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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
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004 子供達のお仕事とその依頼

おっと……寝てもた!



 長いテーブルの周りに、立っている者も居なくなり。

 各々が食事を始める。

 静に……行儀良く……等とは成らない。

 少なくとも犬耳三姉妹とヴィーゼは静に出来る筈もなかった。

 とにかく喋る。

 口の中に目一杯に放り込んでいても……喋る。

 今日の出来事を落ちも無くただ話す。

 

 ヴェルダンの爺さんも諦めつつの溜め息。

 「24人も居れば……何時もながらにうるさい」

 皿の上の肉をフォークでつつきながらの愚痴をボソリと漏らした。

 それもまた何時もの事なので誰も気にもしない。


 そこにもう一人がやって来た。

 背が低いが肉感的な娘。

 ドワーフのローザだった。

 「エェ……待っててくれても良いじゃない」

 ボソリと呟き、空いたスペース……エルの横に座った。


 そのエル。

 右手のナイフで、今来たローザも含めての皆の人数を数える。

 「24人……」

 フムと首を捻った。

 「パトを人数にいれてたのかしら? それとも赤ん坊のぶん? はてさて……」

 

 「細かい事は気にするな」

 ヴェルダンの爺さんがボソリ。

 

 「ん?」

 ローザも首を少しだけ捻った。

 たぶん自分の事かなと……そんな気がしたからだ。

 まあしかし、別段たいした事でも無いのだろうと目の前の肉にフォークを突き刺し口に運ぶ。

 大きな塊の肉だ。

 が、そこで止まった。

 綺麗に良く焼けた肉……見た目は良い。

 しかし、アレ? っと眉を寄せたローザは肉の臭いを嗅いだ。

 クンクンとスンスンと……。

 「臭くない?」


 「誰かトイレを流し忘れたんじゃない?」

 横にいるエル。

 エルはその臭いはわかっていた。

 「それとも……ヴィーゼかな? 屁でも漏らした? すかしっぺ」


 「私は臭くない!」

 エルを睨んだヴィーゼ。

 

 「そうよね……今のは良くないと思う」

 イナがエルを窘めた。


 「ヴィーゼが気にしてる事を言うのは虐めだよ」

 エノも続けて。

 

 「気にしてたの?」

 そこに割って入ったマリー。

 「ああ……そうか、イタチだものね。だからしょっちゅう風呂に入っているのか……なるほど」

 一人で完結して納得と頷いている。

 

 そのマリーは無視する様にエレンが話を肉に戻した。

 「火薬の硫黄の臭いだよ」

 ローザに説明。


 アンナも続けて。

 「でっかい魔物を狩ったのだけど……トドメはエルの榴弾だったの」


 「だから少しだけ気を付けて食べた方が良いよ……肉の中に金属片が残っているかもだから」

 ネーヴは自分でそう言っておいて、口の中には思いっきり頬張った肉の塊。


 「何でまた……榴弾で?」

 ローザは目の前のフォークに刺さった肉に顔をしかめつつ。

 そして……恐る恐ると口に運ぶ。

 「味は美味しいのに……勿体無い」


 「ヴィーゼが外しまくったのよ」

 横のエル。

 「無駄弾をたっぷりと使ってね」

 

 方眉を上げてエルを見たローザ。

 「なるほど……さっきの臭いの話はソレの嫌味か」

 聞こえない程の小さな声で頷く。


 「おかげ様で……今のルノーft-17軽戦車は弾無しよ」

 肩を小さく竦めて見せるエル。

 「ただの装甲車」


 「別段、それでも良いと思うのだけど……駄目なの?」

 それまで大人しくしていたクリスティナが隣に座るバルタに尋ねる。

 その返事を待たずに続けて。

 「もう戦争もしてないし……それにアノ小さい戦車じゃあ他の戦車とは戦えないのでしょう? ってことは魔物相手なら機銃でも良いとは成らないのかな?」

 

 七才のクリスティナの的確な答えに苦笑いで返すだけのバルタ。

 確かにその通りだ。

 当たらない上に威嚇にも成らない様では意味は無い。

 魔物の種類にも依るのだろうけど……今日の魔物はまったくと言っても良い程に、気にしていなかった様にも見えた。


 「駄目よ……そんなのは論外」

 バルタの横に座るヴィーゼにもクリスティナの声が聞こえていた様だ。

 「戦車なんだから……大砲が付いているんだから撃てないのは駄目なの」


 「そうね……確かにソレだとロマンが無いわね」

 ローザも頷いている。

 「補給しとこうか?」

 目元は微笑んでいた。

 

 「……お金がない」

 そのローザから視線を外したヴィーゼがボソリと漏らす。


 ローザの目元の笑みが消えた。

 そして、何も言わずに肩を竦めて料理に戻った。

 売れないと悟った様だ。


 「ねえ……貸といてくれない?」

 ヴィーゼはそんな御願いをしてみる。

 視線は横目でチラチラとローザに。


 「もう随分と貸してる気がするけど?」

 ローザの返答は冷たくも聞こえた。

 「前の分の返済は何時?」


 「前のって……」

 口ごもるヴィーゼ。

 そして今度はキッとローザを睨んで。

 「そもそも高過ぎると思う……私達のお小遣いは知ってるでしょう?」


 「だから儲けは取って無いよ」

 ヴィーゼを見て。

 「アレで原価だから」


 「じゃあどうしろって言うのよ」

 泣きべそ寸前のヴィーゼ。


 「お金は稼がないと駄目だと思う」

 そこにクリスティナの正論が飛んで来た。

 「借りたお金は返さないと駄目だと思うの」


 「そんなの言われなくてもわかってるわよ」

 首をクルリとクリスティナに向けたヴィーゼが叫んだ。

 「だから頑張って魔物退治とか……いろいろ……」

 後半は声も萎んで小さく成っていった。


 「頑張るのは当たり前だと思う」

 クリスティナも負けじと声を出す。

 ただほんの少しだけバルタの影には隠れてだったが。

 年は近い二人だけど……七才のクリスティナは八才のヴィーゼが、たまに少しだけ怖いのだ。


 でもその逆も有る。

 ヴィーゼも一つ年下のクリスティナに言われる正論は辛いのだ。

 だからか、何時も最後には目元が潤んで終る。

 言い返せない。


 「ふむ……話は聞いた」

 突然に声を上げた元国王、目線は目の前の食事を見たまま。

 「ならその金はワシが出してやっても良いぞ……ただし仕事を御願いするがな」


 席としては離れた所からの声。

 ヴィーゼは即座にそちらを向く。

 「本当に?」

 潤んだ瞳を元国王に投げ掛ける様にしてだった。

 

 「仕事って何?」

 しかしエルはそれには冷静に質問をした。


 ヴィーゼの鋭い視線がエルに向く。

 そんなのは何だって良いじゃない。

 気が変わらないうちに頷かせる方が大事よ……とそんな意味の視線だ。


 もちろんエルはその意味も気付いてヴィーゼを無視して元国王を見続ける。


 「何……簡単な仕事じゃ」

 肉を刻んで少し口に運びつつ元国王は続けて。

 「ワシを王都まで連れて行って欲しいのじゃ……それだけじゃ」

 

 「ソレって護衛?」

 エルが小さく首を捻る。

 「護衛が必要な程に弱くは無いでしょう?」

 元国王のネクロマンサーとしてのスキルはこの世界でも最強の部類の筈だ。


 「じゃから道案内と、旅の道連れじゃな」

 スープをスプーンで救い……ズズズっと。

 「まあ道案内もいらんのじゃが……退屈しのぎ、かの?」


 「経費は?」

 エルが考えながら。


 「ワシが持つよ」

 頷いた元国王。


 それでも考えるのが止められないエル。

 「でもどうして王都?」


 その問いに元国王は食事から目線を外してエルを見る。

 「どうも最近、スキルがおかしい」

 次に自身の掌を見詰めて。

 「使役している筈のゾンビやゴーレム達の距離感が遠く為った気がする」


 「私の錬金術師のスキルも少し弱く成っている様だし……あなた達はどう?」

 元国王の横に座るマリーが皆に尋ねる様に。


 問われた娘達。

 其々に頷いていた。

 「確かに言われて見れば……」

 何処かしこから漏れる声。


 「でもソレが何故……王都?」

 エルも自分もだろうかと頭の片隅に引っ掛かるモノを感じつつ首を捻り。

 

 元国王はペトラを右手のナイフで指して。

 「この世界の神の様な存在のドラゴンが何かしたのではと思うてな」

 今現在、王都の城にはその件のドラゴンが住んでいる。

 そして、以前にエルフの能力に制限を掛けたのもそのドラゴンだった。

 「お前達に頼むのは……まあ、娘を連れて行けば多少の頼み事も聞いてくれるかもしれんしの」


 その場の全員がペトラを見た。

 「え……私?」

 見られたペトラは完全に引きぎみの声を漏らす。


 「なるほど……あのドラゴンさん」

 ウンウンと頷くクリスティナ。

 「自分の本当の娘には弱そうだもんね」


 それにはやはりか全員が同意した。

 そう見えるとかでは無く、それが真実だと疑わないそんな力強い頷きだった。

 

 ただし当のペトラだけは首を傾げる。

 ペトラに有る記憶の中の父親は、小さな村で運送業を営んで居た人間の筈なのだ。

 実際のところ、そのどちらも正解なのだけど……ペトラ自身が元は不死の思念体で、人間の体に転生している、そしてその大き過ぎる記憶を別の場所に保管してまた人間の寿命が終われば思念体に戻りその記憶を元の自分に戻すを、何度も繰り返していた。

 つまりは今は、人間の姿なので記憶も人間に産まれてからの物しかない。

 何故にそんな事をしているか。

 それは、この世界を造ったのが思念体のペトラだからだ。

 自分の造った箱庭のこの世界に人間として転生するのはとても楽しいこと、ワクワクする事だからだった。

 また思いっきり世界を楽しむ為には前世の記憶、永遠に生きた記憶等は無い方が良い。

 それは邪魔に成るだけと言うのも丁度良い理屈でも有った。

 どうせ死ねば全てを思い出すのだから、その時に今回の人生はこんな感じでと余韻に浸れば良いのだ。

 当たりか外れかは笑って振り返れる。

 なのだが……今のペトラは、まだその途中なのでそれもわからない。

 やっぱり首を捻るしかない事なのだ。


 因みにだが、この世界を造ったのはペトラだが。

 この世界をソウゾウしたのはファウストだ。

 ここよりも異世界の日本と言う所で死んで、こちらに思念体として転生してきた。

 その時にはこの世界は何も無く、それこそ光も闇も時間すら無い様な無の空間だった。

 そこに現れた体を持たない魂だけの存在のファウストの記憶の中を覗いたペトラがとてもワクワクした。

 光と大地に人間や動物や植物がそこかしこで動いている、何も無い世界に長く生きたペトラにはどうしてもそこに行ってみたいと思わせるモノばかりだった。

 しかし、そこにはどうしても行けない。

 考えて悩んだペトラは、ファウストの記憶を模して世界を造る事にした。

 それがこの世界だった。

 ファウストの名前はそこに由来してもいる。

 この世界に最初に現れた異世界の記憶を持った転生者。

 ファーストが訛ってファウストに為ったのだ。

 

 ペトラとファウスト……ついでにドラゴンもだが、この世界では神の様な存在なのだ。

 なのだが、ドラゴン以外はそれの記憶も理解も無いので……神託やら奇跡やらは何も無い、信仰の対象にすら成れない只の人。

 もちろん死んで思念体に戻れば世界に干渉は出来るのだが、ファウストはそれも遣らない。

 世界に生きるものは勝手に生きて勝手に死んでいくモノ、世界を繁栄させるのも世界を滅亡に向かわせるのも各々の個の行動の結果次第で、その行く末には全く興味がないのがファウストだった。

 一方のペトラの方は思念体の間にチョイチョイ干渉をしている様だ。

 ほぼ完成している世界なので大きくは変えれはしないが、小さくスキルを弄ったりしている。

 本当はもう少し大きく変えたい所も有る様だが……その元となるソウゾウの部分でのファウストの協力が得られないので断念しているとそんな感じだ。

 自分で勝手に大きく変えると壊れそうで怖いのだ。

 設計図を描いた人と実際に造った人……端的に言えばそんな感じ。


 ドラゴンの方はそんな二人をただ見ていただけの存在。

 まあ暇なので、ペトラの世界の管理人とペトラの記憶の保管場所を守るそんな仕事をしていた。

 姿がドラゴンなのは、ファウストの記憶の中で頭が一番に大きかったから、器が大きければそれだけ記憶を覚えていられる。

 そんな理由だ。


 さてそんな事は今のペトラには関係がない話なのだが、一応はその事を知っている元国王は上手く利用してやろうと目論んだと……それは理解したペトラ。

 苦笑いで頷いておいた。

 実感の持てない父親にねだるのか、嫌だな……と、それが本音。

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