表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
49/233

048 チャボーvsヴィーゼ


 「ヴィーゼの喧嘩……初めて見たけど凄いわね」

 けしかけたのは自分なのに、マリーは驚いていた。

 

 走って動き回りながら、相手からの距離を常に一定に保ち、スキを見つけてか突然に近づいての攻撃。

 その間……一切相手に触れさせもしない。


 「アレでも……バルタの足元にも及ばないけどね」

背後に立っていたイナが、マリーの漏らしただけの呟きに返事を返した。

 「でも……相手も強いみたいね。苦戦している」

エノの返事はマリーにだろうか、それともイナに声をかけたのだろうか。

それを図りかねても聞いてみたい。

 「あのチャボーって子……実は強かった?」


 「ヴィーゼは正確にレバーブローを入れてるけど……」

 「まったく効いてないね」


 「レバーブローって?」


 イナが横のエノの脇腹を殴る格好をして見せる。

 「背の低いヴィーゼの得意技……低く構えて拳を衝き出せばだいたいソコに当たるから」

 「軽く叩いただけでもムチャクチャ痛い場所なんだけどね」

 エノは殴られた振りなのだろうか、そこを両手で押さえてカバーした。


 ふーん……と、返事をかえして。

 良く良く見てみれば……確かにヴィーゼが殴る場所は体の横で何時も同じだ。

 そして、顎に手をあてた。

 「でも……それでも倒せないなら、ヴィーゼが強いってのもたかが知れてる?」


 「そんな事でも無いわ……」

 イナは少し離れた位置にたつアマルティアを指差して。

 「軽い体重やそんなに強くない筋肉でも、それを補うモノが有れば良いのよ」

 

 アマルティアはヴィーゼのナイフを握って居た。


 「それよりも敵の攻撃が当たらないって事の方が重要だよね」

 エノはヴィーゼを指差す。

 「攻撃は隙をつくるから、空振りさせれば近付けるし……ヴィーゼに攻撃手段が有ればそれで終わり」


 チャボーの攻撃よりもヴィーゼの移動の方が早く見える。

 小さな的が動き続けているので余計に当たらないのだろうか。


 「ちなみにだけどヴィーゼは持久力も有るわよ」

 「エレン達程では無いけど……あの三人は別次元だし比べてもしょうがないけど」


 「なら……チャボーが強いのか」


 「別に強くは無いけど……タイプはエレン達とおなじかな?」

 「とにかく打たれ強くて頑丈って感じ?」


 「まあ……我慢比べってとこかな?」

 「エレン達ならその我慢も無限だけどね」


 「呼んだ?」

 そのエレン達が歩いて近付いて来ていた。


 「あ、来たんだ」

 イナが笑った。


 「なんだか面白そうな事をしているから気になるじゃないの」

 エレンも笑う。


 「ねえ……あなたなら簡単に勝てる? アレに」 

 マリーはエレンに聞いてみた。

 子供達に聞いていた話ではヴィーゼの方が強いと成っていたけど……今、見ればそれはどうなのだろうとも思えたからだ。

 武器の無いただの喧嘩……それを条件として考えたらばだが。


 「私だけ? それとも私達三人で?」

 チャボーの動きを目で追いながら考えている様だ。

 そして……唸って出た答えは。

 「一人なら勝てないかな?」


 「まあ……エレン達はセットだから」

 イナもエノも同意した。


 「力は私達の方が有るけど……ヴィーゼみたいに紙一重でかわすのは無理だし、ヤッパリ決定打が無いね」

 エレンのそれにアンナとネーヴも頷いている。


 「三人掛かりなら負けない?」

 マリーは条件のレベルを1つ上げた。


 「どうだろう?」

 エレンはアンナをチラリと見て。

 見られたアンナは、少しだけ考えて。

 「遣り様は有ると思うけど」

 アンナはネーヴに顔を向ける。

 「勝てるかどうかは別にしても……負ける事は無いと思う」

 大きく頷くネーヴ。

 「まあ、そうなるよね」

 その答えに二人も頷く。


 つまりは三人掛かりでも、今のヴィーゼと同じって事か。

 ならばとイナとエノを見たマリー。


 「無理だし」

 二人は同時に首を左右に振った。

 「私達は普通だから」


 その後ろに居たエルも、聞きもしていないのに首を振っていた。

 まあそれは予想が付く……獣人とはいえ半分はエルフの混血だ、どちらかと言えば人に近い感じなのだろう。

 そう考えるとペトラもクリスティナも、もちろんムーズも喧嘩は無理そうか。

 もちろんそれは自分も含めてだ。

 

 「なら……ローザね」

 マリーはここに居ない名前を上げてみた。

 「ドワーフだから力も強いだろうし……どう?」


 「ローザが喧嘩をするワケ無いじゃん」

 聞いてみたエレンは笑う。

 「もういい大人だよ」

 

 「子供の喧嘩を止める事は有っても自分からはやらないよね」

 アンナも首を振る。


 「逆にローザがやるって言ったら……引くけどね」

 ネーヴは頷く。


 ローザの年は……19才か……。

 マリーは自分の眉が寄るのがわかった。

 私よりも遥かに年下で小娘じゃないの……それが喧嘩をすると引くって……。

 ちょっと待て……喧嘩をけしかけた私ってバカにされてる?

 なんだろう、少しムカついてきた。

 見た目は子供だけど中身は大人なのよ!


 キッとエレン達を睨み付けると……その三人は苦い顔をし始めた。

 目線はヴィーゼを見たままなので、マリーに対してでは無い様だ。

 「まずいね……」

 「だいぶイライラしてきたようね」

 「ヴィーゼは短気だし、集中力は凄いけど近視眼的に目の前の事しか見えなくなるから……やるかも」

 三人は真剣な顔に変わった。


 マリーはそれに釣られる様にヴィーゼの方を見た。

 今はチャボーの背中に取り付いている。

 チャボーからすればおんぶをしている格好だ。

 もちろんそれは拒否したいのだろう、手足をバタつかせて背中のヴィーゼを振り払おうとしている。


 「勝てそうじゃない……何がダメなの? アレの」

 マリーにはそう見える。

 

 「アレは最後の武器を使う時の体勢……」

 

 「武器?」

 アマルティアはヴィーゼのナイフを持ったままだ。

 「まだ何かを持ってたの?」


 「歯だよ……噛み付き」

 「背中に回ってうなじに噛み付くの」

 「あれだけ太い首なら脛椎損傷はしないだろうけど……肉を噛み切られれば大怪我ね」

 

 脛椎損傷?

 マリーは血の気が引いた。

 バイク事故等でヘルメットは直接頭は守っても首の骨に損傷が残る事が有る……それは高確率で後遺症を遺す事に成る怪我だ。 

 そうなればもう子供の喧嘩では無くなる。

 ダメよ! 噛んじゃあ!

 大きく口を開いて叫ぼうとした時……もっと大きな声が飛んで来た。


 「ヴィーゼ! なにやってるの!」

 喧嘩の最中のヴィーゼも含めての全員が動きを完全に止めて……そちらを向いた。

 チャボーも釣られてか……向く。


 そこに居たのはバルタ。

 もう雨は止んでいるのに傘を差して立っていた。

 そして睨んでいる。

 小さな体なのに威圧感が半端無い。


 「どういう事? 誰か説明できる?」

 音も無くに近付いてきた。


 そのバルタの足下が気になるマリー。

 線路の敷砂利はどんなに気を付けて歩いても、少しは音がするものだ……なのにバルタが歩いても無音だ。

 そしてもう1つの異変。

 獣人の子供達……アマルティアを除いた全員が硬直したように固まっている。

 バルタは石化のスキルでも持っているのだろうかとも思える程に微動だにしない子供達。

 いや僅かに震えている様にも見えるのでスキルでは無いとわかった。

 怯えている?


 バルタは犬耳三姉妹を見た。

 見られた三人はフルフルと首を振る。

 目で私達は知らないと、そう訴えてだ。


 次に見られたタヌキ耳姉妹。

 自分達が出せる最大限の力を使って……目を伏せた。

 声を発する力まで使いきっての事と、そう見える。

 だからバルタの問いに答えられない……と。


 そしてエルは……何処を探しても見付からない。

 さっきまでは犬耳三姉妹の後ろに居た筈なのに。

 そう言えば、少し変だったと気付いた。

 何時もは何にでも首を突っ込んで、前に立とうとするのに今回に限ってそれがない。

 今にして思えば、出来るだけ自分の影を薄くしていた様にも思う。

 もしバルタに見付かったら怒られると、それを予想しての行動だったのだろうか?


 そして今。

 明らかにバルタは怒っていた。

 喧嘩をしているヴィーゼにも、それを見ていた私達に対してもだ。


 でも……それも少し不思議に見える。

 年は16才でも、体は小さいし華奢だし……どう見ても子供にしか見えない容姿で、この威圧感。

 端から見れば……自分も含めてだけど、異様な光景にも見える。

 ……ここまで怯えるモノなのか?


 そのバルタはマリーの前に立った。

 目線は少し上に有るだけで、ただ普通に立っている。

 

 そして一呼吸置いて。

 「説明して……」

 そう言ってマリーを見るバルタ。


 ただ立って、見られているだけなのに……背中に汗が伝う。

 なぜ?

 私も怖い?


 恐る恐ると口を開いた私。

 自分の意思では無い様にも感じる、その動作だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ