが赤ん坊の面倒を見るのが一番良かったのよ」
エレンも頷いた。
「私達5人がバルタにそれほど依存しなかったのもそれが理由だとも思う……自分達の方が先だとわかっていたから」
アンナも頷いていた。
「まあ、この5人は本当の家族を覚えていたってのも有るんだけどね」
ネーヴは笑いながらに頷いた。
そんな話を普通にして、普通に聞いている8人の子供達。
ムーズとペトラは黙り込んでいた。
ムーズも両親は早くに亡くしたが……それでも姉とお爺さんが居た。
ペトラは母親の記憶は薄いけど、父親はたぶんまだ何処かで生きている筈……犯罪奴隷として売られたけれど、奴隷は無くなっても犯罪者では無くなるわけではない。だから何処かに収監されているか……それとも上手く逃げたのか。
どちらにしても探す方法も無いし、もし生きて逃げているならそれは探さない方が良いとも思う。
貴族相手にクーデターを起こしたテロリストなのだから、国が変わっても許される筈は……絶対に無いからだ。
それでも二人には、両親の記憶が有る。
たぶんエルやヴィーゼよりも不幸では無いだろう。
犬耳三姉妹やタヌキ耳姉妹にもだと思う。
そしてチラリとアマルティアを見たマリー。
見られたアマルティアは笑っていた。
今の話でも笑えるのだ……たぶんアマルティアも似たような感じなのだろう。
そしてそれはクリスティナもそうだ。
城の地下牢で育ったのだ……大きく違うわけもない。
いやマリーは良く知っていた。
城の地下に有ったエルフの子供の脳を繋げた集積回路の様なモノを設計したのはマリーだからだ。
元国王に言われてICだかコンピューターだかの理屈を聞いて、それならエルフの念話で繋がる力を使えば出来るのではと考えたのが始まり。
もちろん本物のエルフの脳を取り出したわけではない。
それ以前に研究していたクローンを使ったのだ……マリーの今の体もクローンでそこに以前の意識、魂を入れ込んでいるから同一人物では有るのだけれど。
集積回路に使用するエルフの脳はそのままプレーンなモノだ。
意識や魂をコピーしても、実用上……邪魔に成るからだ。
そして、そのクローンの元は……城の地下に居たエルフの子供だった。
いや……いいわけをすれば。
設計はしたが実行はしていない。
それ以前に元国王がその座を追われたから、遣らなかったし出来なかった。
だから、私も元国王も……エルフを拐えろとの命令も指示も出しては居ない。
やったのは次の国王だ。
……。
もちろんただのいいわけだ。
でも、それに腹を立てた私と元国王は国どころか、この世界の全ての人を滅ぼそうとした。
魔王に成る決意をした理由がそれだったのだ。
大きく首を振ったマリー。
違うな理由では有るのだが……切っ掛けに成っただけだ。
戦争の為とはいえ……他種族を平気で虐殺するのなら、それを私達でやろうとしたのだ。
戦争も平和も虐殺も……全てが平等であるべきだと傲慢にも考えたのだ。
ファウスト・パトローネに会うその時までは……だ。
あの男に救われたのだ。
止めて貰えて本当に良かったと思う……クリスティナを見ていればもちろんそうだし。
ペトラもそうだ。
他の皆も生きていてくれて良かったと思う……。
殺さなくて良かったと。




