049 バルタの事情聴取
バルタのに気圧されたマリーは、体をもじりシドロモドロと話し出す。
要領の得ない言い訳混じりの話だった。
わけがわからないと首を捻るバルタに追い討ちを掛ける様に背後から怒鳴り声。
「突然に出てきて邪魔するな」
わけがわからなかったのはチャボーも同じ……突然に変わった雰囲気に戸惑ううちに喧嘩がウヤムヤに為りそうに成っている。
バルタはその声を無視した。
その上で……チラリとムーズとクリスティを見る。
事の発端はドッチだ?
見られた二人も話し出す
マリーの話に自分達も出てくるからだ……それも最初の方。
勢い込んで話すムーズと、つっかえつっかえ話すクリスティナ。
でも、二人の話の最初は「違うのよ」そしてそのワードは何度も出てきた。
どちらにしても言い訳が最初だ。
それらの言い訳を差し引いて、時系列だけを追い掛けると……この街の女の子にペンギン。
バルタは次にペンギンを見た。
もちろんペンギンの言葉はわからない……が、ペンギンもまた言い訳がしたいような身ぶり手振りだ。
自分は無関係とそう告げて見えた。
ウーンと唸るバルタ。
幾つかの話を繋ぎ合わせても、それがどう喧嘩に繋がるのかがサッパリだ。
仕方無い……。
振り向いたバルタはチャボー……の、その後ろに隠れる様にしていた三人の女の子に聞いてみる事にした。
スタスタとそちらに歩いて行く。
雨は止んだが、相変わらず傘は差したままだ。
「無視するな!」
少しづつと近付くバルタに叫ぶチャボー。
「近付くな!」
あまりにもウルサイのでそちらを向いたバルタ。
でも、興奮し過ぎているチャボーには何を聞いても駄目なのだろうと、横を通り過ぎて歩みは三人の女の子へと続ける。
「何処へ行く!」
異様な雰囲気や違和感よりも興奮が勝ったチャボーは、叫んでバルタに手を出した。
背後から延びる手。
捕まえに掛かったのだろう……その手がクルリと立てに回った。
同時に体も回る。
いまだに背中に張り付いていたヴィーゼがピョンと上に跳ねて着地。
転がったチャボーの腹の上にだった。
わけがわからないと驚いた様子のチャボー。
地面に上を向いて寝転ばされてはいるのだが、衝撃は転んだ時の背中と上から落ちてきたヴィーゼの蹴り? 踏んづけ?。
痛かったのは後者の様だが……それでも体重が軽いので顔をしかめた程度だ。
「頑丈……」
ヴィーゼの呟きも聞こえてきた。
バルタはその呟きも無視した。
叱る相手は当事者……直接に喧嘩をしているヴィーゼなのだから、その前に立つのは話を聞いた後の最後だ。
また歩を進めるバルタ。
背後から叫びと共に、また手が延びる。
でも結果は同じ。
立てに回転してバルタの前に転がる。
さっきと違うのはヴィーゼの腹への追撃が無かっただけだ。
その横を通り過ぎ様とした時。
またチャボーが立ち上がった。
3度目だ。
痛みもダメージも最初ヴィーゼの踏みつけだけ。
ただ転がされているだけだから驚き半分、怒りが半分。
「うおおおお……」
そう叫びを上げ終わる前に、今度はうつ伏せに倒された。
ブベッと。
そして上から後頭部に向かって。
「シツコイ」
その声音にはたいした感情も乗せられてはいなかった。
ただ普通にそう言葉にしただけだ。
だが3回目は何をされたかはわかった。
それはチャボーだけでなく、見ていた他の者にもわかりやすくだ。
チャボーの足が着いていた地面の砂利が後ろにパンと跳ねたからだった。
それはバルタが地面を直接に蹴ったわけでは無い。
踏ん張るチャボーの足を蹴ったからそうなったのだ。
そして3度目のそれで、流石のチャボーも理解した。
勝てない……と。
立つ事すら赦してくれない事にも気付いた。
痛みは無いが……何も出来ない事への恐怖も感じた。
攻撃するその前の自由すらも奪われたのだ。
顔だけを上げて見上げたチャボー。
バルタは傘はそのままに歩いて行く、その後ろ姿を見れる自由は残されていた様だ。
バルタは子供達と街の三人の女の子を一纏めにしてその前に立つ。
チャボーとヴィーゼはバルタの後ろで正座だ。
「おおむねはわかった」
ただ1人、傘を差したまま頷いた。
街の三人の女の子を見て。
「ペンギンが可愛かったから声を掛けようとした……と」
頷く三人の女の子。
ムーズを見て。
「クリスティナが怯えて居るのが見えて、間に入った……と」
ムーズはそれにはボソリと付け足した。
「たまたま少し嫌な事が有って……ホンの少しだけど気が立っていた……気はする」
「威圧されたの……まるで私達が獣人を馬鹿にしてるみたいな言い方で」
それに対して、三人の女の子が訴えた。
「獣人を馬鹿にしてたのは本当じゃなの」
ヴィーゼがそこに口を挟む。
「私に対して黙りなさいって……言った」
「私達は別に獣人を馬鹿にも差別もしていません」
駅の方を指差して。
「この街の半分はドワーフなの、そして半分の半分は獣人やその他の亜人よ……つまりは人族の方が少ないのよ」
「でも言ったよね?」
「それは、あなたがまだ小さかったからよ……それに獣人は差別される側だから自己主張は気を付けてって、言おうとしたのよ」
「気を付けるとは?」
バルタも猫耳の獣人だ……気には成る。
「列車が着いまだ3日だから……まだ街の中には他所の街の人も居るだろうから目立たない方が良いって事です」
「他所の街?」
「大半の人は列車から降りてスグに移動を始めるけど……少しはその出発が遅れる人も出てくるのよ……ほら街から町への移動は危ないから」
「まあ……街の外には魔物も居るしね」
「そう……だから護衛を雇うのに遅れた人達は、それを待つの」
少し間を置いて。
「獣人や亜人の護衛を嫌がる人は特に……」
「それを教えるために? と」
頷いたバルタ。
「そう……実際にこの街に住んでいる亜人の人や獣人の人達は、列車が駅に着いてから5日くらいは余り外を出歩かない様にしているのよ、嫌な想いをしない為にだけど」
「そう言えば……余り見掛けなかったわね」
マリーも頷いた。
「で……そのついでにでは無いけれど……お友達に成れそうかもと、思ったの」
クリスティナを見てヴィーゼを見た街の三人の女の子。
「同じ服で揃えて、楽しそうにしてたから」
「差別はしていないと……思ったわけね」
頷いた三人の女の子。
「でも……本当のところはわからないから、声の掛け方が難しかっただけ」
フムフムとバルタ。
「でも……それだったら、何で喧嘩に?」
ヴィーゼとチャボーを見た。
「売ってきたのはそっち」
ヴィーゼは慌ててチャボーを指差した。
「いや……御嬢様達が逃げるのが見えたから」
ボソボソとチャボー。
「てっきりイジメられて居るのかと……逆に人族を毛嫌いしている亜人や獣人も居るから」
「いきなり来て……誰にイジメられたって騒いで」
三人の女の子は目を伏せる。
「いつの間にか……こうなった」
「つまりは……勘違いって事……ね」
溜め息を吐くバルタは苦笑い。
「まあ良いわ……わかった」
女の子三人を見て。
「友達に成りたかった」
ムーズを見て。
「差別をする側だと思った」
全員を見て。
「遊んできたら? 友達に成れるんじゃないの?」
皆も頷いた。
そして振り返るバルタ。
正座の二人だ。
「さてあなた達だけど……」
「私も遊んできていいよね?」
ヴィーゼが立ち上がろうとするのを目線で止めたバルタ。
「あんたは後で話が有る……」
その一言で、元の正座に戻った。
いや……もっと小さく成っての正座だ。
「怒られる……」
心の声が漏れだしてもいた。
「俺は……もう……」
チャボーは下からバルタを覗いた。
言いたい続きは……いいよね? か?
それとも……反省した。か?
喧嘩はしない……か?
まあ、それらを全部引っ括めてなのだろう。
「痛い目も見ただろうし……これから喧嘩を売る時は良く相手を見る事ね」
喧嘩をするな! とは言わない。
「一度、冷静に成る事を覚えた方が良いわよ」
注意はそれで終わらした。
頷いたチャボーはノソノソと立ち上がる。
そして横のヴィーゼもそれに便乗しようと立ち上がろうとした。
「あんたはまだよ」
もう一度正座に戻るヴィーゼ。
「もうしないから……」
ボソリと泣き言。
反省では無いらしい。
「そうね……それについて、ジックリと話をしましょうか」




